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秋寂に叫ぶ  作者: ミント
3/3

3話

 ある夏の夜。終電間近の駅のホームで、走って電車に乗り込む女性がいた。


「はぁ、はぁ、間に合った」


 女性は息を切らしながら安堵する。


 女性は息を整えながら車内を見渡した。しかし席が空いてないようなので、仕方なく吊り革を掴んで立つことに。


 彼女は荒川志穂あらかわしほ高校一年生。金色染めた髪にブルーのカラコン、短いスカート丈にルーズソックス、そして濃いめの化粧。志穂はいわゆる、ギャルと呼ばれる部類だ。


 そんな志穂は夏休みなのに親に無理矢理塾に通わされ、腹が立って塾帰りコンビニの前で友達とたむろしていたらあっという間に終電になってしまい、慌てて電車に乗り込んだのだ。きっと、帰ったら親に叱られることだろう。


 つり革に掴まりながら空いている手で携帯を取り出し、SNSを開く。


 終電ギリ間に合った〜w

 走り疲れてぴえん(>_<)


 SNSでそう呟くと、さっきまで一緒にいた女の子の友達からメッセージが届いた。


【終電間に合って良かったね笑】


【それなw 次からは時間見て行動しなきゃだね】


【ほんとそれな〜! うち親に怒られたんだけど! まぢムカつく( #`꒳´ )】


【あーうちも絶対怒られるわ〜】


【乙w まぁ気をつけて帰んなよ】


【ありがと!】


 メッセージのやり取りを終えた志穂は、ポケットからBluetoothイヤホンを取り出して耳に付けた。最近流行りの曲を、隣の人にギリギリ聞こえないくらいの音量で流し、またSNSを開いた。


 その時だった。


 お尻を、誰かに触られている感触がしたのは。

 

ーーえ、うそ。痴漢!?


 周りに人が3人ほどいるが、全員男なので誰に触られているのかがわからない。


 結構混雑しているし、もしかしたら勘違いかも……?


 しかし、そんな淡い期待などすぐに打ち消された。


 痴漢の手がスカートの中に徐々に忍び込んできたのだ。


 怖い怖い怖い怖い怖い!!


 あまりの恐怖心に振り返る事は愚か声も出さない。膝は小刻みに震え、握っているつり革に力が入る。


 痴漢はそのままパンツに手を掛けーー


「おい」


 後ろから、若い男の人の声がした。


 その男は志穂の後ろにいる痴漢の手を掴み上げる。


「次の駅で降りろ」



 これが私、倉本志穂くらもとしほ星川楓ほしかわかえでの出会いだった。





 夏休みが明け、いつの間にか秋がやってきた。外を歩くと、少し冷たい風が吹いている。


「はぁ」


 志穂は手に息を吹きかけ、なんとなく暖かくなった感じがする手を袖に隠して身を震わせた。


 そんな、月曜日の朝。


 ギャルであるが不良ではない志穂は、きちんと制服を着こなし、髪も黒に染めて登校している。


 ただ、外の寒さに負けずスカートは短め。代わりとして、ルーズソックスを膝の上まで伸ばしている。もちろん、カラコンと化粧はバッチリだ。

 

 そんな志穂は、恋をしていた。


 相手の名前は星川楓。夏休み、痴漢から助けてくれた王子様だ。


「はぁ」


 志穂は切なく、ため息をついた。暖かさのない、冷めたい息が秋風になって消える。



 痴漢から助けてもらった日、楓と連絡先を交換する事ができなかった志穂は、まだきちんとお礼を言えずにいた。まぁお礼がしたいという口実でお食事に誘いたいだけなんだけど。


 しかし、楓が同じ高校の3年生だという事だけは、知り合いの先輩のお陰ですぐに分かった。


 早速知り合いの先輩に楓のことを尋ねてみた。残念なことに楓はかなりモテるらしく、よく告白されているらしい。しかし、何故か誰とも付き合わないのだとか。これはまだチャンスがあるかもしれない。


 楓の居場所がわかって数日後。お近づきになって仲良くなる妄想は毎日しているのだが、逆ナンパする度胸が無いため進展はゼロ。



 話したのは二学期が始まってから一度だけだった。


 廊下でお喋りをしていた楓に「あの時はありがとうございました」と小声で伝えてみたのだが、楓は頭にハテナを浮かべ「ん、どうしたの? 」と言ってきた。


 多分聞こえてなかったのだろう。志穂は顔を真っ赤にしてその場を去ってしまった。


 楓は志穂の金髪姿しかしらず、黒髪になった志穂には気づかなかったのかもしれない。




 そんな志穂は先週の金曜日、楓を下校中に追いかけてみたのだが、そこで意外なことがわかったのだ。




「あれ、楓の妹じゃね? 」


「あ、あぁ、そうだけど」


 楓と楓の友達の会話を、志穂は近くで聞いていた。


 妹!? え、楓先輩妹いるの!? 知らなかった! どんな子だろ??


 気になって楓の友達の指挿す方に居た女の子の前まで早歩きで「あー早く帰らなきゃお母さんに怒られるー」と迫真の演技をしながら妹の顔を拝みに行った。


 楓達の数十歩先まで小走りで行き、女の子の横顔を見る。


 ここで衝撃の事実。


 その子は志穂と同じクラスだったのだ。


 おぅ、ちょーラッキー


 と心の中でガッツポーズを決める。


 まだ話した事ない人ではあるが、これはチャンスだと考えた志穂は、早速妹とお近づきになろうと考えた。


 そして今日。いつもより早く学校に着いた志穂は自分の机に鞄を下ろす。  


 いつもは学校が始まる月曜日のことが嫌いな志穂だが、今日は『ついにこの日がやってきたか』と嬉しく思っていた。



 さて、どうやって話しかけよっかなぁ。


 楓の妹(名前が美海だと言う事は友達から聞いた)とは本気で一言も話した事がない。しかも美海はいつもマスクをしているため、話す事はおろか顔すらまともにみた事がない。


 でも目元綺麗!!楓先輩もイケメンだし、美海も美人さんなのかも!!


 んーでもなんでマスクしてんだろ?そういえば帰り道でもしてたなぁ。もしかして、マスクの下が自信ない感じ? いや、それはないか……いや、どうだろ。気になる。


 いや、そんな事は今はどうでも良いか。ってかなんか失礼な事考えてたし。ちょっと反省。


 とにかく、どう話しかけよっかなぁ。なにか話題話題……。


 私は鞄から教科書などを取り出し、机の中にしまう。そして机に肘をついた。


 そういえば私、どうやっていつも友達に話かけてたっけ? えっと確か、、



「やっほーまりりん! 」


「うぇい志穂じゃん! 」


「え待ってまりりん、今日のうち顔何点? 」


「んー100点かな!! 」


「きゃー嬉しいんだけどぉ!!まりりんも100点だよ♡ 」


「まじー!? でも私今日、髪やばくない?? 」


「えーそんな事ないよぉ。めっちゃかわいいよ! 」




 ……うん、馬鹿なのかな?



 普段の私、馬鹿なのかな?  



 え、何が100点なの? 会話0点だよ? どうすんのこれ?


 あー話題思いつかない。どうしよ。


 何が正解なんだろなぁ。


 さっきのが不正解だって事だけはわかるんだけどなぁ。


 美海って真面目で目立たないタイプだしなぁ。なんかクールっていうか、住む世界が違う感じするのだよねぇ。


 うーん。うーん。



 そんな感じで、朝は何も話せなかった。




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