第13話:ハンバーガーと黄金の麦畑
ポチャ、ポチャ……と、温泉の湯が静かに波紋を描いていた。
露天風呂。朝日を浴びながら、カードは湯に肩までつかっていた。心地よい温かさが、激闘の疲れをほぐしていく。
「ふぅ……。やはり湯というものは、戦の後に限る」
眼を細めながら、カードは空を仰ぐ。
(……しかし)
その思考は、すぐに“胃”の領域へと移った。
(いくら私がステーキ好きとはいえ……毎日毎日では、いささか飽きてくる)
彼は真剣に考えていた。
(ステーキと並ぶ、私のもう一つの愛……そう、それは――ハンバーガー)
かつての世界、大統領時代。ホワイトハウスの裏庭で自ら焼いたパティに、厚切りベーコン、濃厚チェダーチーズ、そしてケチャップとマスタードを贅沢に使った“セルフファーストバーガー”。
「……あの味を、もう一度」
カードは組合長のガウチ・モーゼスモーゼスの元へ行った。
モーゼスの一言
「ハンバーガー?それが何かは知らねぇが……パンと肉の料理なら、カンザシ町が有名だ。あそこは小麦がよく獲れるからな」
その言葉に、カードの目がキラリと光る。
「よろしい。出発の準備をしよう。私の次の任務は決まった――ハンバーガー探訪だ」
黄金の町・カンザシへ
入浴町を後にしたカードは、一路カンザシ町を目指した。道中、風は乾き、地面は割れていた。馬車の車輪が土煙を巻き上げる。
数日後――
「……ここが、カンザシ町か」
町の入り口に立ったカードの目に飛び込んできたのは、一面の小麦畑だった。金色の絨毯がどこまでも広がっている。
(これは素晴らしい……この麦から、ふっくらとしたバンズができるに違いない)
だが、すぐに違和感を覚えた。
「……?」
黄金色の麦穂たちが、どこか力を失っている。葉の端は茶色く枯れ、穂は垂れ下がっている。
「……様子がおかしいな」
カードが畑に足を踏み入れたとき、一人の農家が現れた。麦わら帽子を深くかぶり、顔には汗と疲れがにじんでいる。
「お客さん……旅人かい?なら、期待しない方がいいよ。今、うちの小麦……全滅しかけてるんだ」
「全滅?」
「そうさ。ここんとこずっと、高温と乾燥が続いてるんだよ。雨が全然降らないんだ。井戸も干上がってきてるし、地下水も……」
「……それが、麦の不調の原因か」
「おう。昔はよく実ったもんさ。けど今じゃあ、パンすら焼けない状態でね。ましてやハンバーガーなんて……夢のまた夢さ」
カードの目が鋭くなった。
(水の問題、か……。この異常な高温、乾燥……自然の気まぐれにしては、出来すぎている)
そして彼は静かに心に誓った。
(ならば私が、この麦畑を救う。私のハンバーガーのために――!)
夕焼けに照らされるカンザシ町。その空の下、カードの新たな“戦い”が始まろうとしていた。




