01 プロローグ
初めまして、陽巻です。
久々の新作投稿になります。
当作品は超能力好きによる超能力好きのための作品になっております。
少しでも楽しんで読んでいただけると幸いです。
「魔法やスキルは存在しないのか?」
題材を掲げてから早三年。未だに手がかりが掴めず、書物に敷かれた白紙の片隅に書かれた題目が存在を主張するかのようにバタバタと音を立てている。
まあ、ただ窓から吹き込む風が強いだけなのだけれど。
滑らかな漆黒の長髪をかきあげ、私——————一ツ星月華は換気のために開けていた窓を乱暴に閉めた。
やがて研究室に静寂が戻り、振り返ると部屋一面に研究資料が散らかっていることに気が付く。
私の悪い癖だ。一つのことに熱中してしまうと周りが見えなくなってしまうのである。
「やっちゃったよ……。全く」
床に散らかった資料を一枚ずつ手に取りながら、過去の実験結果を振り返っていく。
あと一年も経たずして卒業論文を発表しなければならないというのに、未だ手がかりが掴めていないのは流石にマズい。
今更題材を変える訳にもいかないし、何より私のプライドが諦めることを許さない。
だからといって、このまま何もせず足踏みをしていても仕方がない、ので——————
「……よし、とりあえず合わせ鏡でもしておきますか。考えている間に手軽に出来ることといえばこれぐらいしかないし」
合わせ鏡といえば、異世界から悪魔がやってくるという迷信があるが、成功すれば論文が大きく進むこと間違いない。
やってきた悪魔に論文を協力してもらえばいいからね。まあ、一度は試した手法だけど……。
そして私は人一人映し出せる鏡を向かい合わせるように設置し、未完成の論文をその間に置いてみるが、やはり結果は前回と同様だった。悪魔は私の論文を協力しにやってきてくれない。
「……対象物がいけないのかな?」
よくよく考えてみれば、悪魔だって思考のある生き物だ。人と同じで論文など好き好んでやりたいと思うわけがない。
もっと悪魔が喜びそうな物は……と思考を巡らせていた次の瞬間、今までに感じたことのない衝撃が全身を駆け巡った。
そもそも根本的に物事への捉え方が間違っていたのである。今までの考え方は一人称視点からの実験結果に過ぎなかった。だったら一人称視点から二人称視点にしたらどうだろうか?
私は合わせ鏡の間に置いていた論文を取り除き、自分がその間に立ってみた。
悪魔といえば人の善悪の感情を好むと聞いたことがある。参照元は忘れたが……。
とりあえず、これで何かしらの変化が起こるのを待つだけだ。
「にしても、不思議な感覚……。まるで鏡の奥にもまた別世界があるみたい。意識が吸い込まれそうに——————」
私の意識はそこで途絶えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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