13.戦い
俺と婆ちゃんはアルミラージを倒したイーリスの背中を見つめていた。
「イーリ―」
「シッ!」
俺が話しかけようとしたが婆ちゃんに待ったをかけられ、イーリスの方を指さす。
そっちを見るとイーリスがしゃがんで何かをしていた。こっそり覗くとアルミラージに向けて手を胸の前で握っていた。
「安らかに眠ってください。・・・ん!?あ、ごめんレーくん」
「な、何をしていたの」
「いや、命を奪ったから天国に行くよう祈りを捧げたんだよ」
いや、やらなくていいだろ!って言いたくなったが抑えた。
「イーリスちゃん、これからもするの?」
婆ちゃんが歩み寄りながら聞く。イーリスは少し迷いながら答える。
「たぶん、します」
「魔人、魔王をもし倒すことになっても?」
「ええ。何百、何千、何万の魔物や魔人、魔王を倒したとしても。毎回すると思います」
「・・・そう。その考えに私は口を挟まないわ」
「ありがとうございます!」
イーリスのいつも通りの笑顔を見て安堵する。
「にしても、あの子は聖女の素質を持っているわ。勇者には勿体無いかも」
俺に向かって言う婆ちゃんは、ニヤニヤして言ってくる。
「そ、それは勘弁してください!イーリスは勇者になる逸材ですからダメです!」
「そうかねぇ?聖属性も使えるしいけるわよ」
「俺が許可しません!」
俺と婆ちゃんが睨み合う。が、婆ちゃんが先に目線をイーリスに向ける。
「レイド、本当にあの子を勇者にしようとしているのね」
「そうですけど」
「何で?」
ギクッ
何で?何でと言われたらそりゃあ〜もちろん自分の将来のため!・・・とは言えない。
俺が返答に困っていると見透かしたように婆ちゃんは俺の目を見て笑う。
「まあ、理由はいいとして、あの子は成る気があるのかね?」
「一応確認は取っていますし、彼女の母親は魔族に―」
「ああ、聞いたわよ。だけど復讐するために勇者をやっているわけではないのね」
「たぶんそうです。心の内を全部理解できるわけでは無いですけど、幼馴染として見て正義感は強い奴なんで人類のために頑張ってくれますよ」
だから俺はあいつの師匠になった。あいつならきっと勇者になってくれると思ったから。
俺と婆ちゃんが話をしている頃、イーリスはアイテムを回収をしていた。
アイテムは魔物を狩った後に獲得できる物。
【裂け、砕き、成れ】
こう唱えると魔物を魔法が解体してくれ、アイテム部分だけを残してくれる。アルミラージの場合だと、毛皮や一本角、コアを手に入れられる。
魔物の種類によって獲得できるアイテムが変わってくる。
「イーリス、終わったか?」
俺が聞くと、こちらに振り返って答える。
「うん、もう終わる」
顔にはまだ緊張と罪悪感が残ってた。
「お祖母様」
「分かっているわ。今日のところはここで終わりにしましょう」
「え、どうしてですか。私はまだやれますよ」
イーリスが元気アピールをするが、婆ちゃんは首を横に振る。
「メンタル的にもそうだけど、体力的にも休まないといけないわ。まだ、明日もあるし、今日はゆっくり休みなさい」
「・・・わかりました」
少し不服そうな表情をしたが、すぐにいつも通りに戻る。
こうして初めての(イーリスの)魔物狩りが終わった。
◇◇◇
「二大蔓巻」
イーリスが土魔法を詠唱する。すると、地面からいくつもの大きな蔓が伸び生えてくる。
それを操り、犬の顔で体が人型の魔物【コボルト】の足に絡ませる。
グルッッッ
絡まった蔓に足を取られ歩けなくなった三匹のコボルトは、イーリスの方を見て威嚇をする。
「レーくん」
「ああ」
俺は身体強化を使い瞬時にコボルト達の背に回る。油断した馬鹿犬ヅラの奴らの首めがけて剣で斬り裂く。
シュッッ―――ザシンッ―――ザシンッ―――ザシンッ
連続で頭が三つ転がり落ちる。
「いっちょ上がり」
俺は剣を振って付いた青い血を落とす。
「うっぷ」
転がった死体を見て、イーリスが目線を逸らす。
「まだ慣れてないのか」
「うん、人型の魔物はどうしてもまだ殺し慣れてないの」
まあ無理もない。人を殺すのと同じぐらいの気持ちだから十二歳にはきついだろうな。
あの日から一週間。
俺達はD級の魔物を簡単に倒せるぐらいまでにはなった。
連携も出来るようになり、イーリスも少しずつ魔物狩りに慣れていった。
「貴方達、大分慣れてきたじゃないの。子供の成長って本当に凄いわね」
「いや〜それほどでも―」
「貴方のことではないわ、レイド。イーリスちゃんが凄く成長したと言ったのよ」
糞婆!前世合わせたら俺の方が年上だぞ!
「ありがとうございます!」
イーリスは嬉しそうに頭を下げる。
「ふふふ、良い子だね。どこかの孫と違って」
うるせえ、俺の中身は大人だぞ。
「よし、貴方達、付いてきなさい」
突然婆ちゃんが言い出した。
「ど、どこに?」
「いいからいいから」
そう濁して婆ちゃんは平原を歩き進む。
太陽はまだ真上を通り過ぎたばかり。
これから何処に行くのだろうか?そう思いながら俺達は後に続いていった。
平原の端の方に来た俺達はいる。が、まだ婆ちゃんは歩き続ける。目の前の森へとずかずかと入る。
「ねえ、まだ〜」
「もう少しよ」
まだ進むのかよ!
森に生える大きな木々。先程とは打って変わって暗くジメジメとしている。俺の周囲に魔力を流しながら警戒する。
「・・・情報通りいたわね」
森に入ってから三十分。婆ちゃんが立ち止まる。
何がいたのか分からず魔力を流すと、俺とイーリスは驚く。
「「サイクロプス!!」」
【サイクロプス】は人間の三倍の一つ目の巨人、棍棒を武器にする魔物だ。
異世界でお馴染みの【オーク】より俊敏で知能も高いが、人食い巨人の【オーガ】みたいに魔法は使えない。
「お祖母様、あ、あれB〜A級ですよね」
「ええ、A級よ」
・・・よし、逃げよう!
「こら、何処に行こうとしているの?」
帰ろうと背を向けた俺の服を掴む婆ちゃん。
「い、いや〜ちょっとトイレに〜」
「逃げるなんて真似したらただじゃおかないわ」
「はい、すいません」
婆ちゃんにキレられるよりサイクロプスの方がマシだ。
それにしても、サイクロプスを狩るのかよ!
人間の魔法が進化したように魔物も強くなっている。
俺の前世時代のサイクロプスは今の時代で言うとC〜B級ぐらい。今回の相手はA級だ。
全盛期の俺でさえ一人で戦って勝てるかどうかわからない。まして子供の姿の俺と魔物狩り歴一週間のイーリス。
無理としか言いようが・・・待って、だったら―
「ああ、ちなみにイーリスちゃん。テラ以上の魔法は使っては駄目よ」
先手を打たれた!クソ、イーリスの魔法で一発ドカーン作戦は駄目か。
「さあ、二人で倒しなさい。貴方達ならきっといけるわ」
俺は剣を抜いて戦闘態勢に入る。
「イーリス」
「レーくん」
俺らはお互いの顔を見て頷く。
「二大空風」
イーリスの風の刃がサイクロプスの足を狙う。しかし寸でのところで躱される。
俺は背後へ廻り太ももに剣を刺そうとするが、それに気づき棍棒を俺へと振ってくる。
瞬時に俺は躱して距離を取る。振り返ったサイクロプスは俺めがけて来るが、イーリスが魔法を放つ。
「二大蔓巻」
地面から生え出た蔓がサイクロプスの足に絡みつき足を止める。
「レーくん!」
「オッケー」
足取りが重くなった巨体を俺は逃さない。
「重豪」
剣に付与をつけ、膝の関節めがけて剣を振り斬る。だが、
ザシンッッ―――ガッッーーン
剣が硬い何かに当たる音が辺りに響く。
「やっぱり硬いか」
俺は反撃が来る前に距離をとる。
サイクロプスの体はものすごく硬い。普通に剣を振っても斬ることは出来ない。だったら・・・
俺はイーリスの方に寄っていき、ある作戦を告げた。
「行くぞ、イーリス。作戦通り」
「うん」
イーリスは頷き、魔法を詠唱する。
「二大空風」
同じ魔法をもう一度サイクロプスの足元へと放つ。が、予想通り簡単に避けられる。
ただ、俺は視線がズレたときを見計らって走り出す。俺との距離が小さくなったその時、
「防壁」
イーリスが地面にバリアを出す。そこへ俺は走り込み、足場にしてジャンプする。
「防壁」
さらに空気中にバリアが張られる。そこに足を乗せ、上へとジャンプする。
グラァァァーーー!!!
目の前で飛ばれたサイクロプスは怒り狂い、雄叫びを上げ、棍棒を俺めがけて振ってくるが、避けるため空を切る。
「防壁防壁防壁」
俺が飛ぶごとにその先にバリアが張られる。
サイクロプスの頭上に着た時、俺は手を前に出して詠唱する。
「一大炎火」
人の頭ぐらいの大きさの火球を奴の目玉めがけて放つ。
予想通りサイクロプスは手で目を覆い、魔法から身を守る。
サイクロプスの弱点はその大きな目。その普通より情報が入る目のお陰で俊敏な動きが出来る大事な場所。
だからこそ弱点となる。
「二大水流刃!」
隙だらけとなったサイクロプスの体にイーリスが魔法を打ち込む。
水の刃が目にも止まらぬ速さで進み、奴の腹を斬り裂こうとする。が、攻撃に気づき咄嗟の判断か、体をのけぞらせ致命傷を避けた。
しかし、体からは青い血が滴り落ちる。
グルァァァァーーーー!!!!
自分が怪我を負わされたことに怒り狂ったサイクロプスは立ち上がり、イーリスへと向かっていこうとする。
だが、
「注意不足だったな」
上で未だに待機していた俺。イーリスに意識が向いていたサイクロプスは俺の存在に気づいていない。
「重豪」
俺は剣に付与をかけ、、奴の目玉めがけて突き刺す。
ブズズズズ―――――ギャァァァーーーーー!!!
剣が突き刺さる嫌な音がした後、サイクロプスの悲鳴が響き渡る。
暴れだそうとするが、俺はすぐさま剣を離し、地面に降りる。
大量の血を出すサイクロプスは、最後の力を出して俺達に向かってくるが、
「一大水流刃」「二大水流刃」
空いた首へと俺らは魔法を打ち込む。
どんなに弱い魔法だろうと、どんなに強度な体だろうと。魔法を打ち続ければ、練度が高ければ。
シュシュッッッ―――――――ドサッッ
俺らの魔法でサイクロプスの頭が落ちた。




