神の憂いは花に宿る
拙い所の多い作品ですが、全力で頑張ります。
どうぞ暖かいものでも飲みながら、ゆったりとお読みください。理不尽ばかりの世界に生きる人々の心に、ほんの少しでも届く作品となりますように。
――世界は、膿に覆われていた。
腐った空気が流れ、命あるものを蝕む。
それは、世界が抱えた“癌”のようなものだった。
膿は静かに、しかし確実に広がっていく。
創造神モクレンは、その行く末を深く憂えた。
なぜなら、膿とは――人の心の闇、そのものだからだ。
だからこそ、神は“花”を生み出した。
花は膿の暴走を鎮め、世界の淀みを吸い上げる。
その美しさは、人々の心の荒波すらも静めた。
それは、神が世界の均衡を保つために差し出した、
唯一の犠牲だった。
……だが、人は愚かだった。
モクレンの想像を超えるほどに。
人々は守護の象徴たる花に嫉妬し、憧れ、
そして――恐れた。
やがて彼らは、その命を平然と摘み取った。
自らの手で、自らを護る存在を殺めたのだ。
その時になってようやく、人々は気づく。
自分たちは花に護られていたのだと。
同時に、恐怖した。
――再び膿が世界を覆うことを。
――神に見放されることを。
けれど、人の愚かさは止まらなかった。
彼らは願ったのだ。
「もう一度、花を咲かせよう」と。
神が為したことを、人が模倣する。
それがどれほどの冒涜かを知らぬままに――。
※
花を失った世界は、今も膿の毒に蝕まれながら、辛うじて姿を保っている。
幾千もの春が過ぎ、鳥は今日も囀る。
けれど、それは仮初の調べ。
この世界は今、薄氷の上に立っている。
破滅の鐘は、すぐ後ろで鳴っていた。
それでも光はあった。
一人の少女がいた。
春の陽光を宿したような桃金の髪。
そして手には春の息吹を宿す――現世でただひとり、花を咲かせることのできる者。
後に「最後の聖女」と呼ばれる少女――
ルピシア・ストリアータ。
……これは、その彼女を愛したひとりの男の、再生の物語である。




