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逆転トリップ!  作者: ちくわ犬
一章
7/26

翡翠の選択

「カオリ殿。文字を教えてもらいたいのだが…。」


 こちらの世界に来てから随分月日がたったというのに帰り方を見つけることも元の姿に戻る方法もわからないままだった。「実はわしは24歳で…。」と、本当のことを話して協力を求めようともしたが、誰も聞く耳もちそうにも無かった。このなりでは仕方ないのだが…。


それでも少しだけ分かったことがある。わしのいた世界では文字の力によって空間を移動するのだがその力が使えそうであるということだ。サトリに「24歳なら字でも書いてごらん?」と言われ、わしの知っている文字(もちろんわしの母国語だ)を紙に書いたのだがそれでは文字に宿る力は発動しなかった。しかし見よう見まねで書いたこちらの文字では少しだけだが力の発動を感じられた。この世界の文字に宿る力を理解できたら帰れるかもしれん。兎に角、今は覚える事に集中しよう。



「カオでいい。ヒロもそう呼ぶだろう?」


カオリはわしにそう言った。カオリは根気よく教えてくれる。間違えても落ち着いて考えさせ、上手くできたときだけ褒める。勉強は苦手なわしにとってはまたとない良い教師に思えた。

小さな声で「カオ」とつぶやいてみる。なんだかこそばゆい感じだが親近感が沸く。いい響きだ。


「随分上達したな。」


カオがわしを褒める。カオが教えるのが上手いのだ。そうは思っても声にはださない。なに、5歳の子供がそんなことを言うのはおかしいだろう。もう少し勉強したかったが「寝るのも子供の仕事だ」と言って毎日同じ時間には床に連れて行かれた。


カオの隣に寝床を与えられていたので一人で床に入る。時々カオは夜中にわしの様子を見るので寝ていなければならなかった。この近い空間では起きているとカオに気取られる心配があった。


…一緒に出てきた琥珀は無事なんだろうか。奴もこちらの世界に来ているのだろうか。

そんなことを考えながら何度か寝返りを打った。ようやく瞼が落ちてきた頃に気配を感じて起き上がった。廊下の向こう側から音がする。物取りだろうか。

 どうしようか考えたが、幼子の姿で立ち向かえるはずも無く、取りあえずはカオが危ない目に遭ってはいけないとカオを起こすことにした。


わしがカオの枕元に経つとカオはすぐに目を覚ました。


「カオ……。」


「ヒスイか。どうした?トイレか?」


「あっちから変な音がする。」


「…ふむ。」


注意を促したつもりがカオは廊下にでてしまった。こんなつもりではなかった。そう思いながら仕方なくカオの後ろについていった。何かあったらカオを何としても守らなければ。



カタッ…



微かに音がした。するとカオは何を思ったのか大きな音を立てて襖を開いた。



ダンッ!



ドスン!


全身真っ黒な男が空中で一回転するのをただ、わしはカオの後ろで見ていた。腕には銀色に光る刃物がある。カオは素早く腕をひねって関節技をかけてその手から刃物を落とさせる。


カラン…。


その音でびくりと体が揺れた。体が熱くなるのが感じられる。

流れるような動作。美しく隙のない…。

目の前にいるのは何者なんだ?

心臓の音がうるさい。

カオから目が離せない。



「…すまない。忘れていた。大丈夫か?ヒスイ。」



気遣うカオのその声さえわしの感覚をすべてもっていってしまう。

わしは体中の血が沸きあがるような興奮を覚えた。


その後黒ずくめの男が役人に連れて行かれるのを見届けてから技の名前だけでも教えてもらおうと奮闘したが、カオにやんわり断られた。「ヒスイにもいずれ教えてやるから兎に角寝よう。」とそれ以上取り合ってもらえない。今日はもう無理かと諦めて部屋に戻ろうとした時にドンドンと戸を叩く音がした。


「師範!如月です!大丈夫ですか!?」


カオはその人物を邪険に扱うと一撃で倒してしまった。


「…今の技は…」


「だ・か・ら。寝るのだ!」


訊ねるもぴしゃりと言い止められてしまった。仕方無しに部屋に戻る。だが、寝床に横になっても興奮して眠れる状態ではなかった。


「…ヒスイ。眠れないか?」


カオが心配そうに尋ねる。カオも眠らなくては困るだろう。わしは寝る事でしか協力できないので


「…努力する。」


としかいえん。


「絵本でも読んでやろうか?」


「……。」


その言葉には非常に魅力があった。このままでは眠れそうも無い。


体を起こしてカオを見て頷く。

カオが胡座を組んでわしをように促した。少し気が引けたがここで拒んではおかしいだろう。きっとサトリの子にするようにしているに違いない。


カオが読んでくれた絵本は「龍神」の出てくる話だった。わしの国の神も龍だ。


「この世界にも龍はいるのか?」


そう質問するとカオはちょっと笑って


「見た人はいないけれど、いるかもしれないな。」


そう言った。


わしはカオの体温の気持ち良さに意識がとろとろして、迂闊にもそのまま眠ってしまった。

いい匂いがする。

カオの匂いだ。

記憶のある限りで一番安らいだ眠りがわしの体を包んでいた。



*****



「如月」とカオが呼ぶ男は朝の炊事場に居た。派手な桃色の前掛けをしている。

色の白い女のような顔で髪が茶色い。少年のような雰囲気のある男だ。何かとカオにまとわり付いている。カオは気付いていないが隙あらばカオの体に触れようとしている。


…なんだか感じの悪い男だ。


上手くカオに取り入った如月と朝食を共にする。食べ物に罪は無い。しかしこの男の作った料理と比べると今まで当然の様に食べていたカオの料理は遥かに上手いのだと悟った。カオはすごい。


「ね、ね、こうやってると僕たち家族みたいだよね!」


上機嫌の如月が言った。お前と家族になるつもりはない。


「朝食を食べたらここから出て行くんだよな?」


カオも同じ意見のようだ。するとがばりとカオに土下座して如月はカオに家に置いてもらえる様懇願した。


「お、女の子の一人暮らしは無用心だよ!だから、今日から一緒に住もうかなって!お願い!」


妙齢の女の家に住むとは何を考えているのだ。しかし、如月は本気のようで婚姻証のようなものをカオに差し出した。しかし、目にも留まらぬ速さでカオは破いて捨ててしまった。


「……。」


そら見ろ、お前のような者とカオが釣り合うわけがなかろう。しかし、次に如月はこう言った。


「如月カオリが駄目なら門田幸太郎でもいい!僕をカオリの嫁に!!!!」


そうか、こちらの世界では男が嫁になる場合もあるのか。それならこの男にも可能性があってもおかしくない。そうこうしているうちにサトリが子供を連れてきて……図ったように男が熱で倒れた。



「如月はカオを好いて居るのか?」


突然現れた男の情報を集めるべくヒロに聞いてみる。


「こうたろうのこと?いっつもケッコンしてってカオちゃんにいってるよ。」


「……。」


「でも、だめ~。こうたろうはハラグロでオンナにだらしないからダメっておかあさんがいってるもん。ヒロがおっきくなったらケッコンするんだ。」


「ミチも~ミチもケッコンしる~!!」


「ヒスイも?」


「え!?わ、わしは……。」


「みんな~!おやつだよ~。」


「「は~い。」」


サトリの声で会話は途切れる。


わしはただ


……世話になっているカオが幸せになればそれでいい。



****




隣の部屋でうんうん唸る如月の元へ頭を冷やすものを持って行って欲しいとカオに頼まれる。男の癖に情けない。しかし、コレがこの男の作戦なら「腹黒」というのも頷ける。


「ありがと……。ヒスイくんって言ったよね?仲良くしようよ。」


横になりながら赤い顔をした如月がわしに言った。熱はあるようで額にカオに渡されたものを貼ってやると気持ち良さそうにした。


「……。」


「僕ねぇ、カオリのことが大好きなんだ。君もカオリのこと大好きだろ?いい。答えなくって良いよ……言わなくたって分るから。カオリが大好き同士仲良くしよう。で、相談なんだけど、カオリは君の良い母親になると思わない?もちろん、僕がお父さん。カオリが結婚しないとヒスイくんをこの家にずっと住まわせてあげれないんだ。だから…僕がカオリと結婚できるように協力してくれないかな?」


「え…。」


カオは幼子の姿のわしに同情している。この家で引き取る事になればカオはわしの為にこの男と結婚するだろうか。


「もう一押しなんだ!嫌がってるみたいに見えただろうけど、テレ屋なだけなんだ。絶対幸せにするから……」


そう言われてもカオがこの男と結婚したいとは思えない。幼子を利用しようとは不届きな奴だ。何か言ってやろうかと思ったが、薬が効いてきたのか如月は眠ってしまった。


サトリはカオの妹だ。カオも結婚して子供がいてもおかしくない歳だろう。わしがこのままここに居つけばカオの邪魔になるのかもしれん。いや、この男に利用されようとする地点でもう迷惑になっているのだろう。もう少ししたら帰れると理由もなく思ってきたが、この先、元の世界に戻れるとは限らない。カオは良い女子おなごだ。幼子の傷を見て泣く。そんなカオをこのまま利用して良い訳が無い。ここから出て行かねばなるまい。が、どうすればカオを悲しまずに出て行くことが出来るだろうか。


……そう悩んでいるわしに「養子」の話が来たのは実に渡りに船であった。



お久しぶりです。の、割にはあまり話は進んでいません。すいません…(汗)


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