表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第二話 生き返った不死者

 鳥の鳴き声が響いた。

 トカゲが岩の下に隠れた。

 岩の下にいた虫が、トカゲに喰われた。

 鬱蒼とした森の中で、一つの命が消えて、一つの命が蘇った。


 生命力に満ちた緑の雑草が膝ほどの高さまで生い茂り、木々も見上げるほど高さまで茂っている。

 この命に溢れた森林の中に、不釣り合いなベットが一つ。

 風に頬を撫でられて、一人の男が目を覚ました。


 男は眠そうに、気怠そうに体を起こし、辺りを見渡す。


「気が利いてる? ...の、かな?」


 僕は苦笑いを浮かべながらそう呟く。

 もっと自然なのはなかったのかとは思うが、おかげで心地よく目覚められた。

 その点は感謝するべきなんだろう。


「......制服?」


 ベットから起き立ち上がると、そこでようやく自分の恰好に気づく。

 刺されたときは制服なんて着ていなかったはずだ。

 記憶力に自信のない僕でもそれくらいは憶えている。

 そもそも僕はこの高校をすでに卒業してるし、この制服も捨てたはずだ。


 いや、そもそもこの身体だって、神みたいなあれが用意したものだった。

 だったら、この制服だって同じなんだろう。

 僕の記憶を掘り起こして、適当な衣服を用意したのだろう。

 まぁ、適当な衣服であがるのが制服とは、伊達に三年間も着ていなかったということだろうか。


「さてっと、で? これからどうしよう?」


 まずい、人里はどこだろう?

 そりゃあ、まぁ、あれの言っていたことが本当で、僕がもう不老不死とやらになっているのなら、飢えようが、毒を食おうが、獣に食いちぎられようが、死にはしないんだろうけど。


「さすがに、確かめる気はおきないな」


 せっかく生き返ったのに、不死身になったと勘違いして、試してみて死んだではあまりにも間抜けが過ぎる。

 とりあえず今は、安全第一に行動しよう。

 本当に不死身になったかは、死にそうになってから試せばいい。


「よし! じゃあまずは人の国を...っ!」


 背中に衝撃が走った。

 またかよ......。

 だが、今回は前のように気を失ったりはしなかった。

 即座に振り向きながら後ろに下がり、自分の背中からナイフ状のものを引き抜く。


 僕はそのナイフを見たとき、その異常性に気が付いた。

 引き抜いたそれは、骨を削って刃物のように鋭く研いだ原始的なナイフだった。

 しかし、僕の気付いた異常性は、素材のことなんかではない。

 このナイフには血が付着していなかった。

 たった今、僕の身体から引き抜いたはずのそれは、素材の色そのままの純白だったのだ。


 思わず、背中の傷口を触ろうとする。

 しかし、そこにあるはずの傷口は、服に空いた穴だけ残して、きれいさっぱりなくなっていた。


「不死身か。便利だね」


「ギッギィ!!」


 自分の身体の変化に感心していたが、叫び声によって現実に戻って来る。


「ゴブリン......?」


 120センチほどの小柄な体、長くとがった耳、緑色の皮膚。

 叫び声の主は、ファンタジーの作品でよく登場するゴブリンだった。


「ギィィ!!」


 ゴブリンは叫び声をあげ、僕に向かって走り寄ってくる。

 僕はナイフをゴブリンに向ける。

 僕にナイフを刺したゴブリンは、武器を失い素手になっている。


「グギィ......」


 ゴブリンも、そんな状態で突っ込んでくるほど馬鹿ではないようで、走り寄るのを止め距離をとった。

 警戒するようにこちらを睨みながら、唸るように声を出す。

 いや、警戒してる理由は武器だけではないだろう。

 先ほどナイフを刺した僕が、まるで弱った様子がないので戸惑い、警戒しているようだ。


 ゴブリンは睨みながら距離を保ち、僕の周りを歩く。

 僕もゴブリンを常に正面に捉えて警戒する。

 しかし、僕の周りを半周もしない内に、ゴブリンは歩くのを止める。

 しばらくの間、お互い動くことなく睨み合う。


 攻めるべきか?

 このまま睨み合っていても仕方ない。

 しかし、僕には武道の心得はもちろん、喧嘩の経験すらない。

 僕がナイフを持っているとはいえ、ナイフを武器として使ったことなんてない。


 勝てるのだろうか?

 相手は僕と違って、急所に刺しさえすればそれで終わる。

 対して僕は、相手から攻撃されてもすぐ回復する......。


 ......ん?

 というか、僕は何を悩んでるんだ。

 僕は不死身になったんだ。

 勝てない可能性はあるが、負けて死ぬことはないんだ。


「......はぁ。どうも、僕の悪い癖が出てるな」


 優柔不断。

 それっぽい理屈を並べて言い訳して、何もしようとしない。

 だから、ああなったっていうのに、僕はまるで懲りてない。

 こんなんじゃあ彼女に、笑われる、どころか叱られる。


「ギィギイィィ!!」


 僕が覚悟を決めてナイフを再び構え直すと、ゴブリンも雄たけびをあげて僕に向かって再び走り寄ってくる。

 僕はカウンターを決めようと、目の前のゴブリンに集中する。


 が、


「......っ!!」


 今回は右腕だった。

 右手に力が入らず、手に持ったナイフを落としてしまう。

 見ると、右腕には矢が刺さっていた。

 それも、後ろから射られていた。


 振り返ると、そこには数匹のゴブリンがいた。

 内、弓を持ったゴブリンが今度は左腕を射る。

 また痛みが走るが、そんなことはどうでもいい。


 複数相手では勝てないだろう。

 とっさに、ゴブリン達に背を向けて逃げようとする。


 しかし、当然そこには先程のゴブリンが。

 それも、目の前に。


 僕はろくに抵抗もできずに押し倒される。

 もがいていると、他のゴブリン達も駆け寄ってくるのが見えた。

 絶望的状況だ。


「...あははっ」


 これが笑わずにはいられるだろうか?

 遅すぎたのだ。

 戦うにも、逃げるにも。

 僕が迷っている間にゴブリンは叫び声で仲間を呼んで、僕の視線を誘導するなどして、僕が他のゴブリンに気付かないよう策を弄していたというのに。


 僕は躊躇し、行動せず、自分の首を締めている真綿に気付くことさえなく。

 そして、ようやく行動するかと思えば、タイムリミットは過ぎている。

 そのまま締め上げられてゲームオーバー。


 2年もたって、まるで成長していない。

 僕は自分に、呆れを越えて、失望さえしている。


 ゴブリンが、僕の腹を刺した。

 今度は足を、手を、首を。

 めった刺しにし、切り裂いて、ばらばらにした。

 それでも、僕は死なない。


「ギイィイ」


 一人のゴブリンが何か言ったかと思うと、他のゴブリンが僕を引きずり始めた。

 どうやら、どこかへ連れていく...持っていくつもりらしい。


 僕はもう抵抗する気力は失せていた。

 しかしそれは、決して痛みや恐怖によるものではなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ