プロローグもしくはエピローグ
爽やかな朝だった。
そのはずだった。
今日は十三日の金曜日ではなくて、黒猫に横切られもしなくて、カラスが鳴いてもいなかった。
雲一つない空の下、春先の少し暖かな風を浴びて、僕は目的の場所ま歩いていた。
僕は、お墓に向かっていた。
彼女に会いたかったのだ。
彼女に会って、愚痴を聞いてもらいたかったのだ。
インターネットでも相手にされないような、くだらない愚痴を話したかったのだ。
しかしその道中で、ネットニュースはおろか、地上波でも取り上げられるような事件に巻き込まれてしまったのだ。
いつからだろう?
いつからいたのだろう?
ほんの数十秒前なのだろうか、それとも近道のために公園を抜けた時からなのだろうか、はたまた花屋で財布と相談していた時からなのだろうか、あるいはそれよりずっと前から......?
そう考えてしまうほど唐突に、彼はあるいは彼女は僕の後ろに現れた。
痛みというより衝撃が、怒りというより戸惑いが、恐怖というより疑問が、僕の中を駆け巡った。
しかし、それらは僕の身体からこぼれ出た、なにかを見たときぴたりと止んだ。
理解したのだ。
自分がどうなったのかを、そしてどうなるのかを。
だからこそ、僕は彼をあるいは彼女を見た。
春になったばかりとは言え、暑そうな黒いダウンジャケットをフードまでしかっりとかぶり、マスクとサングラスをつけていた。
笑っているのだろうか、焦っているのだろうか、あるは無表情なのだろうか?
いや、もうそんなことはどうでもいい。
僕は彼にあるいは彼女に微笑みかける。
諦念という名の許しをもって。
死んだ後まで恨むほどの義理は、ないのだから。