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特級

「《聖獣種》の青蛇の女王は非常にレアな存在で、この世界にもごくわずかしか存在しません」

  

 アオが微笑みながら言った。

 《希少種》から《聖獣種》にランクアップしたせいか、アオには神秘的なオーラが纏わりついていた。

 

 「聖獣種になるとなにが変わるの? 」

 「ひとまずは見た目に変化が起こるようです。今はまだ変化途中のようですが、角はもう少し高くなり、身体つきも大人っぽく成長します」

 「大人っぽく、か」

 「ええ、簡単に言えば、もう少し豊満になります。……嬉しいですか? 」

 「い、いや、俺は別に……! 」

 慌ててそう否定すると、

 「照れなくて良いのですよ、ご主人さま」

 とアオは妖艶な笑みを見せて俺を見つめた。

 「……! 」

 相変わらずこういうとき、俺はただ照れて顔を赤らめるだけなのだった。


 ほかにも、アオから聖獣種に変わったことによる変化を尋ねると、



 ・聖獣種である青蛇の女王は階級がトップな為、下の階級の青蛇に強制力を持つ。



 簡単に言えば、希少種以下の野生の青蛇を、強制的に言うことを聞かせられるのだという。

 「まさに、“女王”だね」 

 「ええ、まさに」

 アオはぞっとする表情で愉しそうにしていた。


 それから、



 ・手から生成出来る青蛇の数が増える。


 

 「それって、どのくらい増えるの? 」

 「だいたい、以前の十倍ほどでしょうか」

 「じゅ、十倍!? 」

 「ええ、なにしろ、聖獣種ですから」

 とアオはこともなげに、にっこりと笑う。


 

 (確か、以前のアオは、手から出せる青蛇の数は7、800と言っていたな……)


 (それがいきなり、7,8000か……)


 (7,8000の青蛇が手から出せるなんて、もはや、災害レベルだな……! )



 「それから……」

 とアオは手のひらから一匹の青蛇を出現させながら言った。

 「これを見て下さい」

 「……? 」

 アオの手から現れた一匹の青蛇の口から、牙が覗き見えている。

 促されるままに、それをじっと見つめていると、

 

 「シャァー! 」

 

 という音とともに、高圧のガスのようなものがそこから噴出された。


 「な、なに、今の!? 」

 「今のは、強力な酸です。ちょっとしたものなら溶かしてしまうので、気を付けてください」

 「さ、酸って……!? 」

 「私の手から生成した青蛇のすべての口から、この酸が出せるようになりました」

 「そ、そんなの食らったら、ひとたまりもないんじゃ?? 」

 「ええ」

 とアオがずいと俺に近づいて言った。

 「これもそれも、すべてあなたのお役に立つためです、ご主人さま。どうか、私の従える青蛇の群れともども、今後も可愛がって下さいね」

 と上目使いに甘えた声で言う。

 言葉の内容だけを考えるなら、実に殊勝な発現なのだが、声の調子と、表情を見ると、どこか高級クラブのお姉さんが客を落とそうとする仕草にも見える。

 ……多分、俺がシャイなのを知っていて、からかっているのだ。

 案の定真っ赤になった俺は、

 「は、はい……」 

 と下を向いたまま答えた。

 「クスクス」

 「アオ、あんまり俺をからかわないで」

 「はあい、ご主人さまっ」

 わかっているのかいないのか、アオは最後までからかうような声でそう言っていた。


 

 ……


 

 日が傾きかけたころ、

 「失礼します! 報告があります! 」 

 と兵士のひとりが、俺たちのいる会議室に入ってきた。

 「む、どうしたの」 

 「実は……」


 彼が持ってきた報告は、西のスポットに関するものだった。

 西の砂漠地帯では、A級ランクを越える魔物が大量に現れ始め、殲滅に向かったパーティーがことごとく苦戦しているという。

 確かに、このところ西に向かったパーティーたちの装備品を修理するサイクルが早くなっているとは感じていたが……。


 「……わかった」

 少し思案してから、俺は頷いた。

 「準備して、俺たちが行こう」

 「……私も、それが良いと思う」

 「準備は万端ですわ、ご主人さま」 

 即座にふたりがそう反応し、――俺たちは十五分後には城の門に出てきていた。


 

 ……



 巨大化したアオに荷馬車を引っ張ってもらい、その荷馬車のなかでマトイとふたりっきりになった。


 「三人でパーティー組むのも、久しぶりだね」

 「……うん、ずいぶん、昔のことのよう」

 「やっぱり、この三人が、俺には合っているよ」

 「……私も、しっくり来る」


 俺は、なんとなく深い感慨に耽っていた。

 この世界に転生する前から、俺には“仲間”という存在がいなかった。

 友達もほとんどいなかったし、クラスメイトにはいじられたり、いじめられてばかりいた。

 

 だけど、今は全然そうじゃない。

 俺の力を認めてくれるひとがいて、俺を頼りにしてくれるひとびとがいる。

 俺は、彼らのために精一杯働くのが、楽しくて仕方なかった。

 やればやるほど、自分の好きなひとたちが喜んでくれるのだ。


 ……そう思ったとき、

 「やっぱり、好きだな」

 と、つい言葉が漏れてしまっていた。

 「……なに、が? 」

 「うん、マトイのことが」

 “それからみんなのことが”――と付け足すつもりでそう言ったのだが、

 「……それ、どういう意味」

 と言われ、自分が言った言葉がどんな意味を成しているか、気がついた。

 うっかり、告白したみたいになっていたのだ。

 

 「……! 」

 思わず、絶句する。

 マトイは、荷馬車のなかで俯いて、顔を真っ赤にしている。

 

 (どど、どうしよう……!?? )

 

 と頭のなかはパニックになるが、……逃げてはならないような気がした。


 勇気を出して、


 「……そのままの意味だよ」

 と俺は言った。

 「……そのまま、単純に、マトイが好きなんだ」


 すると、


 「……嬉しい」

 とマトイが呟く。

 それから、



 「……私も、好き」


 

 と、聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で、マトイがそう呟いた。


 

 信じられないくらい、心臓がどきどきしていた。

 多分俺は体中が真っ赤になり、全身から汗が吹き出ていた。

 汗が吹き出ていると意識すればするほど、汗は止まらなくなり、頭もくらくらしてきていた。

 

 (ここ、こんなに可愛い娘が、おおお、俺のことを、好きと言ってくれている……!! )


 と、頭のなかはパニックを通り越して発狂し掛かっている。


 (やばいやばいやばい、りりり、リードしなきゃ……! なにか、言わなくちゃ……!! )


 そう思っていると、


 「ご主人さま、マトイお姉さま、西の砂漠が見えてきました! もうじき着きます! 」


 と荷馬車の先頭から声がした。アオが、俺たちに向かって叫んだのだ。



 「わわ、わかった!! 」

 と、咄嗟に返事をする。

 「……準備、しよっか」

 まだ顔の赤いマトイは、そう言うと、いそいそと準備を始めた。

 「う、うん……! 」 

 と若干どぎまぎしている俺も、そう答える。


 

 「そう言えば、結晶どうする? 」

 準備を終えたマトイが、おもむろに言った。

 「ああ、呪いの耐性の結晶? 喰う時間がなかったから、一応持ってきたけど……」

 俺はバッグから“呪い耐性(大)の結晶を取り出した。

 スポットを巡るパーティーたちから、約18個のこの結晶を回収させて貰っていたのだ。


 「今、食べる」

 マトイがそう言った。

 「今って、マトイ、結晶の酔いがひどいじゃないか」

 そう言うが、よっぽどふたりきりのこの状況が恥ずかしかったのか、マトイは突然俺のバッグから結晶を取り出すと、……それをいっぺんに喰い始めた。

 そして、それら18個の結晶を喰い終わると、


 「……うぃひった」(喰い切った)

 と顔を真っ赤にさせながら言った。

 「だ、大丈夫……?? 」

 「らひろうぶ」(大丈夫)

 「だ、大丈夫じゃないと思うけど……」

 「ひはらも、ららりもろってら」(??)

 「??? 」

 


 「ろうふうれんひひらけれなくて、ろっふうれんひひもるはえるようになっは」


 ともはや何語かもわからない言葉で言った。

 

 後になってこのときのことをマトイに聞くと、マトイは、


 

 「上級怨式だけではなく、特級怨式も使えるようになった」


 

 と言っていたのだという。


 そして荷馬車のなかで酔っ払った顔をしているマトイは、上空に向けて手を翳した。


 「ろっふうろんひひ、――“さらひのやひ”」

 (特級怨式、――“裁きの槍” )


 と魔術を唱えた。

 そして、彼女が手を翳すと、巨大な、ビルを4つまとめたような大きさの槍が、空に現れ始めた。

 

 「なな、なんだ、あの槍……!? 」 

 と驚いて俺が言うと、

 「ほれは、ろっふううろんひひ」

 (これが、特級怨式)

 

 と、やはり何語かもわからない言葉で、マトイが呟いた。


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