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戦闘




 翌日、朝早くから目を覚ました。

 今日も死体を探しに街の外にいくつもりだった。


 (護衛でも付けられれば、もっと楽に稼げるのに……)

 そう思うが、現状ではそれはかなり難しいだろう。

 まず第一に、同級生たちの嫌がらせで俺はギルドでの受注が受けられなくなっている。

 だから俺がギルドに依頼を出すのも多分不可能だろう。

 護衛を付けて欲しいとお願いしても受付嬢を困らせるだけのことに終わりそうだ。

 それに雇うだけの金も充分とは言えない。


 もうひとつはそもそも誰も護衛してくれないだろうというのもある。

 俺がしているのは“死体漁り”なのだ。

 これは冒険者のなかでも最も忌み嫌われる行為だった。

 当たり前のことだ。

 魔物と戦うでもなくダンジョンに潜るでもなく、死んだ冒険者の死体を探して街の外を彷徨い歩いているのだ。

 それだけでもひとに生理的嫌悪を引き起こすのに充分な材料が揃っている。

 (俺だってやりたくてやっているわけじゃない……)

 そう思うが、誰も俺の想いなど聞いてくれはしない。

 (必ずいつか、みんなを見返してやる……)



 ……


 武器屋で貰った薬草をポケットに入れ、宿を出た。

 街の西に向かい、門をくぐり、街のそとに出て行く。

 街道を西に向かって真っ直ぐ進み、深い森に入る。

 俺は地図すらも持っていないが、森のなかには俺のつけた印がある。

 それに従って歩いていけばダンジョンの入り口までは向かえる。

 そのダンジョンは初級者向けの低レベルなものらしいが、それでもそこで命を落とすものは多い。

 (あそこに行けば死体のひとつふたつは落ちているだろう……)

 だが、死体がたくさん落ちているということは、それだけその場所が危険だということでもある。

 ダンジョンの奥深くまで行けばきっと死体もたくさんあるが、そこまで行くころには俺は魔物に食われて死んでいるだろう。

 だから、俺は欲張らないことを心がけていた。

 死んでしまっては意味がないのだ。

 死なないように気をつけながら、安全に死体探しを継続する。

 そして、少しでも良い装備を整えていく……。

 そしていつか……。


 

 ……


 

 森のなかに入った。

 木に付けた印を辿ってダンジョンに向かって歩いていく。

 この日は少し空が曇っていた。

 木々の隙間から漏れてくる日差しもわずかに陰っている。

 (ダンジョンに着く前に都合よく死体が落ちていてくれれば良いのだが……)


 だが、最初に死体を見つけた水場に着いたとき、遠くにハングリーウルフがいるのを俺は見つけた。

 咄嗟に屈み込んだ。

 しかし近くに茂みはなく、慌てて少し先の茂みまで中腰で歩いていく。

 

 (あのハングリーウルフ、この辺りを縄張りにしているのか……)

 (危なかった……、もう少し先まで歩いていたら、感づかれていた……)


 だが、ウルフはその場から動かなかった。

 真っ直ぐにこっちを見据えている。

 

 (もしかして、気づかれているのか……? )

 

 ウルフは俺のいる茂みを見つめたまま一歩近づいてきた。

 そしてさらにもう一歩近づいてくる。それからさらにもう一歩。


 (段々と近づいてくる……。やばい、完全に気づかれている……)

 俺は腰に携えたナイフを握る。

 (やるしかない……。戦うしか無い……)

 (俺が戦闘職でないからなどと言ってられない、やらないと、殺される……)


 ウルフは徐々に歩く速度を上げ、突然一気に俺に向かって走り始めた。


 そしてそう気づいたときには、ウルフの鋭利な牙が目の前にあった。

 ウルフは茂みのなかの俺に向かって的確に噛み付いてきたのだ。

 (あ、ぶな……)

 ウルフが噛み付いてきたところを咄嗟に後ろ向きに下がって、なんとかかわすことに成功した。

 ウルフは茂みのこちら側に現れて、獰猛な息をぐるぐると吐いている。


 (近くでみると、恐ろしい獰猛さだ……)


 ウルフの目は真っ赤に染まっている。

 牙は鋭利な釘のようにはっきりと尖っている。

 

 (あんなのに噛まれたら、ひとたまりもないぞ……)

 

 再びウルフが俺に飛びかかってきた。

 また噛み付いてくるかと思ったが、今度は鋭利な爪で引っ掻いてきた。

 咄嗟に左手で防御すると、薬指と中指のあいだがぱっくりと引き裂かれた。

 「痛い」などという言葉では到底表現できないほどの激痛が走る。

 ウルフは一旦距離を取り、余裕たっぷりに俺の様子を窺っている。

 左手を見ると、皮がめくれ、なかから白い骨が見えていた。


 「死ぬ、死ぬ……」


 ウルフは再び俺に一気に間合いを詰めてきて、大きな口を開いた。

 さっきと同じように咄嗟に左手で防御してしまう。

 そうしようと思ったと言うより勝手にそうなったという感じだった。

 ウルフが俺の左手に深く噛み付く。

 鋭利な牙が肉のなかに深く食い込んでいるのが見えた。

 パニックになる頭のなかで必死に「殺せ、殺せ……」と呟いていた。

 それで、俺の左手に噛み付いているウルフの脳天にナイフを突き刺した。

 すると、ウルフの左目からナイフの先が飛び出た。右目の奥からブシュッと血が噴き出した。

 その血が俺の顔から首に掛けて大量に掛かった。


 ナイフを突き刺してもウルフはまだ俺の左手に噛み付いている。

 首を左右に振ってどうにか俺の肉を骨から引き剥がしたいようだった。

 

 俺はウルフの脳天に突き刺さったナイフを抜き取った。

 ずるりという、生肉を手づかみしたような感触が手に走る。

 それから、もう一度高く振りかぶってウルフの頭にナイフを突き刺した。

 今度はさっきよりもさらに深く突き刺さり、ウルフの顎の下からナイフの先が現れた。

 どちゃり、という音がした。


 ウルフは突然のダメージに錯乱して狂ったように頭を振り回した。

俺は突き刺したナイフをその位置で必死に掻き回した。

 するとバナナをこね合わしたような音がして、残っていたウルフの右目がずるりと溢れてきた。

 ウルフはそれでもまだ俺を食い殺したいらしく、俺を押し倒すと、そのうえに勢いよく伸し掛かってきた。


 ウルフの獰猛な口はまだ俺の左手に噛み付いている。

 もう一度ナイフを抜き取った俺は、今度はウルフのこめかみを右から勢いよく突き刺した。

 再びどちゃり、という肉を壁に叩きつけたような音がした。


 すると、ウルフの口がぱかっと開いた。

そのなかから大量に血が噴き出してきた。

 ウルフはむせ返りながら、三回に分けて大量の血を吐いた。

 そのすべてが真下にいる俺の顔と胸元に落ちてきた。


 

 「殺す、殺す……」

 俺はずっとそう呟いていた。呟きながら、ウルフの顔に向けてナイフを突き刺し続けていた。

 

 ウルフの身体から力が抜け、ぐったりと俺のうえに落ちてきた。

 俺は一気に身体の位置を反転し、代わりにウルフの身体のうえに伸し掛かった。

 そこからウルフの顔の形が刻まれたトマトぐらい形がわからなくなるまでナイフで刺し続けた。

 

 後には自分の荒々しい呼吸だけが残っていた。


 大量の血の海のなかで俺だけがまだ呻いていた。


「殺すんだ、殺すんだ……」


 

 


 現在のステータス


 愛称:ピギー

 種族:人間

 所持品:小型のナイフのみ

 所持金:銀貨六枚





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