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逆転トリップ!  作者: ちくわ犬
二章
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招かれざる者2

お久しぶりですいません。

群青王が退席して帰ってこないことは明らかだった。ヒスイに促されて部屋を辞すると私と如月とメグは休むようにと部屋に通された。十畳ほどだろうか、質素ではあるが調度品は丁寧に磨かれ、清潔感のある部屋だった。


「どうやら歓迎されていないどころか恨まれても仕方のないような存在確定だな。私は。」


「そんなの、カオリのせいじゃないし。生まれで罪を背負わされるなんておかしいだろ。……それより、おかしくないか?こっちの世界に来るのにあんなに体が負担がかかるなんて聞いていない。それなのに俺たちは5日後に都合が悪ければ帰る手筈なんだぜ?」


「……。」


「ヒスイくんは僕たちに歓迎的ですが、鬼丸君は違いますよね。カオリさんを子供にするのも勝手にしたんですから。」


「それだって、体に負担がかかっておかしくないだろ!?ヒスイは俺たちの世界での龍神の年齢層等で低年齢化しただけじゃないか?でも、カオリは違う!普通の人間が体の形状を変えるなんて危険な事のハズだ!アイツはカオリがどうなってもいいって思ってるんだ!」


「……ヒスイくん以外はってところでしょう?」


「くっそ!仲間だと信じちゃってたぜ!!図体でかいくせにきめ細やかなところが可愛く感じてたなんて俺も甘くなったもんだ。増々、帰れる気がしない。だいたい帰る話は鬼丸としかさせてもらっていない。よく考えたらヒスイには話してない!」


「「……。」」


そう言われてみれば鬼丸は何かと挙動不審が目立った。冒険心でワクワクした私たちはそんな事も気付かなかったのだ。


「……とにかく私は幼くなったが体の不調は無い。心配するな如月。何かあったらお前に頼む。五日後に帰る話はヒスイが戻った時に話をしよう。私たちの思い過ごしかもしれないだろう?」


「……そうだな。」


興奮した如月が息を吐くように言った。そうは言ったものの如月もメグも私も悪い状況に居るという確信的な気持ちだった。


軽い夕食の後、部屋に布団が敷かれ、取り合えずは眠ることになった。一応女なので別室へと誘導されたが警戒した如月とメグが許さなかった。あれからヒスイは一度も顔を見せていない。それが私たちをいっそう不安にさせていた。




******



掛け布団に体を埋めながら眠れない私は待ちに待ったその気配で体を起こした。


「しっ。」


そこには身支度を整えたヒスイが座っている。暗闇の中ヒスイの顔が確認できるのはヒスイが不思議な力で光を作っているからだろう。


「ヒスイ……。」


「カオ。こんなことになってすまない。急なのは十分承知だ。しかし、このままわしを信じて付いてくれないか。」


その手には着物……おそらく旅支度のものなのだろう。よく見ると如月とメグの分もある。


「群青王は俺たちを始末することにしたのか?」


気配を察して如月もこちらにやってきた。如月も眠れなかったのだろう。


「そんな事はわしが許さない。しかし父は今普通の状態ではない。琥珀も話が通じん。カオたちを牢に入れて検分すると言い出した。詳しいことは追って話す。まずは着替えてここから離れよう。」


そう言うとヒスイはメグを起こした。私たちは黙って着替えを済ませてヒスイの後を追った。


「こんなのすぐバレるんじゃないの?大丈夫?」


「わしが城に術をかけたからな。もう少ししたら皆眠る。半日は時間を稼げる。」


「そうするくらいにヤバい状況って事か。」


「……すまん。」


素早い動作でヒスイは私たちを城の外へと誘導した。こんな状況だって言うのにヒスイが現れたことにホッとしてその美しい髪が揺れるのを後ろから眺めている私がいる。


「カオ、どうした?」


ぼーっとした私に気づいたヒスイが声をかける。と同時にその骨ばった手が私の手を捕らえた。


「……。」


大きな手のぬくもりが私を安心させる。


「ヒスイには迷惑をかけるな。」


その言葉にヒスイは首を振ると強く私の手を握った。




******



私たちは馬で半日ほど駆けた。城の馬は目立つので足が付きやすいとヒスイは馬を放ち、さらに一時間くらい歩いて小さな小屋にたどり着いた。小さな森の近くに立った辛うじて雨風がしのげるような小屋だった。隙間風とともにギシギシと扉も揺れた。どうやら農作業の為に建てられているらしく人気は無く、脱穀の機械のようなものが置いてあった。


「これより天の國を目指す。そこは龍神の国。カオの呪いを解く方法もあるやもしれぬ。いや、見つけてみせる。」


小さな木箱を裏返すとそこでヒスイは巻紙を広げて説明をし出した。


「ここは水の國。この世界はカオたちの世界の様に球体ではない。次元が縦の階層に分かれていている。

地の國の上に水の國、その上が陸の國、そして天の國だ。それぞれの国へは門を開けることによって移動できる。門を開けるには国王の承認がいる。事情があって陸の國からは天の國にはいけない。地の國に行って話を通した方が早い。」


「ね、ちょっと。いい?俺たちは鬼丸と俺たちの世界に帰る日にちを決めていたんだ。こっちの状況が良くなかったら5日後にいったん帰るってね。サトリもそのつもりで向こうで待ってるはずだ。」


「五日後に?……琥珀がそんなことを?」


如月の話しを聞いてヒスイが額に手を当てた。


「やはり……嘘だったのか。」


落胆と共に思わず口から言葉がこぼれる。


「門を開けるのは能力者でないと体に相当の負担がかかる。わしと琥珀は特殊だがそれでもカオたちの世界ほど離れた次元を越えるとなるとそう何回も出来るものではない。ましてカオたちはこちらに来たときに相当の衝撃が有ったようだしな。」


「心臓が鷲掴みにされる感覚でした。」


メグの言葉に如月と頷いた。すぐに帰ることが無理だと分かったショックより本当に鬼丸に嘘をつかれていたのだと思う方が衝撃がある。


「少なくともわしはカオの呪いを解いてやらねば帰すつもりはなかった。琥珀が勝手な約束をしたのならわしが謝る。」


「俺たちもカオリの呪いを解くためについてきたんだ。こっちの世界にも興味が有ったし。別にヒスイに謝ってほしいなんて思ってないよ。」


「ええ。如月さんの言う通りです。」


「……琥珀が勝手な真似をしたのはこれが初めてだ。」


ぽつりと言うヒスイの顔は寂しげだった。ヒスイには幼馴染と聞いている。きっと戦時中も二人で寄り添うように戦ってきたのだろう。ヒスイにとって鬼丸は無二の存在に違いない。


「大方の説明と持参金を与えてもらえないか?私たちがいなければヒスイは城で琥珀と和解も出来るだろう。帰るまでの暫らくの間はどこかで身を隠してもいい。」


正直ヒスイ無しでこの先やっていけるかは全くと言って自信はない。が、私がそう切り出すとヒスイが困ったような顔を向けた。


「カオ。わしは必ずカオの呪いを解く。わしはカオから離れるつもりもない。」


言い切るヒスイは私の反論など受け付けないという目をしていた。


「それに、ここはカオたちがいたような平和な地でもない。戦争が終わってまだ間もない。復興に向いてはいるが土地も痩せ、人も余裕がない状態だ。ふらふらしていると野党に襲われて一巻の終わりだ。」


確かに、武道を少しばかり心得ていてもここでは通用しないかもしれん。実践など無縁の生活をしていたのだ。何よりも飢えることすら知らないのだから。しかし、ヒスイの言葉に甘えてしまっていいのだろうか。父親のいる城で生活するのがヒスイの本来の姿ではないのだろうか。ヒスイは正式な王子であるし国を盛り立てて行く役目もあるに違いない。そんな私の思考を悟ったのかヒスイは続けた。


「わしはどのみち旅に出る予定だっだ。城に居ると権力争いに巻き込まれてしまう。龍神の子と分かった以上尚更だ。後継者は兄上と決まっているのにわしを持ち上げて権力を持とうとする輩がいる。わしとて水の國にとっては厄介者なのだ。それに……流れる血のもう半分の世界も見てみたい。」


突然知った母の死と自分の出生と。ヒスイも複雑な思いがあるのだろうか。母の故郷を見てみたいと思うのは当然なのかもしれない。私のことを気遣って言ってくれているとしても右も左もわからないのだからしばらくはヒスイに甘えるべきか……。


「……ヒスイが居てくれるほど心強いものはない。では天の國とやらを目指そう。如月とメグもこんなことに巻き込んですまない。少しの異世界見聞では終わりそうにないからな。」


正直なところ帰れる当てが有ったというのがこの世界渡りの気安さとなっていたのだ。私の呪い云々などより如月やメグに危険が及ぶようならすぐに帰るつもりだった。


「俺はカオリのお婿を諦めたりしてないぜ?こっちに来たのは俺の意思だし、カオリにこの世界に行くように勧めたのも俺だ。」


「わたしなんて騙す様に無理やりついてきたんです。カオリさんが気にすることは無いです。」


「如月……。メグ……。」


二人は私を見て頷いた。なんだかくすぐったい気持ちになる。三人ともなんて心強いのだろう。


「自分の身を第一になるべく穏便に事を運ぶよう互いに気を配ろう。」


私は三人の目を見てそう述べることで精一杯だった。身の安全の保障も出来るはずの無い上になんとも心もとないこの体だ。


「まあ、なんだ?考えたってすぐには帰れないし、何よりカオリの呪いを解くって言う目標もある。ってことでヒスイ、頼んだぜ。」


「そうです。すぐに帰るのは無理でも帰れないわけではない。大丈夫ですよ、カオリさん。」


ニコリとメグも笑う。そうだな。前にしか進めない時に迷っても仕方ないのだ。


「地の國を経由して天の国を目指す。しかし、地の國へは必ず持っていかねばならん手土産が有る。それを手に入れてから門をくぐるとしよう。」


「手土産?」


「地の國の者はそれには目が無いのだ。円滑に事を運ぶにも必要だ。」


「ふ~ん。賄賂?それってなんなの?」


「セレモの実の香油だ。ここから南に下った村の特産物だ。」


「じゃあ、さっそく出発しますか。」


「……群青王は追ってくるでしょうね。」


「いや……父上が平常心を戻せば追ってはこないだろう。しかし……。」


ヒスイは言葉を続けずに口をつぐんだ。でも私たちには「しかし琥珀は追ってくるやもしれん。」と聞こえたように思えた。それほどにヒスイは傷ついた顔をしていた。私にはどうしてやることも出来ない。すまん、こんなにも鬼丸に嫌われるとは思わなかった。確かに私はヒスイの母親に惨い仕打ちをした一族の末裔だが刀として門田の屋敷で一緒に暮らしていた鬼丸は仲間だと思っていた。暗い表情のヒスイを見ると心が痛んだ。何もできない自分が悲しい。ヒスイが子供のままならすぐさま抱きしめてやれたのに。


大人の姿のヒスイに戸惑いを感じながらもどかしい想いが胸に溜まった。


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