第1話『神の国より偉い男、異世界に降臨す』
「私は無実だ。国家のため、国民のため、世界のために働いてきた。すべてはフェイクだ!」
それが、彼の最後の言葉だった。
カード。某超大国の元大統領。数々のスキャンダルと嘘と詭弁で歴史に名を刻んだ伝説のリーダー。彼の辞書に「謙虚」という文字はなく、「責任」は常に部下に押しつけるものだった。だが、そんな彼にも終わりは来る。
飛行機の中で突如落雷。飛行機は爆発四散。ニュースは「事故」と報じたが、本人にとっては当然ながら「陰謀」である。
──そして目を覚ますと、そこは金色に輝く神殿だった。
「お目覚めですか、異世界転生者様」
眩い光を放つ、白銀の髪をたなびかせた絶世の美女が優雅に微笑んでいる。
「……ふむ。おそらくこれは夢か、新しいテレビ番組のセットだな。素晴らしい出来だ、私は気に入ったよ」
「いえ、これは現実です。あなたは死亡し、魂はこの異世界へと導かれました。私は女神。異世界転生を司る存在です」
「なるほど。つまり君が神というわけだ。だが、私のほうがフォロワーも支持率も高かったから、上下関係は逆だな。よろしく頼むよ、神の部下」
「……ええ、実に個性的な方ですね」
女神リュリュは微笑みながら、どこか遠い目をした。
「あなたには一つ、スキルを授けることができます。どんなスキルを望みますか?剣術?魔法?時間停止?何でも――」
「"セルフファースト"で頼む」
「セルフ……ファースト、ですか?」
「そう。自分が何よりも最優先されるスキルだ。敵味方関係なく、全員が私のために動き、私の都合を最も大切にする。つまり、この異世界でも私は最高権力者というわけだ」
女神リュリュは呆気に取られた表情を浮かべた後、苦笑するように肩をすくめた。
「……なるほど、かしこまりました。では、“セルフファースト”スキルを授けましょう。ただし、その影響はあくまで“スキルの範囲”内です。万能ではありませんよ?」
「当然だ。私は万能だからな。では、早く異世界に送りたまえ。支持者たちが私を待っている」
「……お元気で。……たぶん、いや、どうか無事でいてください……」
そしてカードは眩い光に包まれ、異世界の大地へと降り立った――。
荒野。カラカラに乾いた風。空には二つの太陽。そして――土煙の中から現れるモンスター。
「グオオオオオオオッ!!」
初手からレベル99の砂竜が襲ってきた。
「ふむ。これは私を歓迎するパレードか何かかな?」
「違うッ!!逃げてください、一般市民さん!!」
傍らにいた少女が叫ぶ。旅の商人風だが、剣も魔法もまともに扱えそうにない。
「君、私を“市民”と呼んだかね?それは誤りだ。私は“偉人”だよ」
「なに言ってんの!?食べられちゃうよ!!」
少女が叫ぶのと同時に、砂竜が口を開けて突進してくる。しかし――その刹那。
「……ああ、なるほど」
カードの身体の周囲が淡く光る。そして次の瞬間、砂竜がぴたりと動きを止めた。
「……え?な、なに?」
「セルフファーストスキル発動中。私の都合の良い状況になる。つまり、今からこいつは――私を食べることを無理と感じる」
すると、砂竜はあくびをして背を向け、寝転がってしまった。ぐう、と寝息を立てながら。
「えええええええええっ!?な、なんなのそのスキル!?超やばいじゃん!」
「うむ。やはり私は天才だな」
少女は目を丸くし、カードは勝利のポーズをとった。何もしていないのに、勝利はいつも自分のもの――そんな顔で。
「さあ、これから私はこの世界で頂点に立つ。まずは国を作ろう。いや、既存の国家を吸収するのも悪くないな」
「……あの、あなた何者なんですか?」
「聞いて驚くなよ。私は“元・大統領”だ」
「……あ、やばい人だ……」
異世界の空に、また新たな伝説の幕が上がろうとしていた。
――彼の名はカード。“自分が第一”を掲げる、史上最強(?)の異世界転生者である。