第1話 少女たちとの出会い
私と彼女たちの出会いは、とてもユニークだった。
私は、48歳のサラリーマンだ。出世街道から遠く外れ、まさに社畜の日々を送っていた。最近は、グループ会社再編の手続きに追われ、毎晩終電で家に帰る生活だった。
その夜も、夜中まで残業だった。積もり積もった疲労でフラフラしながら、23時過ぎの山手線ホームに立った。まもなく、電車が到着した。だが、運悪く大崎行きだった。私の家は千葉なので、品川まで行ってくれないと困る。
「ちっ」
私は、大崎行きの電車を睨んだ。でもすぐに、腹を立てるのにも疲れてきた。諦めて次の電車を待つことにした。
私のすぐ近くに、若いカップルが立っていた。高校生くらいのカップルだ。クスクス笑いながら、聞き取れない小さな声でずっと話している。会話の合間に、何度も熱いキスを交わす。
幸せなカップルは、私と完全に違う世界にいた。「勝手にしてくれ」と思いながら、目をそらして、意味もなく真下の線路を見つめた。そのカップルを見たせいで、自分が五歳くらい老けた気がした。着古した自分のスーツが、さらにくたびれて見えた。立っていることすら、しんどく感じた。ああ、いやだいやだ。
その二人は、とても小柄だった。そして、映画のような美少年と美少女のカップルだった。少年は全身黒づくめで、鋲のついた革ジャンを着ていた。肩まで伸びた髪を、頭の後ろでまとめゴムで縛っていた。少女は、少年とは正反対にお姫様のような格好だった。あちこちにフリルのついたピンクのワンピースで、スカートの裾はふわふわと膨らんでいた。ブリーチを施したロングヘアは腰近くまであって、とても大きなウェイブがかかっていた。それから彼女は、顔が真っ白になるまで厚く化粧をしていた。
あまりに対象的な二人に、私は目を奪われた。非の打ち所がない。幸せな青春時代だな。私はなんだか虚しくなって、フーッと深いため息をついた。私にジロジロと見られても、二人は一向に気にしなかった。私などいないかのように、二人は笑いながらキスを続けた。
「あれっ!?」
私は、ようやく気がついた。革ジャンを着た「少年」の、胸が膨らんでいることに。私はなぜか、その「少年」の首に”のとぼとけ“を探した。横目を極限まで寄せて、必死になって彼の喉を確認した。”のとぼとけ“はなかった。その「少年」は、とても綺麗な女の子だった。
電車が到着した。私とその二人は、電車に乗り込んだ。二人は、私から少し離れた場所に座った。電車の中でも、二人は構わずキスを続けた。
乗り換えのために、私は品川駅で山手線を降りた。二人は、電車を降りなかった。駅の構内を歩いていても、電車に乗り込んだ後も、私の頭はレズビアンのカップルでいっぱいだった。なぜそんなに気になるのか、自分でも理由がわからなかった。私はこれまでにも、同性愛者と接したことがあった。だが今夜は、なぜか特別だった。「すごいものを見てしまった」と、驚くばかりだった。
その時私は、まったく予想していなかった。まさかあの二人と、もう一度会うことになろうとは。そして二人と、一緒に暮らすことになろうとは。