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逆転トリップ!  作者: ちくわ犬
二章
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招かれざる者1

二章 *あらすじ*

水の國に着いたカオリたちは神の國を目指して旅に出ることになります。大人に戻った翡翠はカオリの心を掴むことが出来るのでしょうか。腹黒男に乙女男も参入して旅は進みます

光の粒が体に纏わりつくと胸が押される感覚に陥った。

肺に酸素が行き届いていないのが分かる。まるで胸を強打しながら立っているようだ。


次第に頭がクラクラとし始めた頃、湿った感触に足を取られて隣の逞しい腕に支えられるようにぶつかった。


「……。」


逞しい腕?


逆光で顔がはっきりとしないその腕の持ち主は私を上から驚いたように見つめていた。


これは?


ダレ?


もう一方の手を見返せばそこには膝をついてケホケホと咳き込んでいるメグが。

無茶をして、どういうつもりだ。後で問い正さなければ。


……それはそうとしてもこっちはメグだ。


同じような逞しい腕でもこれはメグ。力なくメグは私の手を離して自分の胸を押さえていた。


そして、向こう側に同じく咳き込んでいる如月。


あれも如月だ。


しかし……


「カオ……。」


その名を再び呼ばれる。

聞いたこともないその低い声は愛しい幼子が話しかける調子にそっくりだった。


とにかく空気を肺に送り込もうとゆっくりと深呼吸を繰り返す。


やがてしゃがみこんで目線を合わせる人物を私の目が捉えた。


ドクリ……


体中の血液が逆流したような感覚。


その輝いて見えるイケメンはいままで見たどんな男より魅力的に見えた。


「……ヒスイか……?」


私を見つめる美丈夫は私の手を握っている。なじみのある眼帯は今心なしか小さく見えるが……。



「さよう。カオ……に間違いないな?」


「?もちろんだ。」


私の返答を得た次の瞬間、男は唸るような低い声で大声を上げた。


「琥珀!お前!」


「どのようなお叱りもお受けいたします!しかし!これは皆、翡翠様の為に!」


私は異性に手を握られたことと、いきなり男が怒り出したことにビックリして手を振りほどいた。

するとヒスイ……ヒスイが私を抱きしめてきた。


こ、これはいただけないぞ。気持ちがついて行かんのだ。取り敢えず、離れてくれ。

ジタバタする私の鼻先になじみのある家の洗濯物の香りが広がった。


「カオを驚かせた……すまない。」


激しく掻き抱かれている私の心臓は口から出てきそうな勢いだった。だが、急に大人になったヒスイは私を離そうとはしないで増々その胸に抱え込む。何事か良く事情が分からないがあまりに近いその顏が悲嘆にくれているので、すっぽりと抱きかかえられた私は恐る恐るヒスイ(24歳)の背中に以前よくやっていた様にに手を回してポンポンとして見た。……えらく広い背中……。く、くらりとしそうだ……。


「もう一度門をくぐり直す。今一度開門せよ!琥珀!」


「今すぐに開門すればサトリ殿の力が及ばずとも門をくぐれるでしょう。しかし、カオリ殿のお命は保障できません。」


「っ、図ったな!」


「御手打ちになろうとも琥珀は後悔しておりません。」


「くそっ!」


「カオ、すまぬ!」


何やらヒスイ(24歳)に謝られているがどうしたのだろう。しかし、ヒスイはやたらと図体のデカイ男だったのだな……。そう思って隙間から如月とメグを伺った。


「カ、カオリ!?」


「カオリさん!!」


やっと呼吸が整った二人と目が合うと一斉に二人は私をみて叫んだ。皆、無事に来れたのだ。安心したな。しかし、黙って無理に付いてくるとはメグには一言言ってやらないと。そう思って声を出そうとすると二人がこちらに向かってくる。


……。


……二人ともこんなに大きかったのか?


不思議に思ってヒスイの腕から抜け出すとまっすぐ立ち上がった。


それを見たヒスイも立ち上がり、私は3人の男に囲まれることになった。これでも身長は女としては高い方だ。しかも、如月とは数センチも変わらない……筈。こんがらがる私にヒスイが近くの水たまりを指差した。


「え……。」


そこには


どう見ても小学生くらいの子供が映し出されていた。




*****



「……まあ、これでカオリとHしたいとは思わんわな。ロリじゃない限り。」


「小さい頃のカオリさんもかわいいです。」


「五月蠅い。ダークホース。オカマだと思って除外してたらすっかり騙されてたぜ。俺がカオリに説教されるのを見ていて、強硬手段をとって付いてきたくせに。」


「私は女の人になりたい訳じゃなくて、可愛いものが好きなだけです。貴方だけ、カオリさんと雁字搦めの世界らか解放されるなんてずるいじゃないですか。」


「くっそ~ライバルが増えて焦った俺たちが死なないための配慮でもあるならカオリが子供にされても仕方ないと思えてきた。」


「……。」


二人が好き放題話している間、ヒスイはずっと頭を抱えていた。「ならばその通りにしてやる。」と、剣を鞘から抜こうとしたヒスイを何とか抱き止めてからずっとヒスイは無言だった。


「これで恩を売ったと思われても困ります。」


一方切られる寸前だった鬼丸にはそう言われた。……嫌われている感じすらあって軽く落ち込む。

これでも同じ屋敷で暮らした仲ではなかったか。


ワイワイと楽しそうに言い争う二人を最後尾に先頭を鬼丸、その後ろに片手で頭を抱え、片手で私と手をつなぐヒスイが歩いた。


鬼丸が書いた私への異世界渡りのオプションには「10歳」と書かれていたようだ。だから広げるなと念を押したのか……。ヒスイと同じに5歳となれば足手まといになると思ったのだろう。


「愛する人と結ばれると相手が死す呪い」


そっと胸の刻印の上を手で探る。こちらに着いてそうそう皆に囲まれて覗き込まれた刻印に皆重いため息を着いた。……心配せずとも子供はサトが産んでくれているのだ。


大人のヒスイと手をつなぐのはとても躊躇われたがヒスイが当然の様に握るので断るわけにもいかず心臓の音がうるさいまま足を交互に出した。余程鬼丸に子供にされたのを気に病んでいる。時々、体が小さくなっているのについて行けず、転びそうになる私をヒスイは増々気の毒そうに気遣った。途中、堪りかねてか私を抱いて行くと言い出したのだがチラリと見えた鬼丸の形相で丁重に断った。


 サトと涙の別れをしてから門田の庭から出発した私たちは無事にヒスイの生まれ育った水の國に着いた。途中、知らん顔をしていたメグが強引についてきたというハプニングもあったがそれ以外は予定通りだった。着いた場所はヒスイの実家の城の一角で異国とうなずける澄んだ空気と土臭い匂いが私たちを歓迎していた。が、予定通りではないことがもう一つ。私の体が幼くなっていたのだ。どうやら鬼丸は私が世界渡りすると若返るように仕向けたようだ。ヒスイが思い余って私を嫁にしたら死を招くと言い張った。……そんな事せずとも、こんな色男が私になんぞ手を出すわけがない……と叫びたかったが、よくよく考えると「付いて来てくれ」だの「幸せにする」だのプロポーズまがいのことを言われていたのを思い出し、先ほどから私の顔は火がついたように熱かった。し、しかし、あれだ。アレは自分の母親がかけた呪いを気に病んでのことで……。


綺麗な顔の子供だと思っていたが……これほどまでに成長するとは……。


一気にヒスイを意識してしまう私はなんとか手を離して貰えないだろうかと先ほどから引かれる手に気が気でない。


今まで散々ためらうヒスイの手を引いてきた私が今、抗うわけにも……。


いや、今は状況が違うのだから、話せば分かってくれるのではないか?


……急に恥ずかしくなったからって言うのか?


意識しすぎだろう。今は私が小さくなったから心配しているんだろうし……。


なんだかんだ考えては手を離してくれとは言えず、だんだんと汗ばむ自分の手が恥ずかしくて堪らない。ヒスイの父親の居住に着くまで拷問のようなそれは続いた。




******



 平らなこの城はまるで平安時代の建物のようだった。「城」といってもここには上階などは存在しない。復興中とあって丁寧に彼方此方が手直しされていてところどころは矢じりの跡を残すところもあった。質素ながらも城主に敬意を籠めて磨いてある長い廊下は黒光りしていて奉公人の想いが伝わってくるような城であった。奥まった一室に着くと鬼丸が私たちを横一列に正座させた。すると奥の襖が開け放たれて一人の男が出てきた。


「翡翠……よう戻った。」


精悍な顔立ちの大男がヒスイをまず抱きしめた。この顔を私は知っている。鬼丸が化けていたヒスイ(5歳)の父親の顔だ。


「兄上。」


ヒスイは兄に誘導されて座敷の奥へと導かれる。一度私たちの方に視線を投げたが正面の台座の上に座る人物を確かめると前を向き直って腰を落とし、頭を深々と下げた。


「只今、戻りました。」


「翡翠。無事で何よりだ。お前を騙す様に母の元へとやった。許せ。しかし、表だってお前を「龍神の子」とすればまた国に諍いが起こる。詳しいことが話せなかった為に母親を疎ましく思っているお前にどうしても母親に会わせてやりたかった。それが約束でもあったからな。……母とは、黄白華とは会えたか。」


ゆっくりと翡翠を慈しむように話し出した人物はヒスイ(24歳)の父に違いなかった。ちょうどヒスイの兄を老けさせたような風貌で貫録のある髭を蓄えている。


「……はい。」


「元気にしておられたか?」


「……。」


ヒスイの沈黙に耐えかねた鬼丸が膝行して前に出ると平伏しながら大きな声で答えた。


「申し上げます。群青様。黄白華様は……既にお亡くなりに……。」


一瞬、群青王はそのとび色の目を見開いてから押し黙った。

鬼丸は大事そうに胸の合わせから包みを出すと群青王に見せた。


「おお……。」


今は光を帯びていない龍魂をためらいもなく上段から降りた群青王は鬼丸から受け取った。


「黄白華……。」


愛おしそうにその玉を胸に置いた群青王の声は一段と低くなる。


「琥珀よ……龍魂とは生きたものからしか取れん筈ではないか……。」


「……。」


「黄白華はそのような仕打ちに逢っていたのだな……。」


沈む声がその場を震わせた。


下を向いた群青王の顔は伺えることが出来なかった。それ以上王は何も言わず、龍魂をもってその部屋を出て行ってしまった。






二章の始まりです。よろしくお願いします。


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