04 《UNKNOWN》との遭遇
04 《UNKNOWN 》との遭遇 更新しました。
楽しんでいただけたら幸いです。
適当な路地裏に逃げてから思ったことなんだが、あの置いてきた硬貨だけじゃ水晶玉の修理費用に充てられない気がする。新品を購入するなんてもっての外だ。
「あの人に悪いことしちゃったな……」
だが、今更戻ることもしたくない。だって普通に怖かったんだもの。
「まあ、もう二度と会うこともないか」
そんなことよりも、この後どう行動を取るべきかを考えなくてはならない。
事の成り行きでこの国にやってきたが、まずここがどこの国で、元いた世界とどういった関係にあるのか。魔法やスキルが存在する時点で異世界であることに間違いないだろうけど、そもそも帰る手段は存在するのか。
なるほど。よく考えればやるべきことは最初から山積みにあったわけだ。
とりあえず、帰る手段を模索するのは現段階では得策ではない。だとすれば今、私のやるべきことは……。
「ここがどこの国なのか。それは遅かれ早かれ分かるでしょ。問題なのは、生き残る術のスキルと魔法の取得……。一体どうすればいいのー!!!」
物音一つしない路地裏の真ん中で私の叫び声が幾重にもなって木霊した。
もちろん誰かに助けを乞うたわけではない。今はただ無性に叫びたくなっただけだ。
「さて、とりあえず移動するかー」
そう言って歩み出そうとしたその時だった。
くつくつと笑う声が陰の向こうから聞こえてきたのだ。
そして、陰の向こうからゆっくりと姿を現したのは私と同い年くらいの一人の女だった。
血の如き紋様に飾られた漆黒の和装ドレスに不思議な光彩を放つ鮮血の羽衣。
艶やかな漆黒の長髪を左右に揺らしながらこちらへ向かってくる彼女の一挙手一投足から目を離せない。
「——————貴女、もしかして迷子?」
私の顔を覗き込む妖しい赤眼の瞳から目を離せない。
「フフッ。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。取って食べたりなんかしませんから」
何故だろう。彼女が言うとまるで冗談に聞こえない。
「さあ、私が貴女を導いて差し上げます」
そう言って彼女は私の手を取り、現れた陰の向こうに連れ込もうとする。
本能的にやばいと感じたその時——————私の手を掴んでいた彼女の腕が宙を舞った。
反動で後ろに倒れ込み、体勢を直した時には彼女との間に先ほどの青年が立っていた。
「フフッ。顔に似合わず随分と荒いご挨拶ですね。女には優しくした方が美徳ですよ?」
「そんな戯言などどうでもいい。それよりも、その腕を早く治した方がいいですよ? でないと私の相手にはなりませんからね」
言葉と同時、青年が羽織っていた黒のローブが溶かされるように消えていき、やがて全貌が露わになる。
細身の燕尾服を着こなし、衿から肩、テイル部分へと走る紫電の光彩が不思議な紋様を描き出している。
「フフッ。腕の一本があろうがなかろうが戦闘には支障はありません。ですが、ここは一旦退くとしましょう」
そう言って、その場に転がっていた彼女の腕は帰る場所を思い出したかのように彼女の肩にピッタリと収まる。何度か手を握ったり開いたりと動作確認を行った後に言葉を綴った。
「それではまた会いましょう、今度は……二人っきりで」
私に向けて可愛らしくウィンクしてきた彼女は、そのまま陰の向こうへと行方を眩ませた。
目の前で何が起こっていたのか全く理解できない。
私と青年の間にしばらくの静寂が生まれ、やがて均衡を破るように青年が口を開く。
「——————私と、契約を結びませんか?」
唐突な申し出に、私は茫然と青年を見つめていた。
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