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逆転トリップ!  作者: ちくわ犬
一章
4/26

エプロンをした男

朝目覚めると腕の中にヒスイがいた。

深く眠っているようなのでそっと腕を外して布団に寝かせた。朝ご飯の用意をしなければ。

今日からジョギングも再開しようと思っていたのだが…。明日からにしよう。



…台所から味噌汁のにおいがする。





不覚にもヒスイと一緒に深く眠ってしまっていたようだ。




「不法侵入だぞ、如月。」


台所の梁にもたれながらエプロン姿の男を見る。懲りないやつだ。ビクリと肩を震わせて如月が振り向く。


「師範! おはようございます!」


「そこで何してるんだ。」


「なにって!朝ごはんの仕度です!僕の愛をこ・め・て(ハート)」


「今度はサトに何を貢いで鍵をもらったんだ?大体なんだ、その凄まじい色のエプロンは…。」


いい大人の男がショッキングピンクのハート&レースのエプロン。どの面下げて買いにいけるのだ。…幼馴染のこの男の趣味は今だかつて理解できない。いや、したいと思ったこともない。しかも気を許すとすぐにタメ口をきく。


「ひどいなぁ。泥棒が入ったって言うから代わりに様子見に行くって借りてきただけだよ。」


…てっきり私は不法侵入者はお前だと思っていたがね。おかげでヒスイのことも忘れて思いっきり戸を開けてしまったではないか。無事に済んだからいいようなものの…。


「直ちに朝飯の用意を中止し、家に帰れ。」


「だ、大丈夫だよ!今日は!毎日練習してるから!」


「…すでに焦げ臭いのだが。」


「え!わああああ!」


フライパンの中で炭になっている物体に水をかける。



ジュワワワワワ~~



「お願いだから何もするなといっただろう?」



そう、何度も何度もな。上目使いしたって無駄だ。いくらお前がカワイ子ちゃんな顔でも男だからな。他で通用したって私には効かん。なかなかの策士であることも知っているしな。


「食材が気の毒だろう。それに、かろうじて出来たものを食べる者もさらに気の毒なのだ。」


「カオ…。」


声と共にジャージの裾が引っ張られる。

おっと、このままいけば気の毒な食事の被害者に加わってしまうヒスイが起きてきたようだ。


「おはよう、ヒスイ。顔を洗っておいで。」


「え、ちょ、ちょっと!聞いてないよ!カオリ!この子だれ?」


…。黙って睨んでやつを見る。


「お前には名前を呼ぶことを禁じたはずだが?それに、私はお前より年上なんだぞ。」


「…スイマセン、師範。で、だれです?こどもが居るなんて聞いてませんよ?」


師範でなくとも門田もんでんで呼べばいいだろう。まったく反省していないな。


「わけあって面倒をみているんだ。お前には関係ない。」


「そんな、他人行儀な…。」


「他人だ。」


フライパンのこげを落とすように言って朝ごはんの用意を軌道修正。そうでなくてはヒスイが不憫だ。

味噌汁は残念ながら出来上がっていたのでせめて味見して味を直す。


「で、早く帰ってくれないか?」


トドメに言うと如月が涙目で訴える。


「朝ごはんぐらいは一緒にたべていいでしょ?僕、雨の中、カ…師範に倒されてたんだから!お願い!」


それにしてはこざっぱりした姿じゃないか。着替えて来たのか?茶色く染めた髪は少し濡れているようだ。


「…朝食だけだ。」


「わーい!愛してる!ンーア!」


投げキッスを空で掴んで踏みつけてやったら如月が「ひどい…」と言っていた。


テーブルの上に3人分の食事が並ぶ。


「「「いただきます。」」」


今日はご飯が普通に炊けているだけマシだった。前来た時は粥になっていた。炊飯器のメモリは何のためについていると思ったのか。洗剤でコメを洗ったので変にレモンな臭いだったし、炊飯ジャーの水蒸気が出るところからも粥があふれ出て台所も大変なことになっていた。


…味噌汁の中でどろどろになったヤケに長いワカメを箸で掴んで悪戦苦闘しているヒスイが見えた。嫌がらせでしかないだろう。進歩したのは余計なものが入っていないことだ。…前はチョコレートが入っていた。「バレンタインだから…」と、言っていた。まだ生きていたジイ様もその日はおかわりしないで終始無言で食べていた。なんだ、その理由は。私の胃への挑戦か。いや、実際は我慢の限界への挑戦だ。これもヤツの兵法なのだ。平常心。平常心。


「ヒスイ、焦げたところは避けていいぞ。」


黙々と食べるヒスイに声をかける。出されたものは綺麗に食べるヒスイには負担が大きいかもしれない。シシャモの頭が炭に近い…。どうして片面しか焼かんのだ。


「ね、ね、こうやってると僕たち家族みたいだよね!」


上機嫌の如月が言う。嫌な予感がする。

ふと部屋の隅にあるボストンバックが目に入った…。まさか。


「朝食を食べたらここから出て行くんだよな?」


「……。」


如月の目が泳ぐ。すると、がばりと私に向き直った如月が額を畳にこすり付ける。


「お、女の子の一人暮らしは無用心だよ!だから、今日から一緒に住もうかなって!お願い!」


何故に朝から土下座されているのだ私は…。


「駄目に決まっているだろう。」


「これが僕の本気です!」


バサッ!!!!


「勝訴」な感じでヤツが見せる書類…。


ビリッ!


クシャッ!


ポイッ!


奪って破って屑箱に捨ててやった。婚姻届を何枚書けば気が済むのだ!


「……。」


後ろでヒスイが目を丸くしている…。うう、教育に…。


「如月カオリが駄目なら門田幸太郎でもいい!僕をカオリの嫁に!!!!」


何故に私が嫁を貰わねばならんのだ。それをいうなら「お婿」だろう。


「いい加減にしろ。出入り禁止にするぞ。」


とたんにシュンとなる如月。うなだれても知らん。甘い顔して今までいいことなどないからな。



 

「カオちゃ~ん!泥棒入ったって?」




そうこうしているうちにヒロを幼稚園に送ってきたサトが顔を出した。左手にはミチ、胸のオンブひもの中にはトモがいる。


「ゲッ、幸太郎!あんたここで何してんのよ?マンションにいないから変だと思った!鍵返せ!」


「サト、何があろうとこいつに鍵を渡すな。」


「ごめん!でも夜中に子供連れていけなかったし…。心配だったんだ。」


「……。大丈夫だったよ。」


「あれ?幸太郎なに寝てるの?」


サトのがそう言ったので振り返る。如月が赤い顔して倒れていた。


次から次へと…。


わたしも修行が足りないらしい。





変な人出てきました。

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