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悪魔の新しい遊び

「そういうわけで、我が親友よ。ちょっとボクに惚れてくれないか?」


 その言葉に、ボクの唯一無二の親友は心底意味が分からない、という表情をした。でも、ちょっと待ってほしい。呆れて立ち去ろうとしないで、ボクの話をちゃんと聞いてくれ。

 改めて、ボクは昨日の夜の夢について話を始めた。



 夢を見ながら夢であると自覚していることを、明晰夢などと言うらしい。今の僕の状態が、それだ。

 夢の中で、僕は見慣れた自室に、ぼんやりと座っていた。代わり映えのない景色だが、不思議とこれは夢だと確信できた。どうせ夢ならば、女の子に囲まれる夢が良かったな。

 そんなことを呑気に考えていた僕に、突如として話しかけてくる存在があった。


「クックック! やはり気に食わない無気力な顔をしているな!」


 声の方に目を向けると、そこには悪魔がいた。……夢でもなければ、すぐにでも眠りに就きたい冗談のような光景だった。

 黒い体。頭上伸びる山羊の角。蝙蝠の羽。そしてその顔は、意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 ああ、なんだか今回の夢はめんどくさそうだ。そう思った僕は、なんとなく重たい気分になる。


「ああ、どうも」

「なんだ、その気力のない挨拶は! お前は悪魔に会ったんだぞ! もっと恐怖に慄くとか、跪いて赦しを乞うとか、力を貸してくれと泣きつくとか、色々あるだろ!」


 何がそうさせるのか、彼は熱弁していた。けれどいまいちやる気の上がらない僕は、それを受け流す。


「いや、全部めんどくさいし」

「カーッ! これだから現代人は! スマホなんぞに隷属しているからそんな無気力になるんだ! 昔の人間は未知があれば自分の足で知識を求めたものだぞ! それが今では画面をすいすいーとなぞっただけで全部知った気になっている! もっと本を読め図書館に行け旅行に出かけろ!」


 やけに現代事情に詳しい悪魔は、心底嘆かわしいと言わんばかりに肩をすくめた。悪魔に人間らしさを説かれているらしい僕は、ポリポリと首筋を掻いた。


「そんなこと言うために僕の夢にまで出てきたんですか? 悪魔も暇なんですね。もしかしてスマホ持ってないんですか?」

「要らんそんなもの! 堕落しちまう!」


 悪魔とは思えない断り文句を口にした悪魔は、気を取り直すように咳ばらいを一つした。そして、僕に指をさして一言。


「――告げる」


 途端、悪魔の雰囲気が変わった。小うるさいおじさんの雰囲気から、威厳に満ちた魔術師のような重々しい雰囲気へと。そのイメージを裏切らないように、悪魔は何やらブツブツと詠唱を始めた。悪魔の周りに正体不明の力が集まるのが、僕の肌に伝わって来た。

 直感的に、僕はそれを魔法を使っているのだと理解した。


「――ハッ!」


 ブツブツ呟いていた悪魔が、叫びをあげた。次の瞬間、悪魔の指から紫色の光が飛び出し、僕の胸のあたりに直撃した。


「ぐぅ……」


 正体不明の気持ち悪さに襲われた僕は、その場にうずくまった。体に違和感がある。何か、大切なものを無くしたような、有り得ないものが存在しているような違和感があった。

 僕の気持ち悪さがようやく収まって来た頃、悪魔は横たわる僕の顔を覗き込んできた。


「クックック! 呪いは無事発動したようだな。ふむ、いい顔だ」


 満足げな悪魔は、顔をあげて懐から何かを取り出した。


「お前の反応が楽しみだな。……クックック」


 悪魔が取り出したのは、何の変哲もない手鏡のようだった。また正体不明の魔法をかけられるのかと戦々恐々としていた僕は、内心安堵する。

 けれど僕は、次の瞬間人生最大の衝撃を受けることになる。


「お、女の子……?」


 僕の顔が、可愛い女の子のものになった。


「ちょっ……なにやってんの! 元に戻して⁉」

「クックック。いい顔をするようになったじゃないか」


 手鏡の中にいる女の子は、ひどく焦った顔をしていた。


「当然、この夢の中だけではなく、現実のお前も姿は変わっているぞ。そういう呪いをかけてやったからな」

「ふざけんな! もどせ!」


 精一杯怒鳴ってみても、甲高い声が出るだけだった。


「安心しろ。周囲の認識はいじくっておいた。できるだけ面白い状況になるようにな」

「くっ!」


 僕は細い腕で悪魔に殴りかかったが、拳はあっさりと止められてしまった。


「俺の目的は、お前の狼狽する姿を楽しむことだ。代わり映えのないつまらない生き方をしていたお前が、女にされてどんな人生を生きるのか、それに興味がある。そのために、一つ仕掛けを用意した」

「……仕掛け?」


 僕が力なく問いかけると、悪魔は、嬉しそうに僕に告げた。


「クックック! お前にかけた女体化の呪いを解く条件はただ一つ! 男に心から惚れられることだ!」


 悪夢のような宣言を聞くと同時、僕の悪夢はようやく醒めた。


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