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第五話 代償と能力

思ったより長くなりました。

「あはは、なるほど。それは災難だったね」


 僕は家城くんたちから、彼らがここまで来た経緯を説明してもらった。

 最初は警戒されていたが、同じ世界から来たということもあってか、彼らとはすぐに打ち解けられた。

 ただ、僕に蹴りを入れた騎士さん(エルガーさんと言うらしい)には、どうも嫌われたらしい。


 無宗教の僕には分からないが、この世界の人にとって魔物は、地球で言うところの悪魔に近いのかもしれない。

 ただの気まぐれとは言え、ゴブリンの墓を作ったのは失敗だったようだ。

 まぁ、騎士さんの言う通り、蹴りで済んで本当に良かった。

 知らずに街中で魔物の肩を持つようなことを言ってしまっていたら、異端者として血祭りに挙げられていたかも知れない。

 僕は死にはしないが、痛いものは痛いのだ。


「えぇ、ほんとですよ。これでここじゃなくて別の場所だったなんてことになったら、いよいよ無駄足ですよ」


「まぁ、君らにとってはそうかもね。ただ僕にとっては君らが来てくれて助かったよ」


 彼らにとって災難でも、僕にとっては僥倖だ。

 一人で森の中を彷徨い歩くのはあまりに寂しい。

 思っていたより早く人里にたどり着けそうそうで助かった。


「先輩はこの辺に飛ばされたんですよね。本当にどうしてなんでしょうね」


 まったくだ。

 転生のことはいいとして、それでもここよりもっといい場所があっただろうとは思う。

 死なないからどこでもいいと思ったのかもしれないが、こちらとしてはもっと人里に近い場所に飛ばしてほしかった。


 それはそれとして、


「先輩?」


 確かに年上ではあるので、人生の先輩と言えなくもないが。


「その制服、✕✕高校のでしょう? 俺もその高校なんですよ」


 そうなのか。

 それにしては制服に対して反応が薄かった気がする。

 警戒していたからだろうか。


「そうなんだ。一年生?」


「はい、先輩は何年なんですか?」


「.....三年だね」


 実際はもう卒業しているが、説明が面倒くさい。

 まぁ流石に、二学年上の生徒を全員覚えているなんてことはないだろう。


「君らも一年生?」


 僕は他三人にも尋ねる。


「はい。ただ、ぼくと粟加さんは○○高校ですけど」


「あれ、そうなんだ」


「はい、家城君とはクラスメイトなので知り合いだったんですが、二人とは初対面でした」


 家城くんを補足する形で、粟加ちゃんが説明してくれた。


 しかし、二人は違う学校なのか。


「召喚されたときに、偶然おんなじ場所にいたとか?」


 僕は彼らに、改めて勇者として召喚されたときのことを聞く。


 さっき聞いた話によると、彼らが召喚されたのは、僕がこっちに来たのと同じくらいの時期らしい。

 それに、あの神みたいなやつが、時間がどうとか言っていた。

 それは彼らの召喚の時間に合わせる必要があったからではないかと睨んでいる。

 それなら、僕の転生に彼らの召喚が関わっている可能性が高い。

 彼らについて知ることが、僕の現状を把握する手段になるわけだ。


「いえ、そういう訳ではないですね。召喚された時、俺は自分の部屋にいましたし、他の人も...」


 安楽島くんはそう言って視線を他の三人に向ける。

 他三人は同意するように頷いて答える。


「はい、ぼくも自分の部屋に居ました」


「あたしは友達と買い物に」


「.....学校にいた」


 なるほど、疑ってはいなかったが、それぞれ別の場所にいたって言う話は本当なんだろう。


「それで、気が付いたらこの国の王城に召喚された、と」


「えぇ、俺らに何か共通点があるのか、それともランダムで選ばれたのかはわかりませんが」


 それはどうだろう。

 ランダムにしては妙な偏りがあるが.....。

 それに、


「んー。前者じゃない? これから世界を救う人が誰でもいいなんてことはないんじゃないかな」


 最低でも、悪人ではないくらいの決まりがあってしかるべきだろう。

 まぁ、条件付きのランダムっていう可能性もあるわけだが。


「そう、ですね。でも、なんであたしなんだろう? むしろ、一緒にいた友達の方が陸上やってて動けると思うけど」


「動けるって話なら、この世界の人の方がよっぽど動けるよ。そこの騎士さんがいい例だ」


「エルガーさんはまた特別ですけどね。なんでも、この国で一番強いとか」


 道理で蹴りがあんなに強いわけだ。

 痛かったなぁ......。


「なるほど、それなら勇者様方のお師匠様にぴったりだね」


 この世界を救う勇者様に指南するのが国一番の騎士というのは当然なんだろう。

 下手な師匠をつけて死なれたら話にならない。


「勇者さまと言われても、あの人に倒せない魔王をぼくに倒せるとは思えないですけど」


「俺も同感ですね」


「うん、とても同じ人とは思えないもんね」


 世界が違うので、同じ人とは言えない気もするが。


 ただ、それほど強いのか。

 怒らせないようにしよう。


「.....安心しろ。お前たちには神様から頂いた能力があるだろう。それをうまく使えるようになれば、お前たち程度でも魔王を倒せるさ」


 今まで聞いてはいたが、話に入ってくることはなかった騎士さんが、そう言って彼らを励まし......ていると思う...たぶん。


「程度って.....それに頂いたってのも違う気がしますがね」


 安楽島くんが苦笑いを浮かべながらそう言った。


「ならキョウヤ、お前はどう表現する」


 騎士さんが安楽島くんにそう尋ねる。

 言い方からちょっと怒っているように感じる。


「交換じゃないですか?」


「思いあがるな。お前の何かと神様の能力が釣り合うとでも思っているのか?」


 怖いな。

 視線で人を殺したことがあるのではないかと思ってしまう。

 それほど迫力がある。


「いや、そんなに怒らないでくださいよ。.....すみませんでした」


 安楽島くんも怖かったのだろう。

 顔を引きつらせながら謝っていた。


 しかし、能力か。

 さっきの話では出てこなかったな。

 まぁ、今の話の感じからして、勇者たちにとって切り札みたいなもののようだ。

 そうやすやすと話題に出したりしないのだろう。


 僕の不死も、その能力とやら関係しているのだろうか?


「あはは、取り込み中申し訳ないけど、能力って?」


 もしそうなら聞かないわけにはいかない。

 仮に僕の不死が能力によるものだったら、能力を封じられたら不死性が失われるということだ。

 それだけは避けなければいけない。

 消える恐怖は今も健在なのだ。


「先輩は知らないんですか? こっちに来た時神さまみたいな人に会いませんでした?」


「.....会ってないね」


 あれのことだろうか?

 ただ、僕の勘によると、あれと安楽島くんの言う神様は別物のような気がする。

 あれはこの世界との関りが、それほど深くないように感じた。

 その辺を説明するのが面倒くさい。

 嘘をつく理由なんてそんなものだ。


「本当か?」


 勘がいいなぁ。


「ほ、本当ですよ。ぼ、僕が嘘つきだっていうんですか? 今までの人生で嘘をついたことがない..........って言うところを、正直に嘘をついたことがあるって、自己申告するようなこの僕がですか?」


「.....まぁいい。お前が説明してやれ」


 良かった。

 誤魔化せたとは思えないが、諦めてくれたようだ。


 騎士さんは安楽島くんを指さしてそう言った。

 安楽島くんが面倒くさそうに眉を寄せる。


「俺がですか? .....わかりました」


 少しの間、安楽島くんと騎士さんのにらみ合いがあったが、結果的に安楽島くんが折れた。

 僕の方を向き直り、あごに手を当てて考えるしぐさを見せる。

 どこから説明するか考えているのだろう。


「......えぇっと、先輩は会わなかったらしいですが、俺たちはこの世界に来た時に神さまみたいなのに会ったんですよ」


「......みたいな?」


 騎士さんがそう言って凄む。

 なかなかの狂信っぷりだ。


「いやだな、言葉の綾ですよ。.....それで、その神さまにいろいろ教えてもらったんですよ、この世界のこととか、俺たちがこっちの世界で何をするのかとか」


 いいなぁ。

 僕の場合は説明なしに森の中にポイだったからな。

 ベットだけ何故か用意してくれてはいたが、それよりも魔物の図鑑と周辺の地図とかを用意しておいて欲しかった。


「そして最後に能力についての説明をされました。俺たちがそのままこっちの世界に来たって、魔物の餌になるのがオチだ。そこで俺たちに人知を超えた力をやるって」


 それはまぁ、なんとも神様らしい物言いなことで。

 ただ、言ってることは正しい。

 それは身をもって証明済みだ。


「まぁ、それはいいんですがね。やるって言っといて有料なんですよねこれ.....いや、文句とかじゃないですよ。ほんとですって」


 騎士さんがまた安楽島くんを睨みつける。


 それはそうと有料、か。

 これがさっき言っていた交換って話なんだろう。


「有料ってのはどういうこと?」


「そのままの意味ですよ。俺の何かを代償に神さまから能力を頂いたんですよ」


 なるほど。

 それなら確かに、交換って表現の方が適切な気がする。

 しかし、どうしてそんなことをするのだろう?

 交換を拒否されたりしたら、勇者は一般人程度の力しか持っていないなんて事態になりかねない。


「その代償ってのと、能力ってのはどんなのなの?」


「さぁ、色々ですよ。過去の勇者の記録によると、名前を代償に姿を消す能力をもらってたり、両足を代償に空を飛ぶ能力をもらってたり、あと面白いので言うと、努力を代償にした勇者もいたらしいですよ」


「その勇者は何をもらったの?」


「チャンスを呼び寄せる能力だそうです。気の毒なことに、その勇者はそのチャンスの全てを逃したらしいですけどね」


 なんともまぁ、子どもを戒めるための童話みたいな話だ。

 しかし、その時は大丈夫だったのか?

 一般人程度、いや、一般人以下の勇者で。

 そんな勇者が世界を救えるとは思えない。

 他の勇者がどうにかしたのだろうか?


「まぁそんな感じで、先輩も何か能力を持ってるんじゃないかと思ってたんですけど.....」


 なるほど、結局はそこか。

 わざわざ勇者の能力についてここまで詳しく話してくれたのは、僕がその能力を持っていると疑って......半ば確信しているからだろう。

 当然だ。

 僕みたいな体格も良くない凡人に、あれだけの数のゴブリンを殺せるわけがない。


 参ったな。

 あんまり大っぴらにしたくないんだけど。


「うん、持ってるよ」


 仕方ない、不死の部分は隠して再生能力くらいで教えておけば誤魔化せるだろう。


「えっ、でもさっき神さまとは会ってないって」


 家城くんが驚いたように声を上げる。


「うん、そっちの記憶はないんだよね。これもさっき言ってた代償とやらに関係してるのかな?」


 そんなことはないが、それっぽいことを言って誤魔化してみる。


 しかし、自分で言ってて思ったが、代償か。

 僕の不死が能力によるものなら、僕は何を代償として支払ったのだろう。

 特にこれと言って何かが変わったとかは無いけど......。


「.....で? その能力というのはなんだ?」


「え? 僕だけ言うんですか? それはちょっと不公平ですよ」


 聞き入れてもらえるとは思えないが、一応抗議の声をあげておく。

 公平性なんて重視されるとは思わないが、言ってみるだけただだ。


「俺たちも言えと?」


 安楽島くんがそう尋ねてくる。

 そうなるか。

 彼らの能力については大して興味はない。

 まぁ、知っておいて損はないし、こちらの能力を軽率に漏らさせないための抑止力にはなると思うので、知れるなら知っておきたいが。


「んー。できればそうして欲しいけど、それはそれで不公平だよね。一人と四人じゃ釣り合わない」


「なら、情報以外の対価をやろう」


 騎士さんがそう言った。

 僕としてはそっちの方が有難くはあるが、どうも嫌な予感がする。


「へー。何をくれるんですか?」


「安全だ。この国の住民でないお前を我が国が保護してやろう」


 まあ、そう来るよね。

 僕としてはお金とかの方が有難かったけど、どうせ聞き入れてもらえないだろう。

 一見よさそうな話に聞こえるが、要は勇者たちと同じ状況になるということだろう。

 魔王とかいう人類の敵と戦う英雄として祀り上げられ、行動を制限されるようになるのだろう。


「保護ね。所有ではなく」


「どうする? 私としてはお前がどっちを選ぼうと構わないが」


「結果は変わりませんもんね」


「.....」


 はぁ、嫌だなぁ。

 殺し合いなんて趣味じゃない。

 痛いし、恨まれるし、いいとこなんてほとんどない。


 ......でもまぁ、仕方ない。

 長いものには巻かれるのが吉だ。


「.....分かりました。教えるので保護してください。いい対応を期待してますよ」


「それはお前次第だな。子どもための教育も、子どもにとっては辛いものだ」


 親のエゴでなければいいんだけど。

 まぁ、最悪逃げればいい。


「まぁいいです。.....じゃあそうと決まったら、その村に連れて行ってもらえますか?」


「まだお前の能力を聞いていない」


 騎士さんが睨みを利かせてそう言ってくる。

 やっぱり怖いな。


「大丈夫ですよ。ちゃんと教えます。ただ、その村って結構遠いらしいじゃないですか、日が暮れる前に戻りましょうよ。夜の森って危険ですよ。安全を...くれるんでしょう」


 僕はそう言って騎士さんを見つめ返す。

 いい加減人里が恋しいというのもあるが、もしもの時のためにここから離れたい。

 ここだと逃げられない。


「ふん、いいだろう。キョウヤ、案内しろ」


「喜んで」


 良かった。

 折れてくれた。

 先導してくれる安楽島くんについて行きながら、安堵しため息をつく。

 ないとは思うが、一瞬殺されるんじゃないかと錯覚するほど恐ろしかった。

 あと十秒も睨み合っていたら、たまらず謝っていたかもしれない。


 ふと横を見ると、顔面蒼白な家城くんがいた。

 やっぱり怖かったのかな?

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