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逆転トリップ!  作者: ちくわ犬
一章
9/26

君は何処へ

**眉をひそめる表現が少し出ます。

「おかあさん、どうしてヒスイとあそんじゃいけないの?」


「ダメじゃないよ?でも、少しの間だけ逢えないの。ヒスイがむこうのお家に慣れるまで…。」


「いやだ!ミチはヒスイとあそぶの!」


「いや、だから、イヤだって言ってもね……。」


わあわあと泣き出すミチと不満げなヒロ。

ヒスイがあちらの夫婦に預けられてから3日。毎日繰り返されるヒロの質問攻撃。最近年少組として幼稚園通いしだしたミチも参戦してくる。まったく困ったなあ。毎日遊んでいたから急に駄目って言ったって「なんで?」って思うよね。車で15分くらいのところだし。本当は私だって納得していない。幼稚園に通わす気配もまだ無いし、あの夫婦に「ヒスイ君が慣れるまでは一切の連絡はご遠慮ください。」と言われたカオちゃんの顔といったら……。でも、カオちゃんはあの通り忍耐の人でしょ?毎日修行僧のように耐えてるよ。


ああ。なんか暗~いカオちゃん見てたらこの話を進めるのは良くなかったかなぁって後悔してる。実際ジイ様が亡くなって寂しいカオちゃんの心の穴を埋めていたのは「ヒスイ」だったって分ったんだもの。一日一日とカオちゃんが沈んでいってしまう……。こっそり連れて帰ってきちゃおうかな。ほんと。


「どう思いますかね、社長。」


「あぶ。」


思わずベビーカーのトモに相談する。なんでこんなに貫禄あるかな三男坊。特に顎のぽっちゃり加減が。


「ミチ。ほら。ラムネ食べていいから。言っとくけど今日だけ特別だよ!」


「うぇ、うぇ……。」


「ヒロも!」


「いいよ。ほら。」


ラムネであらゆる攻撃を抑えつつ道場に逃げ込む事にしよう。まったく幼稚園からの帰り道がこんなに遠く感じるとは……。


「カオちゃ~ん!居る~?」


「ヒロ、のどかわいた~。」


「ミチも~。」


「もう、台所行って飲んできな。」


「おかあさん!カル〇スのんでいい?」


「ミチもかるひす~。」


「わかった、良いから。」


ベビーカーでうとうとしていたトモが寝てしまったのでそのまま玄関に放置。薄目を開けて白目が出ている姿は我が子でもコワイ。お願いだから寝る時はしっかり目を瞑ろうね、トモ。兄ちゃん二人はカオちゃんがいつも置いてくれているジュースを飲みに一目散、屋敷の中へと消えていった。

今日は水曜日だから定休日。大抵カオちゃんは道場の掃除をしている筈。


あれ、居ないのかな?


「……。」


奥のジイ様の部屋に居たカオちゃんの手には……


ジイ様が大切にしていた云われ怪しげな宝刀「鬼丸」が……。



*****



「ぎゃ~~っ!何してんの!?カオちゃん!ひ、人殺しだけは!!」


「……サト、落ち着け。手入れをしていただけだ。ヒロとミチに見せたくない。」


「はっ。二人は台所一直線……ふうぅ。」

 

日本刀を振りかざす幼児。どう考えてもスプラッタだもんね。ありがとう乳清涼飲料。


「つばがカタカタと鳴るんだ。どういうわけか。」


カオちゃんが持ってる鬼丸(日本刀)を見るとなるほどカタカタ震えている。


「ぎゃ~。なんか、こわいよ。前から思ってたけど妖刀なんだよそれ。古美術商に売ってしまおうよ。」


「ジイ様の大切にしていたものだからそういう訳にもいかん。」


「だったら、早く箱に戻して!」


「……わかった。」


桐箱にカオちゃんが手をかけたとき、電話が鳴った。


「サト、しまって置いて。」


ぎゃ~っ!「鬼丸」を托されてしまった。この艶々感がたまらなくイヤ!大体、なんで「鬼丸」って言う名前だというとその昔、鬼を真っ二つに切れたほど切れ味が良かったとかなんとか。今そんなの必要ないし!キモイ!コワイ!


「なんで震えてるのかな~はは。あはははは……。」


やっとこさ鞘に収めたかと思うとカオちゃんが帰って来た。カオちゃんは黙って鬼丸を私から受け取ると……



ザンッ




大きな風を切る音がしたかと思えば目の前の障子扉が真っ二つに斜めにずれて行く。

再び鞘から出された鬼丸はカオちゃんの手によって艶々と輝いていた。



「……が。」


「え!?何!?」


「ヒスイが居なくなったようだ……。」


カオちゃんはそういってカチャリと鬼丸を鞘に収めた……い、生きた心地がしません。

お、怒ってる?怒ってるんだよね!?カオちゃん。こ、こえ~~~っ。


「サト、ちょっと行って来る。留守を頼む。」


「お、鬼丸は置いていって!」


それだけは!ほんとに捕まっちゃうから!

少しだけふっと笑ったカオちゃんは鬼丸を私に手渡すと外出着に着替え始めた。

とりあえず桐箱に刀をしまって急ぐカオちゃんを追いかける。


「車の方が早いよ!私が出すから。」


「チビたちはどうするんだ。自転車で行くから…。」


二人で言い合っているところに招かざる客が来た。


「カオリ~?居る~?マイハニ~。」


いつもは鬱陶しいだけだけど、今日はよく来た!


「ちょうどいい!幸太郎!子供たちをお願いね!」


「へっ!?なに?どこ行くの?」


チビたちに見つかる前に出なくては!!車のエンジンをかけて幸太郎に手を振った。助手席にカオちゃんが乗り込む。


「サト、どこに行くか分ってるのか?」


「もちろん。ヒスイになにかあったんでしょ?預け先はばっちり押さえてるよ!」


「……。」


「何年、姉妹やってると思ってんの?カオちゃんのサポート体制はばっちりよ。」


「心強いな。」


ちらりと横を見れば硬い表情のカオちゃん。


「で、電話ではなんて?もしかして家出しちゃったの?」


「こっちに来ていないかとだけ。それだけ確認してすぐ切れた。」


「あの子が家を出るとしたらよっぽどだよね。」


信号が青になって見えなかったけど、カオちゃんが頷くのが気配でわかった。





*****




インターフォンで呼び出すと取り乱した奥さんが出てきた。なんか香水臭いな、この人。


「ヒスイは家を出たんですか?何かあったんですか?」


カオちゃんが奥さんに質問した。奥さんの顔が青い。


「いえ。大したことじゃありませんので。お引取り下さい…。」


その言葉でカチンとくる。子供を持つ親としては捨てて置けない言葉だ。


「居なくなったんでしょ?こっちに連絡してくるなんてよっぽどですよね?5歳の子が居なくなって大した事無い分けないでしょ?」


「……いえ、もう見つかったので。」


「では、逢わせてください。」


「それは…お断りします!」


な~んか「嘘」っぽいよなぁ。よく見ると組み合わせは野暮ったいけど服はブランド、履いてるミュールだってヒールが高すぎる。お化粧バッチリで香水臭いってホントに子供好きかな?この人。村長さんの紹介だって言うから安心してたけど、怪しくない?


「主人が帰ってきますのでお帰りください。」


ふ~ん。こんな時間に帰ってくるって?そんなに私たちを帰したい訳?


「少し、お話しません?」


「え。」


「カオちゃん、お家に入れてもらおう!」


「そうだな。邪魔する。」


慌てる奥さんをヒラリとかわしたカオちゃんが玄関からいとも簡単に進入する。続いて私もお邪魔。何これ、なんで内側にも鍵が付いてるの?


「あ、あなたたち!不法侵入よ!」


「お茶を呼ばれに来ただけだ。」


台所にはお惣菜のパックとお弁当のパックの山。床にはケーキの残骸が。


「ヒスイ!」


カオちゃんがヒスイを呼びながら二階に上がる。


「け、警察を呼ぶわよ!それ以上入らないで!出て行け!」


狂ったように奥さんがカオちゃんの後を追って行った。

さらにその後ろから追いついた私が見たものは……


「警察を呼ばれて困るのはそちらの方でしょう?」


まだ肌寒いこの季節。

冷房を異常に効かせた部屋の中で数個有る段ボール箱のひとつを開けるカオちゃんだった。




*****




「3体とも死後1年以上は経っています。」


ああ。子供たちを置いてきて良かった。こんなの、見せられるわけが無い。

通報してから数時間後に何食わぬ顔で夫も帰って来た。もちろん、その場で…事情徴収という名の逮捕。

クローゼットの中からは幼い子供の酷い写真が山のように出てきた。この平和な村ではじめてとも言える衝撃的なニュースだ。


「カオちゃん、ヒスイは昨日の夕方逃げ出したんだって。2階の窓から飛び降りたみたい。」


「……。」


「村の青年団の人も探してくれる。私たちも探しに行こう。きっと心細くて震えてる。」


カオちゃんを見ると先ほどから下を向いて泣いている。私も泣きたいけど、泣き上戸のカオちゃんを元気付けるのは昔から私の役目だから泣いたりしない。


「私のせいでヒスイが……。それでなくともあの子は辛い目にあってきただろうに…。」


ゴシゴシと目を擦りながら歩くカオちゃんの手を握る。私だって村長さんの話に安易に乗ってカオちゃんに話を勧めてしまった。


「お~い!サトリ!」


力強い声が私を呼んだ。


「明人さん!ど、どうしたの!?ここ、担当じゃないでしょ?」


「サトリのピンチに駆けつけないわけないだろ?地元だって言ってアピールしてきた。」


ポツポツと報道陣が現れ出した。明人さんは新聞記者だがここは担当ではない。無理を言って来てくれたのかもしれない。さっき電話でカオちゃんが落ち込んでるって言ったしね。


「あのね、明人さん、ヒスイが見つかったら……。」


「いいよ。」


「え!?まだ何も言ってないけど?」


「ヒスイ君、うちで引きとってもいいよ。もちろんカオリさんのところで育てていい。」


「な、なんで私が言う事わかったの?」


「分るよ、何年夫婦やってきてると思ってんの。」


からかうように明人さんが言った。夫婦は6年しかしてないけど私たちは知り合った時から通じるものが多いからこの言葉をよくおどけて使う。


「さすが私の旦那さま。」


「けど、勝手に踏み込んだんだろ?根性座ってるね、君たち姉妹は。」


「それでこそ門田家の娘である。カオちゃん!明人さんの了解も取れた!後はヒスイを見つけよう!」


「……それでいいのか?サト。明人さん。」


「カオちゃんがいいならね。」


頷く私たちを見て少し笑顔の出たカオちゃんと捜索隊に加わった。

日は非情にも落ちていく。

小さい子が一人でこの寒い夜をこせているのだろうか。

焦る気持ちを他所に捜索は夜まで続いた。


明人さんはサトリより10歳年上の設定です。

そのころ幸太郎は起き出したトモのオムツを変えてパックの離乳食を。

ヒロとミチに馬にされ、レトルトカレーで仲良く夕食。

なかなか役に立つ男でした。

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