王
マトイが戻ってきたのは、翌日の昼頃のことだった。
マトイとアオは、緑に溢れている城周辺の景色に驚いていた。
「こんなに、たくさんの作物が溢れているの……!? 」
とマトイが零す。
「すごいです、私たちが出て行ったときは、完全に荒野でしたのに……! 」
城の高台に案内すると、ふたりはそう零し、終始驚愕していた。
「ピギー、……改めて、ありがとう。ピギーがいなかったら、この国は、こんなにも復興しなかったと思う」
マトイは、厳粛な顔でそう言った。
「よしてよ。俺はやれることをやっただけで、大したことは、していないよ! 」
「これを見て、“大したことない”は、無理がありますわ、ご主人さま」
とアオが吹き出す。
「こんなこと、普通のひとは出来っ子ありませんもの」
「そ、そうかな……」
と言うと、マトイも一面の田園地帯を見ながら頷いていた。
……
会議室に戻った俺たちは、マトイたちの調査報告を聞いた。
マトイたちは、あれから国全体を周り、スポットを調査し、魔物たちの習性を調べ、彼らがどこからやってきているのかを検証したのだという。
魔物たちは一見すると無作為に動いているように見えるが、良く調べると、ある一定の法則を持って活動していることが確認された。
ただ、その“法則”を確定するのに時間がかかり、今日まで帰って来れなかったのだという。
「その法則というのは、なんなの? 」
と聞くと、
「少し説明が難しいのだけど……」
と前置きしたあとで、マトイがこう続けた。
魔物たちは、ある“流れ”に乗ってこの国にやってきているのだという。
その“流れ”は一種の潮の流れに似ていて、魔物のほとんどすべては、北から流れてきているという。
「北というと、どの辺り? 」
「具体的には、ユウリス渓谷の、さらに北」
「……ということは、エディーガーデンの外から、ってこと? 」
マトイが、こくりと頷く。
エディーガーデンの北の国境は、ユウリス渓谷で線を引かれている。
その先は奥深い自然地帯なのだが……。
「でも、本来は、ユウリス渓谷の国境には、魔物が通過出来ないように、大きな壁が建てられている」
「うん、だから、魔物はそこを通っては来られないんだよね? 」
「ところが、その壁が、何者かに壊されていた」
「えっ……誰かって、誰に?? 」
「それはわからない」とマトイは、暗く俯く。「だけど、誰かが国境の壁を壊し、この国に、魔物を引き入れている。……断定は出来ないけど、私は、そう推測する」
……と、そのときだった。
「あらあら、また無能たちが集まって……、会議なんて、無駄よ! 」
いつの間にか会議室の入り口に、マトイの姉、カラミが立っていた。その隣に、家臣のグレンフリードを連れて。
「馬鹿が何人集まろうと無駄よ。……マトイ、またこの国に戻ってきたのね。しばらく姿を見なかったと思ったのに」
「お姉さん、邪魔をしないで。今、会議中だから」
マトイは意に返さず、淡々とそう返答している。
それが悔しいのか、カラミはくっ、と歯ぎしりした。
……実は、マトイがこの国を離れているあいだも、カラミはことあるごとに俺たちに嫌がらせを仕掛けてきていたのだ。
会議をしていれば、こんなふうに罵声を浴びせにやってきて、国民に食料を配ろうとすれば、配下の兵士を利用して、妨害作業を行ったりしていた。
その嫌がらせはあまりにしつこく、悪質だったが、国が復興するに連れて、徐々に減ってきてはいたのだった。
「……姉さん、じゃあ聞くけど、姉さんはこの国の復興に、なにをしたの? 」
しばらく姉の罵声を浴びていたマトイが、突然、そう言い返す。
「姉さんはなにもしていないでしょう。この国を立て直したのは、ここにいるピギー。姉さんじゃない。……姉さんは相変わらず、自分の能力がわかっていなくて、他人の邪魔ばかりしている」
「なんてこと言うの! 」
核心を突かれて頭に来たのか、カラミが大声を上げる。
「だいいち、こんな醜い男を連れてきて、恥ずかしいと思わないの! 見てご覧なさい、この醜さ! ……ああ、見ているだけで、気持ちが悪い! 」
(ああ……)
と俺は思う。
(懐かしいな、この感じ……)
(見た目のことをなじられるのは慣れてはいるけど、……やっぱり、気分は悪いんだよな……)
「……見た目以外に批判出来るところがないのね? 」
冷たくマトイが言う。
「ピギーのやったことや、優秀さを姉さんも本当はよく分かっているから、苦し紛れに、見た目を批判してる。……姉さんは、やっぱり、卑怯者。ピギーのことを本心ではすごいと思っているのに、論点を見た目にすり替えている。醜いと罵倒することで、このひとの全部を否定しようとしてる。それって、すごく、卑怯! 」
「うくっ……! 」
はっきりとそう批判されて、カラミは言葉を失っていた。
マトイが言いたいことを全部言ってくれて、俺はせいせいした気持ちでこのやり取りを見ていた。
さらに、マトイはこう続けた。
「それに、ピギーは、別に、醜くなんてない……」
そして、
「私は、か、カッコ良いと、思ってる……」
と、どもりながら、耳を真っ赤にして、マトイはぼそぼそとそう言っていた。
「失礼します! 」
と、そのとき、ひとりの兵士が入り口のドアをノックして、言った。
「お話のところ申し訳ありません。王女がお呼びです。急用です。……王が、――王の病状がかなり悪化しております。……お急ぎ下さい! 」
会議室にいたみんなはハッとして、すぐに王の眠る特別病室へと駆けていった。
突然のことに驚いたが、思わず、俺もついていく。
「お父様! 」
広い個室に着くと、王が部屋の中心にあるベッドに寝そべっていた。
王に向かって、カラミが覆い被さっていた。
「……王が、おふたりに話があるとのことです」
王の横に立っていた医者が言った。
言うまでもなく、今まさに王の命が尽きかけているのだろう。
それを察して、マトイも、カラミも、絶句している。
「カラミ、マトイ、久しぶりだな。……すまんな、こんな体勢で……」
「いえ、お父様、安静に、して下さい! 」とカラミ。
「お前たちには、苦労を掛けるな……、私が、病気になった、ばっかりに……」
「大丈夫、父さん、あとは私とピギーが、どうにかする」とマトイ。
「……私はもう、ここで終わりのようだ。済まないが、あとのことは、お前たちに、任せるよ……」
そう言うと、王は手を震わせて、その手を二人に伸ばした。
ふと、俺はあることに気がついた。
「あの、王の病状って、なんなのですか……? 」
と、こそっと、医者に耳打ちする。
「ん? 誰だ、君は? ……まあ誰でも良いが……、わからんのだよ。不可解な病気だ。なにか、毒を浴びているような感じがあるのだが……」
「やっぱり……! 」
俺は王の手の震えを見て、同じことを思ったのだ。
あの手の震えは、老いなんかではない。なんらかの毒を浴びたものの震え方だ。
それを、俺もどこかで見たことがあったのだ。
だとすれば――。
「ちょっと、良いですか」
俺は、マトイとカラミを掻き分けて言った。
「な、なんだね……君は……」
と王が驚く。
「じっとしていて下さい。多分、今の俺なら……」
「“修理スキル”――“浄化”! 」
みんなが見守るなか、俺はそうスキルを発動した。
……すると、
「あ、あれ……?? 」
と、急に身体が軽くなったのか、王がその身をベッドから起こした。
「!?? 」
医者がびっくりしている。
「な、治った……??? 」
王は、震えの無くなった自分の手を見て、呆気に取られていた。
そして、カラミが、俺の方を向いて言った。
「あなた、一体、なにをしたの??? 」
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