呪いと想いと1
今回で区切ろうと思ってましたが……む、無理でした。
あと2話ほどお付き合いください。すいません。
むかしむかし
あるところに龍神様につかえる娘がいた。
娘は龍神の声を聞くことができ、その声で村を潤していた。
そこへ旅の男が泊めてくれと一晩の宿を娘に借りた。
旅の男が好きになった娘は龍神の話しをすっかり男にしてしまった。
龍の魂の玉が龍神の命なのだと。
男は娘をそそのかし、龍神から玉を抜きとると龍神を閉じ込めて大金持ちになった。
「……地方に伝わるお話にしては柴山の話しに似てるでしょ?」
サトがメグと調べてくれたことを報告してくれた。柴山の裏の顔やその近くに伝わる話。
「柴山の長女に伝わる力とは龍神の声が聞こえる巫女というわけか。」
どういうわけか眠っているうちに屋敷に帰ってきた私は先ほど柴山の当主と高瀬の死を知った。
サトが明人さんに聞いたところ原因は追究中で有るらしいが薬物問題を軸に色々問題の残る事件となっているようだ。
サトに両親のことを話そうと思ったが……辞めた。掘り返してみたところで悔しく思うだけで高瀬と柴山が死んだ今何がどうということもない。私の胸に秘めておけばいい。
「この言い伝えではこの娘は龍神の怒りを触れて死んでしまうんだけどね。」
「時間はかかったが……その通りになったって事か。」
「……そうね。」
サトはそれきり黙っていた。何か感じているのだろう。
「サト……。」
「なあに?カオちゃん。」
「ちょっと抱っこしてもいいか?」
「……カオちゃん、それって『抱きしめていいか?』でしょ?」
「そうだな。」
ぎゅっとサトを腕に抱きこむ。
サト。たった一人の私の肉親。
両親は浮かばれたのだろうか……
悔しさと虚しさが胸を占める。私たちの人生を狂わせた者たちはもういない。
「もらいっこ」と罵られて喧嘩して膝を血だらけにして帰ってきた幼いサトが昨日の様に思い浮かぶ。この村に引き取られて間もなく事なかれ主義のサトが村のボス的存在に一人で立ち向かったのだ。ジイ様が事情を聴いても一切口を割らなかった……ただ、黙って拳を握っていた。一晩反省しろと入れられた蔵の中へこっそり様子を伺いに行くとサトはジッと壁を見つめていた。背中を何回も撫ぜるとようやく泣き出したサトは持ってきたおにぎりを頬張りながら私をぎゅっと抱きしめた。
あの時しゃくり上げていた背中はこんなにも頼もしくなった。
「カオちゃん……。もう大丈夫だからね。」
サトが心配して私の背中をさすった。
結局、不覚にも大泣きしたのは私だった。
*****
「カオ。大丈夫か」
もうひと眠りしてしまった私が次に起きたのは二日後だった。
どうやら相当くたびれていたらしい。昼ごろようやく起き上がった私を待っていたらしいヒスイが声をかけた。
「ヒスイは?」
「わしは大丈夫じゃ。カオは相当疲れていたようだが。」
「サトが居ない時はヒスイが居てくれたのだろう?」
「大したことじゃない。」
笑いかけるとヒスイが目を伏せた。ヒスイは優しく起き上がろうとする私を支えた。
「少しでも入るか?」
ヒスイが盆に載せた粥を差し出した。ぎこちないそのしぐさに愛しさを感じる。
座ったままの私に甲斐甲斐しくカーディガンをかけるとヒスイがレンゲに粥をすくう。
「……まるで……。」
まるで、親鳥のようだな。という言葉は飲み込んだ。幼い子にこんな言葉は無いだろう。
ヒスイにふうふうされて胸が温まった。思っていたより食欲は無かったがヒスイの前では食べるように頑張った。
そうして一週間ほど経って体調がようやく戻ってきた頃
「カオ、大事な話がある。」
覚悟を決めたような顔でヒスイがそう告げた。
******
ジイ様の仏壇のある部屋にはサトの子供以外の全員が座っていた。
サト、メグ、如月……それからヒスイに似た男。目の前のヒスイは私が座るまで守るようにじっと眺めていた。
私は鈍い頭で考える。そう言えばこの男は柴山の家でも見かけたことが有る。……ヒスイの本当の父親なのだろうか。
「今から事情を説明するが、カオには落ち着いて聞いて欲しい。」
「翡翠様……私が説明いたします。」
「翡翠様」と呼んだ男に違和感を感じる。父親が引き取りに来た話しではないのだろうか。黙って成り行きを眺めていると男は私を見据えて話し出した。
「まず、翡翠様と私は此処とは違う世界から参りました。向うでは……水の國では第二王子で有らせられます翡翠様の従者をさせていただいています。……本来の姿は魔剣。こちらではカオリ殿の所有するものに入っておりました。」
「カオちゃん、そいつ、鬼丸なのよ!」
「は?」
サトリの声は冗談のようには聞き取れない。次の瞬間男が鬼の姿に変化した。
驚いた私は声のも出なかったが、他を見渡しても誰も驚いている者が居なかった。
「……続けても?」
「あ、ああ。」
「話しは少し遡ります。我が水の國では長きに渡る戦争によって民は貧困に苦しんでおりました。先妻も人質に取られ、殺害された水の國王「群青」は幼き息子を連れて頭を抱える毎日でした。そこで龍神にこの國を救って頂けるようにと一人で神山に上り神託を賜るために頂上をめざしたのです。そしてその途中で出会ったのが黄白華様。二人は一目で惹かれあい、愛し合ったと聞いております。その時お二人に御子が出来たのです。ところが黄白華様の正体は龍神でありました。神と人の子とが結ばれることは神国では禁を犯すもの。黄白華様はその子供が戦争を鎮めるであろうと言いのこし、大きくなったら会いに来させてくれと言い残すと他の世界に逃れました。」
「それが、ヒスイ……。」
鬼は頷くと話しを続けた。
「成長した翡翠様のご活躍により黄白華様の言った通りに戦争も終わり、群青様は翡翠様を黄白華様に会いに行かせることを決めました。神の血が通う翡翠様なら母の所へ通じるだろうと門を開いたのです。私は所有物として翡翠様に付いて行ったのですがどこかで落っこちたようで……。」
「……こんな幼い子供が戦争で活躍?」
「翡翠様は御年24歳。推測でありますが龍の血を受け継いでいらっしゃるのでこちらでは龍神の年齢の姿見になるのではないかと。」
「でも、どうしてここにヒスイが来たというのだ。」
「それはカオリ殿が神の道先案内人で有ったからでしょう。」
「……巫女の血か。」
ほとんどは頭に入らない。目の前の男は鬼でヒスイは異世界の24の男で…混乱するばかりだ。
「柴山の屋敷に捕らえられていたのが母だ。」
嬉しかったのではないのだろうか。ヒスイの声が唸るように言った。
「そうか……では、会えたのだな。」
「会えたのが良かったのかは今となってはわからん。カオにあんな……!」
「翡翠様!黄白華様は國を救った翡翠様のお母様なのですよ!そんな言い方は!」
「しかし!カオの胸に呪いの刻印が出来た!」
「え……?」
ヒスイと鬼が言い争う声を聞いて不思議に襟ぐりから胸を覗き込んだ。
「なっ!」
私の胸には何やら怪しく輝く印が深くつけられていた。
*****
なんだ?
「呪いの刻印」? にしては触っても何ともないようだ。
「これは?」
「母が勘違いしてカオに呪いをかけた。」
「呪い?どんな?」
「……。」
「……カオリ殿が愛する人と結ばれると相手が死す呪いです。」
「ああ。」
そんな予定のないことで騒ぐことは無いだろう。と、思った瞬間周りが騒ぎ出した。
「もう!ちょっと!じゃあ、カオリとHした男は死ぬって事!?冗談じゃないよ!」
「如月さん、愛する人って前提があります。落ち着いてください。」
「ダ~~ッ!落ち着いてられるか!」
「結ばれるって曖昧じゃない?抜け道ないの!?」
口々に感想を言い合うのに頭がクラクラしてきたらヒスイが大声を出した。
「静まらんか!」
その場が一瞬にして静まった。なるほど王子とは本当かも知れんとなんだか納得してしまった。
ヒスイはジッと私を見つめると私の手を握った。
「カオ。これは大事な話だ。母がかけた呪いはきっとカオを苦しめることなる。……カオ、わしと一緒にわしのいた世界に行ってくれないか?神の國に行けば呪いを解く方法があるやもしれん。」
「しかし!そんなこと出来るのでしょうか!?」
「まずは父上に話をしよう。微かでも希望があるならわしはカオの呪いを解く方法を模索する。」
「……。ヒスイの國?」
「そうだ。カオ。わしに付いて来てくれないか。」
真剣に言葉をつづるヒスイ。これが5歳の姿でなければまるでプロポーズのようだと思った。ヒスイは責任を感じているのだろう。さて、どうするか……。
「わたしもこの屋敷を仕切るものだ。おいそれとここを離れるわけには。」
「駄目よ!カオちゃん!カオちゃんの幸せがかかってるんだから!」
「しかし……。」
「ヒスイには責任とってもらいますからね!」
「望むところだ。」
「ヒスイ、カオリを連れて行くってどういうつもりだ!」
「カオリさんがヒスイ君の國に行くって事なんですか?」
「そうなるな。」
「ムキ~~!俺も行くぞ!」
「はあ!?」
如月まで何やら言い出してサトが呆れて応対している。
私は
私はどうする?
考え込んでいた私をヒスイがずっと見つめていた。
*****
「一人で考えたい。少しの間そっとしておいてくれないか。」
話しは聞いたが何だかすぐに答えが出せるわけでもなく、部屋に戻って考えることにした。
いまいち自分の身に起きたことが呑み込めん。
部屋に戻ると上着を脱いで自分の胸を見つめてみた。鏡に映る心臓の辺りに何やら文字が浮き出ていた。
「呪い」……龍神に呪われたか。龍神にとって自分を閉じ込め、長年だまし続けてきた柴山は呪われて当然だったろう。ふと、寂しげに叫ぶ姿を思い出した。この体にその血が流れるなら仕方ないようにも思えた。
「サトは大丈夫なのかな……。」
で、あれば問題でもないような気もする。ヒスイが元の世界に戻る……その方が自分には問題のような気がする。
寂しいな。
ふう、と上着を着直すとサトの慌てる声が聞こえてきた。
「カオちゃん!開けていい?」
「何かあったのか?」
「あのね、あのね、カオちゃん……璃音が……。」
「璃音?」
「亡くなったって……。」
「……。」
「一緒に逃げていた男の人が居たんだよね?その人が先に亡くなって……後を追ったらしいの。」
「そうか……。」
赤井と璃音は……。
「それで……。」
「まだあるのか?」
「うん……。璃音の胸にはカオちゃんとおんなじ印が有ったみたいなの。」
蒼白な顔をしてサトが私にそう言った。