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マトイは、よほど容量を大きく上回る結晶を喰ったのか、その日の夜になっても目を覚まさなかった。

 兵士たちのテントのなかで、苦しそうに呻いていた。


 「マトイ、全然起きないな……」

 「可哀想なお姉さま。……よほど結晶の酔いに弱いのでしょうね」

 「み、みたいだね……」


 俺たちは三人でこのスポットの奥地につもりだったから、急に時間を持て余してしまった。

 兵士たちも長く続く旅に疲れていて、出来れば、早く討伐を終わらせたかったのだ。


 「うーん、どうしようか……? 」

 「私はふたりだけでも構いませんが……」

 「俺も構わないけど……」

 「三人で行きたかった、ですね……」

 とアオが少し残念そうに言う。

 


 結局、もう少し様子見しようということになり、一、ニ時間、辺りをぶらぶらしていた。


 ……すると、暗闇のなかに松明を持った人影が近づいてきた。


 「あ、あれ、もしかして、エフィーさん……? 」


 その人物が目の前で来ると、そのひとはエフィー三姉妹だったのだ。

 

 「ああ、良かった。まだここに居たのですね。……隣のスポットにピギーさんが来ていると聞いて、急いで駆けつけたのです……! 」

 「え、わざわざ、僕のために来てくれたんですか!? 」

 するとエフィーさんが、顔を赤らめて言った。

 「ええ、そう、です……。迷惑でしたか……? 」

 「い、いえ! 迷惑だなんて、とんでもない! 」

 「そうですか! 良かった……! 」

 


 俺は兵士のテントのなかに三姉妹を案内して、今置かれている現状について説明した。

 

 「まあ、……マトイさん、よっぽど結晶の酔いに弱いのですね……! 」

 「エフィーさんたちは、こんなには酔わない? 」

 「私たちは殆ど酔いは感じませんが……」 

 やはり結晶には、ひとによって酔いの度合いが違うらしい。


 「とにかく、そういうわけで、魔物の殲滅に向かえないって状況なんだ」


 

 すると、エフィーさんが残りの姉妹たちとこそそと会話を始めて、


 「そ、そのっ……! 」


 と突然俺に向き直って言った。


 「ま、マトイさんが行けないなら、わ、私が、代わりに、同行しても、良いですか……!! 」

 

 残りの姉妹たちが、こそこそと「良く言った! 」、「お姉さま、頑張った! 」とエフィーさんに囁いている。

 

 「え、エフィーさんが同行、ですか?? 」

 「い、嫌ですか……!? 」 

 見ると、エフィーさんは腕の先まで真っ赤になっている。

 よっぽど恥ずかしいのだろう。

 「い、いえ! 嫌なわけありません! まさか、そんな気持ちになるわけがないです! 」

 「じゃ、じゃあ、一緒に、行ってくれますか……? 」

 と、猛烈に照れながら、エフィーさんが上目遣いに言う。

 

 エフィーさんはただでさえエルフで美女なのに、照れて顔を赤らめて目を潤ませていると、この世のものとは思わない可愛さだった。

 気がつくと俺も顔が真っ赤になっていて、


 「じゃあ、アオと三人で、行きましょう……! 」

 としどろもどろになりながら言った。

 すると、突然、


 「いえ、わたくしはここに残ります」



 とアオが言った。

 「ちょ、ちょっと、アオ!? 」

 「わたくしはマトイお姉さまが心配なので。どうぞ、お二人で行ってらっしゃいませ」

 アオはそう言うと、いかにもこの状況を愉しんでいる、というようにほくそ笑んでいた。

 ……たぶん、俺やマトイの関係や、エフィーの気持ちを全部わかったうえで、俺をイジメて愉しんでいるのだ……。

 アオはほんとに、こういうとき、サディスティックなのだ……。


 「じゃあ、じゃあ、ふたりで行きましょう……」

 真っ赤になったまま俯いてそう言うと、


 「やった! 」、「良かったね、お姉さま! 」とエフィーの後ろでふたりの姉妹がそう囁いていた。


 「う、嬉しい! ピギーさん、それでは宜しくお願いします……! 」


 と、エフィーさんは心底嬉しそうにしていた。



 (まったく、なんでこんな状況になったんだろう……)


 (アオのやつ、絶対愉しんでるな……! )




 ……



 この辺りのスポットは砂漠地帯の奥に魔物が密集している。

 兵士たちの話を聞いて、その辺りの事情は理解していたが、改めて“生体反応感知”を使った。

 すると、やはり、さらに西に行ったところに魔物が密集していることがわかった。



 エフィーさんとそこに向かいながら、少し話をした。

 

 「……ピギーさん! ピギーさんに結晶を与えて貰って、私もかなり強くなったつもりなんですよ」

 「そうですか。だとしたら、僕も嬉しいです! 」

 「きっと、ピギーさん、驚くと思います! ……だって私、以前はE級の冒険者に過ぎなかったのですから」

 「ああ、そんなときも、ありましたね……! 」

 「そんなときもとおっしゃいますが、ついこないだのことですよ? ……結晶を食べてからが、あっという間だっただけのことで……! 」

 「じゃ、じゃあ、今日はお手並み拝見ですね! 」

 そう言うと、エフィーさんはふふっと笑っていた。


 しばらく歩き続けると、前方に魔物の群れが見えてきた。

 そこに居たのは、大食いスコーピオンだった。

 それもかなりの巨大な個体で、2階建ての家程の大きさをしていた。


 「大食いスコーピオンだ……! 討伐クエストだったら、A級は間違いない魔物だ……! 」

 「ピギーさん、ここは、私に任せて下さい……! 」

 と、エフィーさんが俺の隣で頷いた。

 そして、返事をする間もなく、エフィーさんが剣を抜いてスコーピオンに駆けていった。


 

 ……確かに、エフィーさんは凄まじく強くなっていた。

 彼女はスコーピオンの硬い身体に剣を突き刺し、その身体によじ登ると、一気に攻撃を仕掛け、スコーピオンの頭部に剣を突き刺した。

 激しい血しぶきが吹き上がり、スコーピオンが大暴れする。

 エフィーさんはひらりと地面に降り、連続して剣を振り払い、スコーピオンの足を切断する。

 ……見事な剣撃だった。

 間違いなく、エフィーさんは超一流の剣の使い手に成長していた。


 ……だが、


 「エフィーさん、後ろ! 危ない! 」

 

 彼女がスコーピオンの討伐を終えたとき、その背後に別の個体が迫っていた。

 ……恐らく、この辺りは大食いスコーピオンの縄張りだったのだろう。

 彼女の後ろには、すでに2,30匹の大食いスコーピオンが迫っていた。



 (じゃあ、俺も力を試してみるか……)


 (あれから、攻撃力もカンストしたし、結構強くなってると思うんだよな……! )


 そして、軽い助走のつもりで地面を蹴った。

 と言っても、敏捷性もカンストしている俺は、一瞬でエフィーさんを追い越す。

 


 ……たぶん、エフィーさんの目には、ほとんどなにも見えなかったのではないか。

 というのも、俺が斧を振るうだけで、スコーピオンは一気に5,6匹が粉々になったのだ。

 

 そして、俺が一瞬で27匹いたスコーピオンを粉々にすると、

 


 

 「え……? 後ろ……? 」


 と、やっとエフィーさんがさっきの俺の声に反応して、振り返った。


 と、そのとき、俺が粉々にしたスコーピオンたちが、ぱらぱらと地面に落ちた。


 「て、敵……!? あ、あれ?? ……ピギーさん、もう、倒したのですか……!?? 」


 「……エフィーさん、ずいぶん強くなりましたね」


 と俺は言った。


 「どうやら、僕もちょっとだけ強くなったみたいです……! 」


 「これが、ちょっと……!?? 」


 と、エフィーさんは信じられないというように両手を胸の前で合わせていた。


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