プロローグ
拙い所の多い作品ですが、全力で頑張ります。
どうぞ暖かいものでも飲みながら、ゆったりとお読みください。理不尽ばかりの世界に生きる人々の心に、ほんの少しでも届く作品となりますように。
黒の花びらが散っている。花よりも灰と形容すべきそれはかつてこの地に住まう美しき女性が育てた、子供にも等しいものだった。
その女を抱きしめる男が一人。
「なんで、ルピシアがこんなことに......」
男は愛する妻を抱きしめながら震える。
「聖女はその身で闇を祓う義務があるんだ」
この世界を覆う闇。生きとし生けるものの負の集合体。人はそれを世界の膿と呼ぶ。それはもはや空気と大差ない存在であり、人々は『あって当たり前のもの』と考えていた。
しかし膿は時間と共に消えない。その地に留まり、腐敗した空気を生み出す。膿が人体に与える影響は酷いもので、痛みという痛みを収束した何かが膿に触れたものを襲う。そのようになっている。
「せい、じょ......?」
だから、依代が必要だった。留まり続ける膿を吸収するような。請け負うような。そんな存在が。
聖女とは、それを請け負う人間のことを指す。
いわば、世界のための生贄。
聖女の死は世の理。
覆せることはない。
「そん、な」
男は絶望に震えた。
彼にとっての最良の日は、かつてない絶望を感じた日へと変貌を遂げた。