01−1 Special Episode
プロローグから繋がるSpecial Episode になります。
楽しんでいただけたら幸いです。
光という存在を消されたかのような辺り一面真っ暗な大森林の中、男は息を切らしながら走っていた。
何かをやらかした脱獄犯だから国から追われているとかそういうわけではない。
男の胸元にぼんやりと輝くはグリアス王国の紋章。グリアス王国は有能な能力者を輩出する名の通った王国で有名であり、男は国の誇り高き衛兵だった。
そんな男がなぜ真っ暗な大森林の中を走っているのか。明白、ヤツが現れたからだ。
ヤツの手によって、男の仲間は一瞬にして命を刈り取られてしまったのである。
「何とか……。俺だけでも逃げなくては……ッ! こんな、こんなところで死ぬわけには……」
そう言いかけたと同時、全力で走っていた男の足は次第に遅くなっていき、その表情は絶望に染まる。
「フフッ。鬼ごっこはもうお終いですか? 一分と持たなかったですね」
逃げる男を見下すように、上空には黒色の長髪を揺らした赤眼の女が嘲笑っていた。
血の如き紋様に彩られた漆黒の和装ドレスを身に纏い、肩から腰に掛けて鮮血の羽衣が羽のように伸びている。
実際に羽は生えていない。そこには法則を無視した反重力魔法が存在していた。
「お、俺たちが一体何をしたというんだ! 国の衛兵を皆殺しにして、お前の——————《UNKNOWN》が求めるものは一体何なんだ!」
「これから死に行く者が理由を聞きますか? 強いて言うなら、そうですね……」
そして彼女は自分がいる場所よりも遥か遠い、遠い頭上を愛おしく見上げながら口を開く。
「——————今宵の月は、とっても綺麗でしょ? だからあなたたちはここで死ぬんです」
「……は? 言ってる意味が……」
次の瞬間、夜闇の空に血飛沫が散った。
頭部が何十回転しながら空を舞い、やがて頭部と胴体はボトッと重い音を立てながら地に落ちる。
「フフッ。いかなる防具を装備していようとも所詮、ただの紙切れ同然のようですね」
嘲笑いながら、彼女はゆっくりと男の亡骸に近づき、そして乱暴に男の鎧を剥ぎ取った。
お目当てのものは——————特になし。
「やはり、一兵士如きでは持っているはずありませんね。最初から面倒臭がらずに国を滅ぼしておくべきでしたか。フフッ、まあいいでしょう。焦らずとも約束の地はもう少しで開かれるのですから」
そう言って歩み出す彼女の頭上には赤い月が浮かんでいた。
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