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指先

「カラミお姉さま、あなたには、聞きたいことが、山程ある」


 マトイは、珍しくはっきりと相手を睨みつけた。

 

 「……ひとつは、私の呪いに関して。呪いを受けたとき、私は城の周辺の調査をしていた。確かに、城の周辺には魔物が繁殖していたし、敵の攻撃を受けてもおかしくはない。……だけど、私は、ちゃんと周囲の確認をしてから、調査を開始した。辺りには、敵の気配はなかった。なのに、何者かに襲われた」


 一気にそう言うと、マトイはこう付け足した。


 

 「そう、まるで、“身内の誰か”に攻撃されたみたいに、私は敵の存在に気づけなかった」



 そして、さらに言った。


 「そして、目が覚めたら、私は呪われていた」


 

 「なによ、それ」

 とカラミが返す。

 「まるで、私がやったとでも言いたいみたいね……! 」

 「そうは、言っていない。ただ、お姉さまは、あのとき、どこにいたの? 」

 「ッ!? ……私は、城のなかにいたわよ! 」

 「……それについては、私が証言しましょう。カラミ様は、私と一緒に、城で休んでおりました」 

 と、グレンフリードが口を挟む。


 「……じゃあ、まあ、そのことは良いわ。それに、お姉さま自身がやったと言うより、兵士の誰かにやらせた、というほうが、よりリアリティがあるし」


 マトイがそう言うと、一瞬、カラミがギクッとした表情をした。


 「聞きたいのは、ほかにもある。……もうひとつは、ここの壁について。この壁が壊れたのが、私が呪われたすぐ後のこと。お父様が病に倒れ、私が呪われ、国の主導権をお姉さまが握った。そのすぐあと。……壁が何者かに壊されたあのとき、お姉さまは、どこにいたの? 」

 「お、覚えていないわよ……! 」 

 「失礼ですが、そのとき、カラミ様は――」

 と、再びグレンフリードが口を挟もうとしたとき、


 「――聞きたいことは、もうひとつある」


 とマトイがさっきより一回り大きな声で、言った。


 「……そこにいるグレンフリードという男、()()()()()()()()? ……その男は、この国の育ちじゃない。私は、この国に戻ってきたとき、その男についても、かなり調査した。……だけど、その男は、どの部隊にも属した経歴がなく、生まれた家すら特定出来なかった。その男は、ある日突然、この国に現れた。もう一度聞く。カラミお姉さま、()()()()()()()()()()()()? 」


 「な、何者って……!? 」

 と、カラミ自身も、びっくりしてそう叫ぶ。

 「私は、ヒルス家の、子息と聞いてるけど……!? 」

 「でしょうね」とマトイ。「でも、違う。……私はヒルス家にも赴いて、この男について尋ねた。でも、ヒルス家の主人は、はっきりと、こう言った。グレンフリードなどという名の男は、この家系にはいない、と」

 「いったい、なにを、言っているの……?? 」

 カラミが、そう言いながら、グレンフリードから、一歩退く。

 

 「……カラミ様、騙されてはいけません。あの女は、国家転覆を企む、不届き者でございます」


 そう言うと、グレンフリードはカラミにこう耳打ちした。


 「……悔しくはないのですか。マトイを越えるチャンスは、今しかありませんよ。……あの女の言うことは、すべてデタラメです。……いっそ、ここで始末してしまいましょう……! 」


 すると、カラミがハッとした。

 彼女のなかでは、多少の葛藤があるらしい。目まぐるしく、彼女のなかで思考が乱れるのが、見て取れた。

 

だが、この葛藤は、悪い方に出口を見つけたらしい。カラミはこう言った。


 「……マトイ。あなたの話は、信じるに値しないわ。……それに、あなたが生まれてからずっと、私は日陰を生きてきた。私の方が姉なのに、いつもあなたと比較されて、苦しい想いをさせられてきた。その悔しさや、惨めさが、あなたにわかる……? 」


 どうやら、これこそがカラミの本音らしかった。カラミは多分、マトイを否定しなければ、生きていけないのだ。


 そして、カラミはこう続けた。


 「……マトイ、私は知っているのよ。あなたの呪いがまだ完全には解けていないことを! ……今、私はここで、あなたを始末する……! 国家転覆を企んだ罪で……! 」




 「特級怨式、――”怒りの鉄槌”! 」


 

 すると、カラミが翳した手の遥か先から、巨大な金槌が現れた。

 ビルほどの大きさの金槌が、雲間に浮かんでいるのだ。


 

 「……カラミお姉さんも、特級怨式を、使えるようになったのね」


 「馬鹿にしないで! あなたが生まれるまでは、私が、――私こそが、魔術の天才と呼ばれていたのよ……! 」

 

 「お姉さまの、魔術の才能を、疑ってなんていない。お姉さまは、十分に、天才だと思う」


 マトイはそう言うと、こう続けた。


 「ただ、私が、千年に一人の大天才だっただけ」


 「ッッ!? ……あなたの、そういうところが、嫌いなのよ……! 」


 

 そして、カラミは、今まさにその手をマトイに向けて振り下ろそうとしていた。



 「……マトイ、大丈夫? いくらマトイでも、あれを食らったら、ただじゃ済まないだろ? ……手を貸そうか? 」

 

 素早く、そう耳打ちする。

 

 「……大丈夫。それに、“特級怨式”は、私が作った魔術。どう捌いたら良いかは、私が良く知ってる」


 「つ、作った?? 魔術って、作れるの……?? 」


 こくり、とマトイが頷く。


 「本当は、作れる。みんな、知らないだけ」


 そう言うと、マトイはカラミに向かってこう言い放った。


 

 「お姉さま、魔術師としての、力の差を見せてあげる。……その魔術を、私は、もっとも初歩的な魔術、“指先集中”で払い除けてあげる」


 「マトイ……!? 」


 “指先集中”とは、魔術師が行う筋トレのようなもので、指の先端に魔術を集める訓練だった。

 それは、魔術と言うより、ただの準備運動のようなものだ。


 「そんなもので、あんな巨大な槍が、防げるのか……? 」


 そう言うと、マトイは俺にこくりと頷いて、雲間に浮かんだ巨大な金槌に指を向けた。


 そして、一言、こう呟いた。


 「“指先集中”……こっちは良いよ、お姉さま、掛かっておいで」


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