~カオルと名乗る者~
~カオルと名乗る者~
この世界、しかもこのツーソンという町で僕の名前を知ってるのはまだほんの数人だけ、それなのに僕の名前を呼ぶ相手、どう考えても普通じゃない。
息をころして周囲を見まわしたけど、人がいる感じは無い、でもほんの少し違和感のようなモノを感じる。
なんだろう、この変な感じは?
僕は心の中で、こうつぶやいていた。
某アニメの〇〇タイプってヤツみたいだな。
さっきまで聞こえてた声も僕がテントから出ると聞こえなくなってしまった。
周囲からは草木の葉が風に揺すられ起こるノイズのような音しか伝わってこない。
僕は微かに感じる妙な違和感が気になりながらもテントに戻ろうとした、がその時!
「ユ・ウ・ト・・・」
またっ!
僕は剣をグッと握り直しながら、サッと振る返った。
すると、さっきまでなにも無かった場所、テントから10mくらいの場所に人のようなモノが立っていた、その人のようなモノの周りには陽炎のような揺らぎがあり、一目で人じゃないことは分る姿をしていた。
「誰? なんで僕を知ってるんだっ?」
「ユ・ウ・ト、ワタシノユウトナノネ、ヤットアエタ」
その人のようなモノは感情が無いフラットなまるでAIのような話し方で話掛けてきた。
「やっと会えたって、どういうことだ? あんた誰だよッ?」
「ワタシハ、カオル、ユウトニアウタメニココデマッテイタノ」
「カオル? なんかずっと昔に聞いたことのあるような気がするけど・・・」
そのとき、テントからエレーナたち3人が出てきて、僕が人らしきモノと対峙してる状況をみて、すぐさま戦闘体制を取った。
「なによ、あれ? 人じゃないわよね?」
「お化けならアルはちょっと苦手ぇ・・・」
「ユウト、あれが異変の主でしょうか?」
「そうみたいだけど、僕のことを知ってるし、もしかしたら僕も彼女を知ってるのかもしれない」
「彼女? あれ女なの?」
僕は無意識にソレのことを女子として認識して「彼女」と呼んでいた。
「そう、彼女はカオルと名乗っているから女子だろ?」
「そうね、カオルなら女の子って見るのが普通よね」
僕はタミーがそう言ってる間もずっとカオルという名前の記憶を探していた。
この世界に来てから人間界の記憶がどんどん薄らいでいくのがしっかりと自覚できるくらいで、それがけっこう怖い。
そんな色の無くなった写真をみるような、薄い記憶の中からカオルという名を探すのは想像以上にムズイことだった。
その間もその人のようなカオルと名乗るモノはその場を動かず、こちらに危害を加えそうでもないので、僕は思い切ってそれに近づいてみた。
「ユウト、危ないよ!」
「接近は危険よッ!」
アルとタミーは僕がそれに近づいたのを驚いて、大声で僕に離れるよう言ってきた
でも、エレーナだけは僕の行動を黙って見守っている。
「大丈夫、ぼくには解かる」
僕はなにも根拠はないんだけど、安全だと思えてることを、今の一言に込めた、そのことがそこに出現したカオルと名乗る人間のようなモノにも伝わっていてくれることを祈りつつ、僕はさらにそれに近づいてみた。
僕は徐々に近づき、「それ」との距離は5mくらいになった、その間もカオルという名前を記憶の奥底に捜していた。
「それ」との距離が更に縮み、もう目の前50センチとなった。
そのとき、「それ」に反応があった。
「ユ・ウ・ト・キテクレタノ、ウレシイ・・・」
そう言って「それ」はその左手を僕に差し出してきた。
「エッ?」
僕は少々混乱してしまった。
まだ正体不明の「それ」の手に触れることは危険すぎるのか?
いや、このカオルと名乗る「それ」からは敵意とか攻撃性とか負のオーラのようなものを全く感じない。
僕は決心した、左手を差し出した「それ」からは敵意などまったく感じない、むしろ暖かいなにかを感じる。
直後、僕は無意識に自分の両手を「それ」の左手に重ねていた。
そんな僕の行動を見ていたタミーとアルには相当ショックだったようで、
「ダメだよユウトッ!」
「危ないわっ!」
とふたり、ほぼ同時に叫んだ。
しかし、結果的に僕のこの行動はこれから先の僕たちにとってプラスになるものだった・・・




