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逆転トリップ!  作者: ちくわ犬
一章
13/26

新しい生活1

「さっき来てた人誰だか知ってるか?」


「お客様と大事な話があるからお兄ちゃんと遊んでね」と、サトリに促されて如月と奥の部屋に押し込められてしまったわしとヒロとミチ……と如月の背中で眠っているトモは最近門田家で大流行おおはやりの魚釣りゲームなるものを広げる。一番多く魚釣り上げた者はおやつの盛り皿を一番目に選べることになっている。


「ん~っと、なんかエライひと。カオちゃんのオコムサこうほっておかあさんがいってた。」


「オコムサ?……!!お婿さん!?ま、マジか……。」


如月に尋ねられたヒロが答える。カオの「婿」候補とは聞き捨てならん。ちらちらと廊下越しの応接間のある場所を如月が伺う。もちろんわしだって気になる。


「ねえ、君たち。お兄ちゃんは大事な用事があるから三人で遊んでてくれるかな?」


「え~ヤダ。」


「ミチもヤ~。」


ヒロとミチが反対する。なんのかんの言ってもこの男は子供受けするらしくヒロもミチも一緒に遊ぶのが大好きなのだ。


「ヒロ、ミチ。」


わしはこっそり釣竿の先の磁石に「強」と書く。すると普段は一匹しか釣れない魚がガシャガシャと山になってくっついた。


「「わ、わ~~~!かして!かして!」」


二人が団子になってわしの方へと向かってくる。さあ、如月。行って様子を見てくるのだ。場合によっては妨害してくれればよい。じっと如月を見据えれば、わしの意図が分かったのか如月が慌てて頷いた。


「じゃあ、頼むよ。ヒスイくん。」


うむ。頼んだぞ。如月。



*****



いつまで経っても帰ってこない如月も気になったがヒロとミチがおやつの時間だと騒ぎ出してしまったので二人を連れて食堂へと向かった。小さい体では食物庫の扉を開けるのも苦闘する。


「ごめん!ごめん!ヒスイ。後は私がやるから応接間に行ってくれるかな?」


物音に気づいたのかサトリがやってきた。


「も~おかあさん!おそいよお~おなかすいた!」


「ミチはチョコ!チョコついたやつぅ!」


「もってくからあんたたちもヒスイと一緒に応接間に行って。」


「ジュースは?」


「ミチもジューシュ!」


「持ってく。持ってく。」


ハイハイとサトリに追い出されるように食堂から出されたわしはヒロとミチの背中を押しながら応接間に向かった。

そこには前に一度養子の件で会ったことのある男が座っていた。帰ってこなかった如月もにやけ顔で座っっている。


「ヒスイ。今日からこの家でしばらく一緒に住むことになった……え~……。」


三人で正座してテーブルの向かいに座ると珍しくカオが言葉尻を濁した。かぶせるように男が声を上げる。


「メグといいます。よろしく。ヒスイ君。」


「……ヒロとミチも仲良くしてくれ。」


メグという男は以前とは違う柔らかな表情でわしを見ていた。「婿」話はどうなったのだろうか。


「「メグ」っておんなのこみたい……。」


「大ジイがつけた名前なんだよ。ヒロ。」


「メグ……かわいそう。」


隣のヒロが心底哀れなものを見る目でメグという男を見る。「メグ」という名前は女子おなごによく使用する名前らしい。


「ヒロ、そんなにかわいそうな名前なのか?」


「だって、オオジイはそういうのだめなんだもん。まえかってたカメだって「カメオ」だよ?」


「へ、変なのか?」


「だってさ、おんなのこだったのにおとこのなまえだったんだ。」


「ふ~ん。」


小声で聞くとヒロはそう教えてくれた。その変わった名前で満足しているのであれば変わった男なのであろう。


「ヒスイくん!俺も今日から一緒だ!宜しくな!」


え……。如月がニコニコとこちらを見ている。


「どういうことなのだ?この者は危険だとカオが言っていたのだぞ?」


「ちょ、そりゃないよ!ヒスイくん!」


「如月はメグが住む間だけだ。大所帯なら変な噂も立たぬだろう。ヒスイは嫌か?大丈夫だ。飯の用意には触れさせんと誓うから。」


「……わしはカオが決めたのならそれに従う。」


飯の心配はしておらんのだが……カオのみさおはわしが守るからな。



*****




夜になってどちらかと風呂に入るかとカオに言われた。いつもカオが何かあってはいけないと風呂の外でわしを待っているのでどちらかと入った方がカオの負担が減って良いだろう。この家の風呂は五右衛門風呂というものらしく浴槽の下が金属になっていて下から火をくべる仕組みだ。昔は門下生も使っていたというもので浴槽はさほど広くないが洗い場はまあまあの広さだ。普段は入る人数も多くないので一度沸かしてしまうと火は消されている。わしが火傷しないようにとのカオの配慮だ。


「ヒスイくん!僕と入ろう!僕!僕!」


如月はわしを味方に付けたいらしく何かと構ってくる。猫なで声で「僕」を使っているときは要注意だ。わしは男と入るのならばどちらでも構わん。誘ってくれる方とが無難であろう。そう考えていたときカオが声をかけた。


「ちょっとまて。メグはうちの風呂は初めてだからな。ヒスイ。メグに入り方を教えてやってくれないか?」


「わかった。」


「カオリ!俺だって初めてだから~~~優しくして?」


くねって如月がカオを見るとカオが眉間にしわを寄せた。


「お前はうちの風呂の構造には詳しかろう?」


思わせぶりなカオの言葉でメグとわしは如月を見た。


「え、あ?ま、そのお。若気の至りというか……もうしません。」


メグとわしの軽蔑の眼がいたたまれなくなったのか謝る如月。はあ。カオの入浴中も監視せねばならんな。


結局3人で入ることになり、ウキウキ前を歩く如月を見ながらぎこちなく歩くメグを連れ立って風呂に向った。



*****



「あの。その……人と入るのはほとんどなくて。」


わしがすっかり裸になっているのにメグはモジモジとタオルで体を隠しながらゆっくりと服を脱いでいる。他人と入ったことがないのだろうか?


「先に入るぜ?」


それに気を取られていた内にさっさと脱いでいた如月はそういって風呂の中へと入ってしまった。


「まて!如月!一番風呂は熱いぞ!」


「熱いのへ~きだよ。」


言いながらザバ~ザバ~と湯の流れる音がする。


「ぎゃ~~~~~っ!!」


「だから!待てと言ったであろう!うつけ!」


足の裏を真っ赤にした如月の足に水をかけてやる。まあ、足の裏の皮は厚いから大丈夫だろう。


「浮いていた板を外してはいかん。これを踏みながら沈めて底に足がつかんように入るのだ。この風呂は下から水を熱する仕組みで一番風呂の底はとくに熱いのだ。」


「う、うん。」


如月は幼子のように情けなくわしに介抱された。外に出されていた板を戻すと如月を風呂の中に入れてやる。


「だ、大丈夫ですか?」


心配そうにやっと着替え終えたメグが顔を出した。


「おい、風呂でタオルは反則だろう!外せ!」


メグを見た如月はタオルの端をつかんで強引にメグのタオルを取ってしまった。


「……。」


「……。」


メグは顔を真っ赤にして下を向いたが均整のとれた筋肉の体はよく鍛えられていた。如月も肌が白い割には鍛えられているが腹が割れているわけではない。


「メグは体を鍛えているのか?」


「……ス、スポーツジムで……。ただでさえ似合わないのに小太りの男の女装にはなりたくなくて。」


「?メグは女装が好きなのか?」


「あっ……う、うん。そうだよ、ヒスイ君。」


そういえば陸の国にはそういう部族がいた。女のような服装を好むがそれでいてめっぽう腕利きの集団だ。メグはそういった部類の人間なのだろうか。


「ヒスイ君は私のことを変だと思うかい?」


「人はその本質に従えばよい。」


「……ヒスイ君て難しい言葉知ってるね。でも、うん。そういわれると力が出るよ。」


「……ちっ。」


黙って成り行きを聞いていた如月の舌打ちで会話は終了した。風呂から出た如月はカオに足の裏を見せて同情してもらおうと騒ぎ立てたが「なら、帰れ。」と一掃されて軟膏を渡されていた。夜着に着替えたメグはヒラヒラの服がよほど気に入ったのか脱衣場の小さな鏡の前で何度も回っていた。



「どうだった?あの二人と入ると疲れただろう?」


風呂上りに牛乳をカオが差し出してくれる。早く育つのだというのだからたくさん飲んで元の姿に戻らねば。


「騒がしくあるが問題ない。」


そう答えるとカオはふっと笑ってわしが飲み終わるのを嬉しそうに眺めていた。




******



「カオちゃん……谷嶋家の一大事です…。」



次の日サトリが青い顔してヒロたちを幼稚園に送った後にやってきた。カオはわしにも幼稚園を進めたがサトリの助言通りにまだ人が怖いと言って入園は断念してもらった。その代りにヒロと一緒に道場に週2,3回顔を出している。

サトリの背中からトモを受け取ったわしは布団の上にトモを寝かせてやる。最近寝返りができるようになったトモはずいぶん布団の上で動けるようになった。


「どうしたんだ、サト。」


「明人さんの単身赴任が決まった……。」


「?単身赴任?ついていかないのか?その時はついて行くって言ってなかったか?」


「フィリピン2年は微妙じゃない?なんか入院した人のピンチヒッターだからずっとじゃないらしいんだけど、私は語学からっきしダメだし、2年ほどっていうのも微妙……明人さんもカオちゃんのところにいた方が安心じゃないかって言うから。」


「確かに2年だけ3人連れて海外はきついな。」


「ヒロは来年小学校だしなあ。ぐすん。」


「まあ、大丈夫だろう。持ち家もあるのだから今のままで待っている方がいいだろうしな。」


「うう。」


……なにやらサトリの夫が遠征に出るらしい。父親が大好きなヒロたちは悲しむであろうな。わしは笑っているトモの頭をなでてやった。


サトリ親子は次の週に旅立った夫を見送って帰ってくると夕飯まで門田の屋敷で暮らし、朝こちらにくるという生活をすることになった。しばらくしたら家に帰るだろうと思っていたメグは結局門田に居座ることとなる。と、いうことはもちろん如月も一緒だ。


そしてメグの家財道具を運び出すという面倒な任務に就いたのは最後まで文句を言っていた如月とわしだった。



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