カクテル
「私もかなり強くなったつもりなのですが……」
エフィーさんが言う。
「強くなっているじゃないですか! 僕も、びっくりしました」
「い、いえ! ピギーさんに比べたら、私なんて、全然です! 」
「ぼ、僕の方こそ、まだまだ、全然です……! 」
と、俺たちはふたりで謙遜しあっていた。
「なんだか、夢みたいです」
エフィーさんが、ぽつりと言った。
「夢、ですか……? 」
「ええ。だって、このあいだまで、本当に私は弱小冒険者でしたから……。魔物はろくに倒せない。お金は増えない。耳には傷を負って、エルフたちには傷物として扱われる。……本当に、絶望していたんです」
「……」
「なのに、ピギーさんに会ってから、急に強くなって……! 今では、A級冒険者になれています。……ピギーさんに会わなかったら、私の人生なんて、きっとつまらないものだったでしょうね」
エフィーさんはそう言うと、少し哀しそうな顔で笑った。
「エフィーさん、もっともっとみんなで強くなりましょう。僕も、みんなのためにもっとがんばりますから……! 」
励ますつもりでそう言うと、
「……はいっ! 」
とエフィーさんは爽やかな笑みを俺に向けてくれた。
……
その後も、俺たちは西に前進しつつ、魔物の討伐を続けた。
基本はエフィーさんに前衛を任せ、それを補佐する形で俺は後についていった。
……と言っても、結局はエフィーさんでは危ない場面も多々あるから、気づかれないよう、こっそりと辺りの魔物を倒しまくってはいたが……。
敏捷性がカンストしている俺は、エフィーさんに気づかれないよう動くのも容易になっていたのだ。
朝日が上がるころ、前を歩くエフィーさんに疲れが見え始めた。
「少し、休憩しましょうか」
と俺は提案した。
「そうですね……! 私も、少し疲れました! 」
疲れてはいるのだろうが、精一杯笑みを浮かべてエフィーさんがそう言う。
俺は周囲に“生体反応感知”スキルを使って、魔物が居ないか確かめた。
「……この辺りには魔物はいないみたいです。さっき、ずいぶんたくさん倒しましたからね。じゃあ、ここで少し野営しましょう」
「はいっ! 」
そう言うと、エフィーさんは、ちょこんと俺の隣に腰を降ろした。
「ピギーさん、それは、なにをするつもりなのですか? 」
「ああ、これですか。ちょっと、カクテルを作ろうと思って」
「カクテル……? 」
「そうです。お酒の一種なのですが……」
ついさっきの討伐のなかで、俺は“固有職スキル上昇(大)”の結晶を手に入れていた。
これをエフィーさんに喰わせてあげようと思ったのだが、せっかくだから、美味しく調理しようと考えたのだ。
「まずは“プラント”を使って……と」
俺は地面に手を翳し、なるべく小さい規模の範囲にスキルを適応した。
すると、足元に一本の草が生え、それが成長し、ひとつのウトゥルーの実となった。
「すごい……! すぐに実が生えてきました! 」
「……これは“プラント”スキルなのですが、たくさん結晶を喰ったので、すぐに実がなるようになったんです」
「あっという間に成長するんですね……!! 」
「ええ、驚きますよね。自分でも、少し不思議な感じがします」
このスキルを初めて見たエフィーさんは、目を輝かせてわくわくした表情で俺を見ていた。
「ウトゥルーの実は食べたことありますか? 北にしか生えない果物らしいのですが、すごく美味しいですよ。甘みがあって、少し酸味もあって」
「名前はもちろん知っていますが、食べたことはありません。それに、すごく高級品種ですから、とても手も出ませんし……」
「じゃあ、楽しみにしてて下さい。きっと、美味しいですよ」
「ええ、とっても楽しみです」
エフィーさんが、にっこりと笑う。
見ているこっちも嬉しくなる、最高の笑みだった。
俺はウトゥルーの実をもぎ取り、“調合スキル”を発動した。
以前このスキルをいろいろと試していたとき、簡単な酒や薬用酒なら作れることがわかったのだ。
俺は持ってきていた器のなかでさっきの結晶を砕き、そこにウトゥルーの実を混ぜた。
上から実を砕いていき、結晶と実の歯ごたえが完全には失われない程度に崩した。
さらにその器に“ポーション生成”スキルを当て、少量のポーションを混ぜる。
「あっという間にジュースみたいになりましたね……! 」
「結晶が入っているので、少しお酒っぽくなっていると思いますが、そうですね、ジュースみたいなものです。僕の生成したポーションには一時的な攻撃力増加や継続快復の効果があるので、疲れも癒えると思います」
「まるで……万能薬ですねっ」
エフィーさんがおかしい、というようにふふっと笑う。
「そうだ、忘れてた、仕上げに……」
と、俺は地面に向けて再び“プラント”スキルを発動した。
「“プラント”――イヅの実」
「今度は、なにを植えたのですか?? 」
「イヅの実です。……もとの世界で言うとライムとかレモンに近いものなのですが、……これもこの国ではあまり見かけませんね」
「私は、見たこともありません……! 」
イヅの実はさっきと同じように、みるみるうちに成長して、実を作った。
俺はそれをもぎとり、小型ナイフで四分の一にカットすると、さっき作った結晶のリキュールのうえに絞った。
「すごい良い香りがします……! 」
「そうでしょう。イヅの実は爽やかな酸味があって、少量垂らすとすごく美味しいんです」
「……ピギーさん、飲んでも良いですか? 」
待ちきれない、というように、エフィーさんが俺の胸元に顔を近づけた。
「もちろん、どうぞ。エフィーさんのために作ったものですから」
「では……! 」
エフィーさんは上品な手付きで器を掴み、カクテルをくいっと口に含んだ。
すらりとしたエフィーさんの喉を、俺の作った酒が通過していく。
「んんんん~~~っ!! 」
と、エフィーさんが口元を抑え、身体を震わせた。
「ど、どうですか……?? 」
「美味、しいっ、ですっっ!! 」
と、びっくりした顔でエフィーさんが言った。
「良かった……! 」
「こんな美味しい飲み物、私、初めて飲みました……! 」
「僕もたまにしか作らない飲み物なので、うまくいくかわからなかったのですが、良かった、喜んでもらえて! 」
「信じられない。ウトゥルーのとろりとした果汁のなかに、結晶の神秘的な味わいと、ポーションの爽やかな風味が混ざっていて、そこに少量の酸味が――イヅの実の酸っぱさが入っていて、それらが、ひとつも邪魔し合っていません。まるで、互いが互いを支え合うような……」
一呼吸置いて、エフィーさんが言った。
「絶品です……! 」
「良かった……! 」
その後、しばらくふたりでこのカクテルを飲み合った。
俺の“プラント”士スキルは自由に植える作物を選べるから、実を変えては、別の結晶と混ぜて違う味のカクテルを作った。
だんだんとエフィーさんも酔いが回ってきて、あの実を試そうとか、あんな味を作ったらどうか、とかアイディアを出し始めた。
俺たちはもともと味覚がすごく合うのか、気がつくと、ふたりで延々とカクテル作りを楽しんでいた。
「結晶には、こんな楽しみ方があるんですね……! 」
「僕も発見が多くて、すごく楽しかったです……! 」
「もっと、いろんなものを、一緒に食べたり、飲みに行きたいですね」
エフィーさんが、顔を少し赤らめて、目を潤ませて、そんなことを言った。
「今度、ぜひ行きましょう」
「はいっ! 」
そのとき、ふと俺はエフィーさんの首の裏に目をやった。
ここに来てからずっと正面からしか見ていなかったから気づかなかったが、いつの間にか、そこにちょっとした傷が出来ていた。
「あれ、エフィーさん、首の裏が傷ついていますよ……」
「え、ホントですか? 全然気づかなかった……」
「僕の“修理”スキルで、治しちゃいますね」
「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい……! 」
俺はさっとエフィーさんの首に手を当てて、“修理”スキルを発動した。
「……っっっ!?! 」
一瞬、ブルッとエフィー酸が体を震わせる。
……そういえば、このスキルには、治されるときに快楽を伴うのか、エフィーさんは苦しそうに唇を噛み締めていた。
「だだ、大丈夫ですか、エフィーさん!? 」
そう言うと、エフィーさんは少しとろんとした顔で、額に汗をかきながら、
「……ピギーさん、今度からは、修理スキルを使うときは、私の心の準備してからにして下さい」
と熱い吐息を漏らした。そしてもう一度ブルッと身体を震わせると、
「……こんなの、ズルいです……! 」
と、潤んだ上目遣いで、しばらく俺を睨んでいた。
「ご、ごめんなさい……!? 」
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