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 ユウリス渓谷に着いた俺とマトイとアオの三人は、手分けして辺りの魔物を狩っていった。

 正直に言って、もうこの辺りの敵は俺たちの相手にはならなかった。

 アオもマトイも、俺も、アリを潰すように気楽に魔物を殺していった。


 二時間ほどで大量繁殖した魔物を狩り尽くし、それらをすべて結晶化した。魔物の種類によっては“浄化”を掛けて、死体を動物化させる。結晶化と動物化が済むと、近くに来てもらっていた兵士たちに渡し、城に届けてもらった。


 最後に、スポットのボスである一つ目蝶を相手にしたが、これも脅威にはならなかった。

 マトイに拘束系の魔術を唱えて貰い、アオの硫酸を使ってあっさり溶かしてしまった。



「楽勝だったね」

「三人とも、気がついたらかなり強くなっていたんでしょう」とアオ。

「……うん、ピギーと、アオは、ほんとに強くなった」とマトイ。

「……というか、マトイが強すぎるよ。それでも、完全に呪いが解けたわけではないんでしょう? 完全に復活したらどうなるか、怖いくらいだ」

「まあ、私、世界最強だから」 

 と、冗談か本気かわからないことを言って、マトイは微笑んでいた。


 (そう言えば、呪い耐性の結晶を喰ったことで、マトイは呪いがかなり解けてる……)


 (ということは、マトイの過去についても、もう少し聞けるということか……)


 そのうちに聞こうと考えていると、


「あれが、魔物の侵攻を抑えていた、壁」

 とマトイがユウリス渓谷に聳える巨大な残骸を指差した。

 確かに、巨大な建築物がそこにはあるのだが、何者かの手によって崩れていた。


「……これが壊されたから、魔物がエディーガーデンに入ってきたのか……」

「恐らくは」

「とりあえず、修理しておくね」

「うん、ありがと」


 俺は壁に近づき、手を触れた。


「こんな大きいもの、いける? 」

「……多分、大丈夫。俺の修理スキルも、かなり上がってるから」




「“修理”――」



 すると、地面に散らかっていた瓦礫が、幽霊に持ち上げられるように、ふわふわと宙に持ち上がり、自動でもとの位置に戻っていった。

 そして、みるみるうちにユウリス渓谷の壁はもとの形に戻った。


「さすが、ピギー。なんでも、直せる」 

「いつ見ても素晴らしいスキルですわ、ご主人さま」

 アオもご機嫌でそう言う。

「いや、まあ、――ありがと」

 若干照れながら、そう返した。



 ……



 ユウリス渓谷の壁は、兵士が周囲を監視するための施設でもある。

 そのため、壁の頂上には見晴らしの良い展望台が設えられている。

 俺たちはそこに登り、遠い地平線を眺めた。


 ユウリス渓谷より先は、ほとんど延々と森が続いている。

 その先にある別の街までは、ゆうに400kmは離れている。


「そういえば、魔物が歩いてくるのには“潮”みたいなものがあると、言っていたよね」

「……そう。魔物の潮。知能を持たない魔物は、その潮に乗って土地を歩いている。まるで、海の潮に、魚が流されるみたいに」

「じゃあ、誰かが、その潮をコントロールしている可能性も、ある? 」

「……あると思う。というか、私はまさに、誰かがそれをやったと睨んでいる」

「……いったい、誰が? 」

「わからない」マトイは言った。「そこまでは、まだ……」



 ふと、俺はあることを思いついた。


 もしかしたら、俺の持っている“熱反応感知”のスキルで、土地に刻まれた“魔物の潮”が読めるかもしれないと思ったのだ。


 こういう勘は、案外馬鹿にできない。


 特に、スキルに関しては、身体が使い方を自然と知っているのか、勘によって使い所がわかる、という場面が多々あるのだ。



「“熱反応感知”――」



 そう思い、このスキルを使用すると、――まさに予想通りの結果が得られた。


「……確かに潮だ。潮がこの渓谷の北から、エディーガーデンの国まで、はっきり続いている……! 」


「そのスキルで、潮が読めるの……?? 」

「うん、試したら、出来た……! 」 

「そんなこと、出来るんだ……! 」 

 とマトイが珍しく驚いている。

「潮は、延々と北まで続いている。……ここより北には、なにがあるんだっけ?? 」


 するとマトイが言った。


「ここより北は、精霊の樹で有名な“精霊都市”がある。魔物は、そこで大量繁殖しているのかもしれない……! 」


「精霊の樹……。ティスタさんたちが向かったところだ……! 」



 そう言うと、マトイとアオは、同じ動きで遠い地平線を見つめた。



 ……



 “熱反応感知”によって見つけた潮は、地面の表面で輝いている。

 俺とマトイたちは下に降りると、地面に刻まれたその潮を見つめた。


「ここにあるんだけど、……ふたりには見えないか」

「……うん、やっぱり、いくら目を凝らしても、そのスキルがないと、見えないみたい」

 地面に屈み込んだマトイが言った。




「それ、もしかしたら、“修理”で取り除けるんじゃ、ありません? 」



 ふと、アオが言った。


「確かに! 」

「あり得る、かも」とマトイ。

「試してみるか」

「なんか、わくわくしますね」とアオ。



 俺は地面に屈み込んで、魔物の潮が出来ている箇所に、手を触れた。




「“修理”――」




 すると、地面に刻まれていた魔物の潮が、すうっと消えていった。


 

「おおっ、消えた、消えた!! 消えたね、見た!? 」


 俺はテンションが上ってそう言うが、ふたりは微妙な反応をしている。


「うん、まあ、私たちには、見えないから……」

「良かった、そう、良かったですね、ご主人さま……」



 なぜか、若干がっかりされながら、そう祝福された。


 ま、まあ、熱反応感知のスキルがないと、ふたりにはなにも見えないんだから、仕方ないか……。



「とにかく、壁も直したし、魔物の潮も消したし、今後はこの壁よりこっち側には魔物は入ってこないと思う」

「……確かに」

「これにて、とりあえずは解決ですね」



 すると、


「ピギー。……本当に、なにもかも、ありがとう」


 急にマトイが俺の身体を抱きしめて、言った。


「あら、まあ」とアオが愉しそうに声を上げる。


「どうしたの、マトイ、急に!?? 」


「急なんかじゃ、ない。ずっと、感謝してた。ピギー。いつも助けてくれて、ありがと。いつも、味方になってくれて、本当にありがと」

 抱きしめた俺の胸のなかで、マトイが何度もそう言う。


「マトイ……」



 と、かなり良いムードだったのだが、



「……早く、みんなでピギーさんの子をたくさん作りましょうねっ! 」


 と言ったアオの一言で、そのムードは一気に崩れた。


「……こ、ここッ、こここッ、ここッ、こここッ!? ……! 」


 と、マトイは途端に俺から身体を離し、ニワトリのようにおののいている。


「照れることは、ありません。マトイお姉さま。強いものの精を欲するのは、メスの本能ですからっ」


「ココッ、こここ、子はまだ、早いよ……! 」


 と、若干俺もニワトリになりながらそう返す。


「まあ、ご主人さままで、お照れになって……」




 と、三人でわちゃわちゃしている、そのときのことだった。



「あなたたち、そこでなにをしているの! 」


 と、そこに現れた人物の叫び声によって、俺たちのムードはさらに壊された。


「あなたは……」


 と、マトイが振り返って言う。


「カラミお姉さま……! 」


 そこに立っていたのは、マトイと、その従者であるグレンフリードと、その手下たちだった。


「ここには魔物の侵攻を阻む壁があります。容易に近づいて良い場所などでは無い! ……さては、壁が壊れたのは、あなたちの仕業でしょう! 」


 カラミが、突然そんな疑いを俺たちにぶつけた。


 ……はっきり言えば、その件に関してはカラミのほうがかなり怪しかった。


 そして、マトイもそれとかなり近い疑いを、カラミに抱いていたのだろう。



「……それは、こっちのセリフです。お姉さま。私は、あなたに、聞きたいことが山程ある……! 」


 マトイがはっきりそう返すと、カラミは下唇を噛み締め、俺たちをいまいましげに睨みつけた。


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― 新着の感想 ―
[一言] カミラ、この状況でその台詞はさすがに無理あるって 壁をたった今直した訳ですし
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