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あたらしいおんな!?

 春が過ぎ、梅雨に入った。雨ばかりの日々はじめじめとして嫌な感じだ。ボクの長くなった髪も、梳かすのに一苦労だ。 


 二月ほど経ったが、ボクの体は女のままだ。結局、どうすればいいのか分からないまま、俊樹と話し合いながら、色々と模索している。

 男に対するトラウマのようなものも、あの頃よりはだいぶ収まった。少なくとも、クラスの男子と教室で雑談するぶんにはもう問題ない。ただ、やっぱり強引に迫られたら怖いという意識が根底にあるのか、それ以上の接触となるとどうしても抵抗があった。

 本当に、どうにかならないものかなあ。俊樹と接しているぶんには問題ないんだけど。


 俊樹と近づくと発生する正体不明の熱は、今もなおボクの体の奥に潜んでいた。彼の体が近づくと、顔が暑くなって、彼に褒められると心臓がどきどき鳴り出す。本当に、どうにかならないものかなあ。

 ……いや、まあ分かっているのだ。これが恋と呼ばれる現象に酷似していることは。でも、認めたら、何か自分が男とは決定的に異なる存在になってしまう気がして、このままでいいと思ってしまいそうで、怖い。

 急激な体の変化に伴う、脳のバグのようなもの、だと思うことにしている。



 最近、俊樹に女の影がある。

 気づいたのはつい最近だ。休み時間や放課後、彼が頻繫に誰かに会いに行っていたのだ。噂話を聞いて、驚いた。彼が話していたのは、可愛らしい見た目をした後輩だったらしい。


 名前を、桃谷和葉さん、と言うらしい。そのことをボクに教えてくれたのは、未だに交友のある片岡さんからだった。


「――うん、稲葉さんの言っている女の子、桃谷さんだと思うよ。秋山君と話している様子、私も見たから」

「へえー。なんで片岡さんはその子のこと知ってるの?」


 ボクの言葉を聞いた片岡さんの目が、キラリと輝いた。


「ズバリ! 可愛い女の子評論家として見過ごせない逸材だったからですね!」

「ほう、評論家の片岡さん。詳しくお話伺えますか?」

「栗山さん!? どこから出てきたの!?」


 いつの間にか栗山さんが片岡さんの隣に立っていた。


「桃谷和葉さん。おっとりとした雰囲気の一年生ですね。茶道部所属で、所作の一つ一つに気品が感じられると評判です」

「なるほど。それでは、もう少し詳しいプロフィールについて紹介いただけますか?」

「はい。特筆すべきは、やはりその独特の雰囲気でしょう。高校一年生とは思えない落ち着きっぷりに、母を思わせる包容力。一部のファンからは、『ママ』の愛称で親しまれているようです」


 ええ……その愛称はどうなんだ……?


「なるほど、何か若干彼女のファン層の嗜好が気になるところですが、そこには触れないでおきましょう。ズバリ、秋山君はどうして桃谷さんに惹きつけられたとお考えですか?」


 惹きつけられた。その言葉を聞くと、胸がずきりと痛んだ。

 栗山さんの問いかけに、片岡さんはボクの顔をチラと確認してから言葉を続けた。


「二人がどういう関係なのかは現在調査中なのでハッキリとしたことは言えませんが、考えられるとしたら、普段接している稲葉さんとのギャップ、ですかね」

「ギャップ、ですか?」

「はい。稲葉さんは、男の子のように快活で親しい態度が魅力的な可愛い女の子です。一方の桃谷さんは女の子らしい、お淑やかさとゆったりとした雰囲気が魅力的な可愛い女の子です。その目新しさに、秋山君の心を掴むものがあったのかもしれません」


 片岡さんの言葉を聞いて、ボクは急に目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えた。


「その……たしかなの……?」


 気分がズーンと沈みこんでしまったボクは、震える声で片岡さんに確認する。そんなボクの様子に、二人は急に慌て出した。


「う、うわあああ! 待って待って稲葉さん! そんな深刻にとらえないで! 変なキャラクターの時の加奈の言うことなんて九割信じなくていいから!」

「待って、私そんな風に思われてたの!?」


 栗山さんが励ましてくれたが、しかし片岡さんの言うことも最もだと思ってしまったのだ。

 前提として、俊樹は普通にしてればモテると思う。それなりに整った顔。クールで落ち着いた言動。その割に意外と付き合いが良く、一緒にいて楽しくなる。普段無表情な分、彼が嬉しそうな彼をしていると、こちらまで嬉しくなってしまう。


 あれ、なんだろう。なんであいつボクなんかとずっとつるんでたんだ?


「……でもボクは、俊樹がどういう決断をするにしても応援するよ」

「稲葉さん……」


 ポツリと、ボクは呟いた。そうだ。俊樹の幸せは、ボクも願うところ。だから、邪魔なんてしない。できない。

 彼が幸せになるのなら、ボクは手放しでそれを歓迎し、祝福するべきなのだ。


 しかし、決意を固めた翌日、ボクは誰かに会いに行く俊樹を尾行していた。

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