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第10話『蘇る政敵の名――リックの影』

 ジュー……。

 朝、カードは満足げに焼き上がるステーキを頬張りながら、思いを巡らせていた。

「……あの黒ローブの連中、ただの宗教団体にしちゃ、手際が良すぎる。呪牛石なんてオカルトまがいのアイテムもある。裏で操ってる黒幕が……いる」

 牛たちが元気になった今でも、カードの勘が鳴っていた。異世界においても、あの“政治的な臭い”は消えない。

 彼は、酪農組合へと向かった。


 テギュサス町 酪農組合本部。

 組合長のガウチ・モーゼスは、牛乳をぐびりと飲みながら言った。

「実はな……ああいう怪しい連中がうろつくようになったのは、町長がリックって男に変わってからなんだよ」

「リック……だと?」

「そうさ。アイツが来てから、“牛の税金”だの、“牧場区域の制限”だのと、訳の分からねえ規制ばっかりが増えてな。今じゃうちの町は、牛より書類の方が多いって噂さ」

「……なるほどな。腑に落ちたぜ」

 カードの額に青筋が浮かぶ。

 その名を聞いた瞬間、彼の脳裏に、転生前のある男の顔がフラッシュバックしていた。


 ――政敵、リック・ヘンダーソン。

 かつて同じ国で“ハート・カード”と熾烈な政治を争った男。

 穏やかな顔を装い、裏でマスコミを動かし、対立候補を次々に潰してきた冷酷な策略家。

 表向きは「市民の味方」、しかしその裏は“笑顔の悪魔”だった。

「まさか……アイツも、転生してきていたのか……!」

 カードの表情が険しくなる。

「アイツがここにいるってことは、この異世界で何かを企んでいるってことだ。放っておけるか……!」


 テギュサス町 役所――町長室。

 カードは強引にドアを開けて乗り込んだ。

「おい、リックってのはどこにいる」

 受付係が慌てて止めようとするも、彼のプロレスオーラに恐れをなして道を開ける。

 町長室の重厚なドアを開けると――そこには、かつての政敵が、優雅に紅茶を啜っていた。

「おや……誰かと思えば。懐かしい顔じゃないか。元大統領、カード」

「リック……!」

 対峙する二人。時間が止まったかのような沈黙が流れる。

「転生しても、君は相変わらず直球だね。そんな勢いで政治をやっていたから、政敵を作ったんだ」

「黙れ……! なぜ、お前がここにいる! 何を企んでいる!」

「ふふふ……この町の発展のために、私は尽くしているよ? 黒ローブの話だって、証拠があるなら出してみたまえ」

「……!」

 カードは拳を握りしめた。

 確かに、奴が裏で動いている可能性は高い。だが――今のところ、決定的な証拠はない。

「この町の牛が苦しんでいた。呪術の影、闇の儀式。お前が関係していると踏んでる。だが証拠がなきゃ、何もできない」

 リックはふっと立ち上がり、窓の外を見やった。

「世界が変わっても、君は変わらないな。何でも力で押し通そうとする……“武力政治の象徴”よ」

「言ってろ。だがな、私はこの世界でもセルフファーストでやっていく」

「ふふ……せいぜい頑張りたまえ。だが、私がこの国の“頂点”に立つ日は、そう遠くない」

 不気味な笑みとともに、紅茶をすするリック。

 カードは無言のまま、町長室を後にする――背後に、昔の政争の影を感じながら。


 夜、牧場の外れの丘にて。カードは満天の星を見上げながら呟く。

「リック……お前も転生してたってんなら、ここはもうただの異世界じゃねぇ。戦場だ」

 そこへ、モーゼスの娘が温かいミルクを持ってやって来る。

「カードさん、あまり無茶しないで。ここは、前の世界とは違うんでしょう?」

「……違わない。やり方が違うだけで、争いはどこにだってある」

 カードはミルクを飲み干し、にっこりと笑った。

「だが安心しな。今回も、私が勝つ。アイツの好きにはさせない」

 モーゼスの娘は微笑みながら頷いた。

 そして、夜風に吹かれながら、カードは決意を新たにした――

 私が、この世界のルールを書き換えてやる


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