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第三話 ゴブリン討伐へ

「......あの、本物にこっちで合ってますか?」


 ぼくは何度目かになる質問をエルガーさんに問いかける。

 情けないことに、長時間の山歩きでぼくの体力はもう限界だ。

 膝に手を置いて、肩で息をしている。

 そして重ねて情けないことに、ここまで疲れてるのはぼくだけだ。

 ぼく、家城司 (いえきつかさ) はインドア派で運動嫌いだ。

 体育の時間をサボったりしなかったら、少しはましだったかも知れないと、今更ながら後悔した。


「前の村を出発してから、ずいぶん歩きましたけど...村人さんの話だと、村からそう遠くない位置にあるらしいですし」


 黒髪ロングの少女、粟加ののか(おうかののか)さんが遠慮がちにそう言った。

 粟加さんもぼくほどではないものの、息が荒くなっている。

 ぼくは少しの期待を込めてエルガーさんを見つめる。

 できれば、村まで引き返して今日はもう諦めて欲しい。

 そしてまた明日頼まれたゴブリンの巣を見つけて討伐すればいい。


「......少し待て、すぐに見つける」


 しかし、そんなぼくの期待とは裏腹に、エルガーさんは無慈悲にも捜索を続行すると言う。

 それに答えにもなっていない。


「いや、仮にここで見つけても、それほんとに依頼されたゴブリンの巣なんですか?」


 苦笑とも嘲笑ともとれるような笑みを浮かべて、安楽島京谷 (あらしまきょうや)くんがそう尋ねる。

 身長はぼくより少し高いくらいで、体格もぼくとそう変わらないのにまるで疲れた様子を見せてない。


「...一度、村まで戻りませんか?」


 短髪で小柄な少女の石鏡瞳 (いじかひとみ)さんもそう言ってくれた。

 石鏡さんも特に疲れているようには見えないが、表に出てないだけなのだろうか?

 でも、これで四対一だ。

 いくらエルガーさんでも、自分以外全員が反対してる現状でなお捜索を続けるなんて、そんな横暴なことしない...よね。


「...」


「エルガーさん?」


 .....まさか、帰り道が分からないとか。

 いや、そもそもぼくは森の中を何時間も彷徨うようなことになったのが、誰のせいか忘れたのか?

 ぼくは元凶に一体何を期待していたんだろう。

 この人が帰り道なんて迷宮を踏破できる訳ないじゃないか!!


「大丈夫ですよ! 帰り道なら俺が憶えてます。ちなみに、ちょうどエルガーさんが見つめてるのと逆の方向の...」


 良かった。

 安楽島くんが憶えてるらしい。


「いや、帰るのは仕事が終わってからだ」


 この人は.....。


「できれば年内で」


「喜べ、今日中だ」


「一日って二十四時間しかないんですよ」


「あぁそうだな。ついでに今は昼過ぎだから、半日ないくらいだな。...あそこを見てみろ」


 エルガーさんがそう言ってさっきまで睨んでいた方向を指さす。

 .....木?

 まぁ木だったらどの方角にもあるから、違うんだろうけど。

 .....いや、木以外ないよな。


「見えないのか? まぁそれなら魔力を目の周りに集中させるといい。見えるはずだ」


 魔力にそんな使い方が...。

 やってみようとはするけど、上手くいかない。

 まず魔力を操作するなんてまだ習ってないんだから、当然だ。


「...うわ、本当だ」


 安楽島くんはできたみたいだ。

 しかし、他の女子二人はぼくと同様に苦戦しているようだ。


「まぁ、いい。お前は見えたんだろう。あれがあったってことは...」


「あ、すみません。本当に遠くを見れて驚いただけです。どっちでしたっけ?」


 エルガーさんがなかなか上手くできないぼくたちをじれったそうに見ていたが、あきらめて安楽島くんに聞く。

 しかし、安楽島くんもそんな調子で、エルガーさんは苛立たし気に頭をかいた。


「あー、確かに。あの辺にゴブリンの巣があるみたいですね」


 安楽島くんが軽い調子でそう言った。

 安楽島くんが見たのは、木材に動物の皮や骨や牙を素材に作られた、かかしのようなものだった。

 森にすむ動物を追い払うためなのか、他のゴブリンの群れが近づかないように警告するためなのか、はたまたただのお洒落な飾りのつもりなのかは分からないが、ゴブリンの巣の周りではあの手のものがよく見られるらしい。


「分かっただろ。私は迷ってなんていなかったんだよ」


「迷ってはいたでしょ。いやそんなことより、あれが本当に依頼された巣なんですか? ここから村まで十キロくらいありますけど」


 安楽島くんはエルガーさんの言葉を切って捨てて、疑問を呈するが、それよりも。


「十キロ!?」


 この単語の方がぼくには重要だった。

 戻るにしたってそんなに歩かなきゃいけないのか!?


「まぁ村の人がゴブリンの巣を見つけた時の話が適当すぎて詳しい場所は分からなかったんですけど、場所としては、村の近くにあるはずだって言ってましたよ」


 驚愕しているぼくを気にも留めず、安楽島くんはエルガーさんへの説得を続ける。


「近くって言っても人それぞれだ。普段からよく歩いていて、この森にもなじみがあり、村からここまでまっすぐくれば、意外と近く感じるかもしれんぞ。私達も、...迂回しながらここまで来たから遠く感じるだけで、そうしなければ意外と近く感じるかもしれん」


 しかし、やはり否定される。

 それに言ってることも...迂回したって、まるで意図的かのような言い方には引っかかるが、それ以外は否定できない。


「んー。それは否定しませんけど、エルガーさん自身はどう思ってるんですか? 本当にあそこだと思ってるんですか?」


「知らん。違ったならまた探せばいい」


「はぁ...分かりましたよ。......こんなことなら、村の人について来てもらえばよかったんですよ。戦えない者を連れて行くのは危険だって言って、森での迷子の方がよっぽど危険ですよ」


「だから、私は迷っていない。それにお前達も納得してただろう」


「えぇ、俺らの無知が招いた不幸ですね、今後の教訓にでもしますよ」


「気にするな若者は誤るものだ。さて、お前達も少しは休めただろう。もう行くぞ」


「はい」


「分かりました...」


「...はぁ」


 粟加さんが頷いて、ぼくは渋々と答えて、石鏡さんがため息をついてから、全員おとなしくエルガーさんについていく。

 結局、安楽島くんの方が折れて、ゴブリンの巣を駆除しに行くことに。

 ぼくも少し呼吸が落ち着いて来て、余裕もできた。

 しかし、帰り道のことを考えると憂鬱でしかない。


 いや、気を引き締めないと。

 初めてではないとはいえ、実戦で気を抜いた奴から死んでいくとエルガーさんも前に言っていた。

 しかし、エルガーさんにあんな弱点があったなんて。

 美人だし、強いし、頭もいい。

 弱みや失敗なんかとは無縁の人かと思っていたけど、エルガーさんも人間ということだろうか。

 残念ながら今は、初めて感じられた人間らしさへの親しみよりも、帰り道への憂鬱の方が強いが。


「...いてっ」


 いや、痛くはないが。

 これはもう癖みたいなものだ。


「あ、ごめん」


 粟加さんが謝る。

 ぼくがちゃんと前を見てなかったのが悪いので、謝られると申し訳なる。


「いやこっちこそ、ちゃんと前見てなかった。...何かあったの?」


「えーと、急にエルガーさんが止まったから」


 そう言われてエルガーさんを見ると、怪訝そうな表情を浮かべている。


「変だな」


「見張りがいない」


 エルガーさんが言った後、安楽島くんが続ける。

 そうなんだろうか。

 ぼくには見えないので何も分からない。


「見張りがいないことってあるんですか?」


「ないわけじゃない。ただ近づいて分かったが、かなり規模の大きい巣だな。あの規模の巣で巣で見張りがいないなんてことまずない」


 ぼくと他二人には見えないので、会話に入れない。

 というか、なんだかんだ仲いいなこの二人。


「まぁ、どの道駆除しに行くんだ。ただ警戒しておけ、最悪逃げる準備もな」


 エルガーさんは真剣な表情でそう言った。


「はい」


「分かりました」


 今度は渋々ではなく答える。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 どっちも嫌だが、出るならせめて小鬼ゴブリンだけであって欲しいと思いながら、ぼくはエルガーさんの後をついていく。

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