結晶
俺の足元でハングリーウルフが絶命している。
その頭部はぐちゃぐちゃに崩れている。
(夢中で突き刺したからな)
(さすがに原型をとどめてはいないか……)
やっと魔物を倒せたと思うと、途端に負った傷が痛くなってくる。
手のひらを開いて見ると、噛みつかれた箇所から骨が覗いていた。
噛みつかれた左手も牙の並びに従って深い穴があいていた。
(武器屋で貰った薬草があったな……)
(あれを塗ってみるか……)
薬草ですぐに傷が癒えるわけではないが、塗ってみると痛みが和らいだ。
(どうやら薬草には鎮痛作用があるらしいな……)
その上から布を巻いて包帯代わりにした。
それで多少は痛みはごまかせた。
(さて、このウルフをどうするかだ……)
ハングリーウルフの皮は防具にも使われるから、綺麗に皮を剥げば店で売れると聞いたことがある。
動物、というか魔物の皮を剥いだことなどないが、これで金が稼げるならやらない手はない。
(鹿の皮を剥ぐ動画を見たことがあるが、あの通りにやればなんとかなるか……)
そう思い、ウルフの喉にナイフを突き立てた。
そこから腹に向かって一気に引き裂いていく。
ウルフの肛門まで皮を割くと、中から内臓と骨を取り出した。
正しいやり方かはわからないが、中にあるものを全部出してしまう。
牙も売れると聞いたことがあるから、ナイフの柄で叩いてへし折る。
十数分後には、妙な形をしたウルフの皮と、数本の牙が取り出せた。
(もしかしたら、この皮にも、“修理スキル”が使えるんじゃないか)
そう思い、ウルフの皮に向かって修理スキルを当ててみた。
するとみるみるうちにウルフの皮は綺麗な形状に復元されていった。
(やはり、このスキルは形が悪くなったものには利くようだな)
(ということは、ウルフの牙にも利くのか……?)
試しに牙にもスキルを適用してみると、同じように牙は綺麗な形状に整った。
(こっちもいけた……。これで高く売れるかも知れない……)
だが、ウルフの口のなかの牙に修理スキルを当てても、牙は綺麗にはならなかった。
(どうやら、身体から離れたものにしか修理は効かないらしいな。“物”扱い出来ないと、修理出来ないということか……)
(ん……、これはなんだっけ……)
俺は地面に落ちている臓器のひとつに気づいた。
(心臓、かな……)
それは水分の抜けたマンゴーのようだった。
試しに、それにも修理スキルを当ててみる。
すると、
(なん、だこれ……)
心臓であっただろうものは収縮して濃い紫色の結晶になった。
(まるで宝石みたいだ。いったいなんだろう……)
(皮も剥ぎ終わったし、街に戻るか……)
俺は森の水場をあとにした。
……
宿に行き、風呂場で血を落とし、服を着替えた。
その足で武器屋に向かった。
店主はすっかり気を許してくれたようで、俺を見ると笑みを浮かべて近づいてきた。
「今日はなにを持ってきたんだ、ピギー」
不思議なことだが、このひとにピギーと言われても嫌な気がしない。
その言葉の裏に俺への愛情を感じるからだろうか。
そのため、嬉しくさえある。思わず、こっちも少し微笑んでしまった。
俺をピギーと呼んで馬鹿にしていたクラスメイトたちにも見習わせたいぐらいだ。
「ウルフの皮と牙を持ってきたんです。売れますかね」
「品質が良ければ買い取るよ」
「どれどれ……」
店主がウルフの皮を広げて見た。
「悪くないな。というかかなり綺麗だ」
そう言うと、店主は腕を組んで大きく頷いた。
「ピギーは皮剥のプロなのか? どこかで習ったことがあるのか? じゃないと、こんなに綺麗には普通は剥げないぞ」
「いえ、ありません」
「初めてでこんなに綺麗に剥げたのか? すごいな……」
店主はそう感心してくれていた。
騙しているような気がしてきて、俺は「修理士」のスキルについて打ち明けた。
「なるほどな。だからピギーの持ってくる武器は新品のように綺麗だったのか」
「中古の武器があれば、俺のスキルで修理出来るんですよね。そういった仕事が、どこかにありませんか」
「悪いけど、うちにはないな……。本当はうちは新品しか扱っていないんだ」
「え、そうなんですか」
と、俺は驚く。
「そうなんだよ。ピギーの持ってきた武器があまりに綺麗だから買い取ったが、本来なら買取はしない」
詳しく話を聞くと、この店主は――名前をエイラと教えてもらった――新品の武器しか扱わないのだという。
というか、この国では「修理」という概念自体が、あまり通用しないのだと教えてくれた。
普通は武器も防具も使い捨てるのが基本で、手入れをしたり、直したりはしないのだという。
(もし修理だけで仕事できるならしたかったが、そう上手く行かないか……)
少しだけ、俺は落胆してしまった。
「本当は新品しか扱わないんだが、ピギーの持ってくるものなら今後も買い取るよ」
「君の修理スキルを使えばほとんど新品と変わらないものな」
エイラさんは親しみ易く笑ってそう言ってくれた。
正直、ほっとした。
拾った武器まで売れなくなると、完全に金を受け取れる手がなくなるのだ。
それだけはなんとしても避けたかった。
「それと、これがなにかわかりますか」
俺はウルフを殺した際に手に入れた小さな結晶を見せた。
「なんてこった……これは、魔族の核だ……」
「魔族の核、ですか……? 」
「そう」
するとエイラさんは慌てて奥から水晶のようなものを持ってきて、そこに翳した。
「魔族の心臓を綺麗な形で採取すると、結晶化するんだ」
「結晶には品質に応じてランクがある」
「この水晶にかざすと、ランクを教えてくれる」
横から水晶を覗くと、こんな表記があった。
《種族》 ハングリーウルフ
《生息地》 ミネーロの森林
《レベル》 6
《結晶ランク》 F
「だけど、俺も魔物の結晶なんて初めて見たよ。魔物を殺せるやつはいても、心臓をきれいに取り出せるやつなんて、滅多にいないからな……」
「この結晶って高く売れたりしますか」
「うーん、この辺りではあんまり売買されているのは聞かないな。別の国では高額で取引されているとも聞いたことがあるが……」
「そうかあ……」
この辺りで売れないなら意味がないな、と落ち込んでいると、
「ただ、魔族の結晶を噛み砕くと、なんでもステータスが上昇すると聞いたことがある。売れないなら、食べてみたらどうだ? 」
「ステータスが、上昇、ですか」
「あくまでも噂だがな。噛み砕くと体力や魔術量が増えるらしい。なかにはスキルが手に入ったり、特殊な効果のある結晶もあるらしいが、――とにかく結晶については良くわかっていないんだ。なにしろ滅多に手に入らない」
「ステータス上昇か……」
帰ったら噛み砕いてみるか、と思いつつ、頷く。
「それにしても、魔族の結晶か……。いやあ、すごいものを見た……」
エイラさんは顎を擦りながら終始そう唸っていた。
……
ウルフの皮は形が綺麗ということで銀貨五枚で買い取ってもらえた。
牙は銀貨二枚。合わせて銀貨七枚で買い取ってもらえた。
金銭のやり取りを終えて店を出ようとすると、
「それより、ずいぶん怪我したみたいだな」
エイラさんが俺の傷を見て言った。
「俺には戦闘スキルはないので、必死にしがみついて戦ったんです」
「そりゃあ大変だろうな」
「毎回こんなふうに怪我していたらたまらないですよね」
俺がそう言うと、エイラはふーむと言って腕組みをしてなにか考え込み始めた。
「ピギー、相談があるんだが……ある娘とパーティーを組まないか? 」
現在のステータス
愛称:ピギー
種族:人間
所持品:小型のナイフのみ
所持金:銀貨十四枚
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