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魔族

「ほざけ……! 妹と思って、今まで多めに見てあげたけど、それも今日で終わり……! あんたなんか、殺してやる……! 喰らえッ……!! 」


 カラミはそう言うと、手のひらを降り下ろし、空に浮かべた“怒りの金槌”をマトイに向けた。

 辺りの風を引き連れながら、凄まじい速さで金槌が降ってくる。

 見るからに凶悪な魔術で、まともに喰らえば、肉片ひとつも残りそうもない。



 だが――、



「ッッ!?? 」



 マトイは巨大なこの金槌を、たったの人差し指一本で、押さえつけた。



 驚愕した顔で、カラミがこの異常な光景を眺めている。

 ビルほどの大きさの金槌が、背の小さいマトイの指先一本で、完全に動きを止められているのだ。


「そ、そんなことが……!?? こ、こんなの、嘘よ!! 」


 そう叫ぶと、カラミは手のひらをもう一度空に翳した。

 そして、再び“怒りの金槌”を呼び寄せると、――今度はその金槌を、空に5つも浮かべた。


 

「……やっぱり、お姉さまは、魔術がなんなのか、わかっていない」


 マトイは冷静にそう呟くと、人差し指をゆっくりと地面に向け、巨大な金槌を無理やり地面に押さえつけた。

 獰猛な野獣が、さらに恐ろしい野獣に怯えるように、金槌はぐいぐいと地面に押し付けられ、やがて、完全にそこで動きを止めた。


 そして、ついに金槌は、ずうぅん……という大きな地響きを立てて、横向きに転がった。



 カラミを睨みつけると、マトイが言った。



「魔術には、“核”がある。みんな、わかっていないようだけど、魔術とは、スキルを取得して、ただ放てば良い、というものじゃない。その魔術がどんな構造をしていて、どんな理屈で成り立っているのかを理解しなければ、真の力は、発揮できない。魔術をきちんと理解していない魔術士の撃つ魔術は、大した破壊力を持たない。……今のみたいに」 

「また、私を、馬鹿にして……ッ! 」


 顔を真っ赤にさせて、カラミが怒りを顕にしている。

 だが、そんなカラミを、マトイは冷静な目で見つめている。まるで、ふたりは姉妹が逆のようだった。

 マトイのほうが精神的にもずっと大人で、すぐに感情を爆発させるカラミは、あまりに幼稚だった。


「姉さん、そんな魔術、指一本で、いくらでも防げる。さあ、どんどん、撃ってきて。全部弾いてあげるから」

「ッ!! 」

「……それとも、弾かれるのが、怖いの? 」


 マトイの挑発が効いたのか、カラミはキッとマトイを睨みつけた。


「……いいわ、マトイ、本当に、本当に、あなたを殺してやる……! たったひとつの魔術を耐えたからと言って、得意にならないで頂戴……! 」


 そう呟くと、カラミはこう続けた。


「特級怨式、――“怒りの金槌”! 」

「特級怨式、――“怒りの金槌”! 」

「特級怨式、――“怒りの金槌”! 」

「特級怨式、――“怒りの金槌”! 」

「特級怨式、――“怒りの金槌”! 」


 

 そして、空には、すでに20本以上の巨大な金槌が浮かんでいる。


「マトイ! 大丈夫か!? いくらなんでも、こんな量……! 」


 思わずそう叫ぶが、マトイはちらりとこっちを向き、余裕たっぷりに頷いている。

 そして、指先を空に向けると、こう言った。



「“指先集中”――さあ、おいで、お姉さま。魔術士としての実力の差を、思い知らせてあげる」


 ……そう言ったマトイの指先に、凄まじい質量の魔術が集中していた。

 その力があまりに大きいのか、この一帯で激しい風が渦を巻き始めいた。そしてその渦は、マトイの人差し指を中心としていた。


「相変わらず、お姉さまは、物事の本質が、全然わかっていない。……気にしているのは、いつも、見栄えばかり。この魔術もそう。見た目は強そうだけど、中身はからっぽ」


「うるさい、うるさい、うるさいッ!! 」


 ――そして、カラミはついにその手を降り下ろした。



 ……多分、この瞬間が見えていたのは、俺だけだったと思う。

 素早さがカンストしている俺だからこそ、この一瞬の出来事が把握できたのだ。


 20本以上もの“怒りの金槌”に襲われたマトイは、一秒にも満たない時間のなかで、次々とその金槌に触れていったのだ。

 まるで、赤ん坊の頬をつっつくみたいに、優しく、金槌の表面に、指で触れていった。

 そして、たったそれだけの作業で、金槌はがらくたのように地面に無力化されていった。


 ……次の瞬間、倒れた巨大遺跡のように、山積みとなった金槌を前にして、マトイが言い放った。


「多分、お姉さまは、魔術の勉強をしたこともなければ、真面目に“指先集中”もしたことないんでしょう。……お姉さまは、究極、魔術のことを、少しも愛してはいない。ただただ、私に嫉妬し、私に勝ちたいだけ。成長しようとする真面目さも、魔術に対する愛も、現実に向き合う真摯さも、欠けている。……だから、私には、絶対に勝てない」


「……! 」


 もはや、蒼白となってカラミはこの状況を眺めていた。

 よっぽど、自分とマトイとの実力差が信じられなかったのだろう。

 しかも、マトイは、これでもまだ、呪いの力が完全に解けてはいないのだ。



「だけど、あなたは、この勝負で、“指先集中”しか、使わないのでしょう……? 」


 醜く、ニタリと口元を歪めて、カラミが言う。


「いくら私の魔術を防げても、“指先集中”だけでは、私を攻撃できない……! 結局、この勝負、引き分けね……! 」


 カラミがそう言った。

 妹への対抗心も、ここまで酷いとは思わなかった。

 勝てないと踏んだカラミは、せめて引き分けに持ち込もうとし始めたのだ。



「……“指先集中”は、魔術士の初歩的な訓練だと思われているけど、本当はそうじゃない」

 マトイは、自分の人差し指を見つめながら言った。

「……確かに、そう言った側面もあるのだけど、その先もある。……さっきも言ったけど、魔術には――というか、この世のすべての現象や物質には、すべて“核”がある。訓練に訓練を重ねた“指先集中”は、そんな“核”に触れる力を持つ」

「……? 」

 マトイがなにを言っているかわからないのか、カラミは黙って聞いている。

「触れたあとは、その核を、消すことも出来る。……こんなふうに」


 そう言うと、マトイは転がっていた金槌のひとつを掻き消した。

 あたかも、インターネットのブラウザを閉じるみたいに。


「ものごとの本質がわからないひとは、いつも、見た目や、派手さに翻弄される。いくら特級怨式を使えても、魔術の基礎が出来ていなければ、こんなもの、大した破壊力を持たない」


 淡々と、近くの金槌を指先で消しながら、マトイが続ける。


「お姉さまが、私のことを嫌うのは、構わない。私をハメようとしたことも、まあ、気持ちはわからなくはない。……だけど、前にピギーのことを“醜い”と言ったのは、私は許せない。ピギーは、醜くなんてない。物事の本質が見えていないから、――要するに、お姉さまが馬鹿だから、そう思うだけ」


 マトイの、静かな怒りが伝わってくるようだった。

 ここにいる全員が、マトイの一挙手一投足に、目を奪われている。


「……ピギーを醜いと言ったあの日から、私はずっと、お姉さまに怒ってる」


 そしてついに、横たわっていた巨大な金槌をすべて消し終えると、カラミに向き直ってこう言った。


「“指先集中”で、お姉さまの“核”を消してあげる。……今、金槌を消したのと同じように」


「……!! 」


 実力の差を思い知ったのか、カラミはへなへなと地面にへたり込んだ。

 恐らく、初めて真正面から、マトイに怒りを向けられたのだろう。

 身体はがたがと震え、目の焦点は虚ろになっている。


「ご、ご、ごめん、なさい……」


 力なく、カラミがそう呟く声が聞こえた。


「……お姉さまは、これから、城に戻って、お父様に裁かれる。みんなが、どう判断するかは、わからない。だけど、罪は罪として、償って貰う」

 項垂れたカラミは、目を強くつぶり、何度も頷いた。


「……お姉さまは、嫉妬が強すぎる。お姉さまは、才能も、資産も、家柄も、十分恵まれてる。私に構わなければ、十分、幸せに生きられる。ただ、嫉妬を捨てれば良いだけ。それが出来ないから、下らないやつに利用される」


 そう言うと、マトイは、カラミの後ろに立っていたグレンフリードを睨みつけた。


「……正体を表わせ、誰だ、お前」


 マトイがそう言い放つと、



「……クッ! 使えねぇやつめ……! 」


 そう呟くと、突如グレンフリードが突然空に舞い上がった。

 ……その姿は、すでに人間でもエルフでもなかった。

 背中には羽が生え、顔は青紫色をしている。……どう見てもその姿は、人型の魔族だった。


「……やっぱり、魔族だった……。でも、逃さない」


 そう言うと、マトイは空に向かって魔術を放った。


「特級怨式――“聖なる拘束具“ 」


 みるみるうちにグレンフリードの身体に鎖が巻き付き、少し離れた地点の地面に落ちていった。

 俺たちはその地点に急いで走っていった。

 追いつくと、鎖によってぐるぐる巻になったグレンフリードが、地面の上でもがいていた。


「……残念だったな。俺は、証拠は残さない……」


 一瞬、俺たちを見つめると、グレンフリードはぐっと歯ぎしりした。

 恐らく、こういったときのために、口のなかに毒素を仕込んでいたのだ。

 すぐに白目を向いて、グレンフリードの身体ががくがくと震え始めた。


「逃さないと、言ったでしょ」

 とマトイ。

「ご主人さまがいる限り、自害は出来ませんわね」

 とアオ。


「……グレンフリード。聞きたいことは、山程ある。さあ、戻ってこい」


 俺はグレンフリードの身体に屈み込むと、手のひらを当ててこう言った。


「“修理”――」


 そしてついでに、毒素を取り除く。


「“浄化”――」


 完全な健康状態になったグレンフリードの目を見つめて、俺はこう言った。


「残念だったな、グレンフリード。”修理士”である俺がいる限り、お前は自害は出来ない」


「さあ、お前のしたことを、全部話して貰うぞ」


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