砂漠
それは天変地異に似ていた。
微かに漂っていた薄曇りの空に、突如として巨大な槍が現れたのだ。
砂漠の一帯に群がっていた生物は、全員が空を見上げていた。
群れを成していた魔物たち、それを討伐しに来ていた兵士たち。
そして、俺とアオも呆然と空を見つめていた。
「らひほうふ、ほのまふふは、りんへんやえるふにはひはない……」
(大丈夫、この魔術は、人間やエルフには効かない……)
マトイはそう言うと、翳していた手を振り下ろした。
……すると、空に現れた槍が砂漠の地面に突き刺さり、凄まじい爆風が辺りに巻き起こる。
「ちょちょちょ、ちょ、マトイ……!?! 」
俺は、目の前から吹いてくる砂嵐に驚き、必死に顔を庇った。
「お、お姉さま!?? 」
と、蛇の姿から戻ったアオも、この突然の超常現象に戸惑っている。
「まらまら、ろんろん行く」
マトイはそう言うと、もう一度こう唱えた。
「ろっふうろんひひ、――“はらひのはひ”」
(特級怨式、――“裁きの槍”)
そして今度は、さっきと同じ大きさの槍が、空に6本も現れたのだ。
「ま、ま、マトイ!? いくら俺たちにダメージがないと言っても、爆風が、凄すぎる……! 」
俺は慌ててそう制止するが、酔っ払ったマトイは、言うことを聞こうともしない。
空に浮かべた巨大な槍を次々と砂漠に突き刺し、凄まじい爆風を何度も起こした。
……マトイが十数本の槍を空から降り下ろし、俺たちが吹き荒れる砂嵐に疲れ切ったとき、突然、マトイの暴走が終わった。
徐々に晴れていく砂埃のなか、アオと一緒に静かに立ち上がると、俺たちの目の前にあったはずの平坦な砂漠は、巨大なクレーターだらけの荒れた大地となっていた。
突然のことになにが起こったかわからない兵士たちは、呆然と至るところで立ち尽くしていた。
そして、魔術を連発したマトイは、酔いが急激に回ったのか、地面のうえで仰向けに寝そべり、寝息を立てて眠っていた。
「ね、寝てる……! 」
「お姉さま、怖いひとですね……! 」
と、アオも若干怯えている。
「それにしても、なぜ急にこんなに暴れたのでしょう?? 」
「え、それは……! 」
マトイは多分、俺と気持ちを打ち明けあったことが、急に恥ずかしくなったのだ。
だが、そんなことが理由でマトイが暴れたのだ、とは言えず、
「なんだろう、すごく、むしゃくしゃしてたんじゃないかな……」
「な、なにに、ですか?? 」
「え!? さ、さあ?? 」
「?? 」
と、良くわからない会話になってしまった。
……
突然の砂嵐に巻き込まれた兵士たちを、アオの青蛇を使って、優しく一箇所に集めた。
彼らは無傷ではあったが、全身に砂を浴びていた。
彼らに水を飲ませたり、やや劣化した装備品を修理してあげた。
「ぴ、ピギー様たちでしたか! 」
兵士の一人が言う。
「せ、世界が終わったのかと思った……! 突然、空に巨大な槍が現れて……! 」
と、別の兵士が唇を青くさせて言った。
「ご、ごめんね……」
と、申し訳ない気持ちでいっぱいになって、ひとりひとりに謝る。
「い、いえ、戦況としては危ないところだったので、救っていただいて、感謝しかありません! 」
と、兵士は一応、恐縮してそう言ってくれた。
「ただ、今度からは、一旦兵士たちが避難してから、あの魔術を使って頂けると、助かります……! 」
と言いにくそうに苦言していた。
「うん、ほんと、ごめん……」
と、俺は終始謝っていた。
……
彼らに戦況を聞くと、この西の砂漠地帯では、ある程度魔物を殲滅し終えているのだが、その分、奥にいた強力な魔物が姿を見せ始めている、ということだった。
確かに、マトイの魔術で飛び散った魔物のなかには、俺たちが見たこともない魔物もいた。
恐らく、クエストのランクとしてはA級以上の魔物が現れ始めているのだ。
マトイを兵士たちのテントに眠らせているあいだに、兵士たちをかき集めて、戦力を整えさせた。
彼らが持っていた空のポーションに新しくポーションを詰め、そこに集まっていた約200人の兵士の装備に修理スキルを当てておいた。
「改めて初めて生で見ますが、ほんとうに奇跡のようですね……! 」
俺がポーションを生成したり、装備を修復するのを見て、兵士のひとりが言った。
「うん、まあ、普通だよ」
「い、いえ、普通だなんて、とんでもありません!! こ、こんなの、奇跡としか、言いようがありません! 」
こういう褒め言葉に未だに慣れない俺は、ただ俯くしかない。
ふと、彼らがひどくげっそりしていることに気づいた。
「もしかして、食料が、足りていない? 」
そう尋ねると、
「はあ、恥ずかしい限りですが、満足に食えているとは言えません……! 魔物の討伐が上手く行かず、補給部隊との連携も上手く取れていないのです……! 」
「そうか……」
話に聞くと、本来ここに来るはずの補給部隊が、急激に強くなった魔物に追い払われて、この場所まで辿り着けなかったのだという。
何度かそういうことが続くうちに、彼らは飢餓状態に陥っていたのだ。
「じゃあ、俺に任して」
俺はそう言うと、テントから離れて砂漠地帯に歩いていった。
「な、なにをなさるので……? 」
俺は地面にかがみ込み、プラント士スキルを発動した。
「“プラント”――ウトゥルーの実」
そう言うと、目の前の砂漠地帯が一気に緑地化し、莫大な量のウトゥルーを生えさせた。
「さあ、もう実はなっているから、みんなで食べようよ。この実は、すっごく美味しいんだ」
俺がそう言うと、俺の隣に立っていた兵士は、呆気に取られて、持っていた剣を地面に落とした。
「これが奇跡でないなら、な、なにが奇跡なのですか……? 」
兵士は、誰に言うともなく、うつろな表情でそう呟いた。
※読んでくれた方へ
少しでも、
「面白い」
「続きが読みたい」
「楽しい」
と感じるものがありましたら、広告下の「☆☆☆☆☆」から評価をお願いします!!
ブクマ、評価があると物凄くモチベーションがあがります!
どうか、どうか、ご協力下さい! m(_ _)m




