表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/95

この日、城下町の中央広場には、大量の食材が運び込まれていた。

 国民たちには予め通達しておいたおかげで、すでにかなりの人数の民衆が集まっていた。


 「さあ、さあ、皿を持って並んでくれ! 食料はいくらでもある! 好きなものを選び、好きなだけ食べてくれ! 」

 兵士のひとりが、料理用のおたまを掲げて、そう叫ぶ。


 俺の修理スキルに“浄化”の効果が発動したおかげで、今まで城に溜め込んでいた魔物の死骸が食えるようになったのだ。


 ……あとで聞いたところによると、国民たちが肉を食うのは、実に一年ぶりのことだったらしい。

 それだけに、この催し物は大成功だった。

 民衆はこぞって集まり、満面の笑みを咲かせ、口々にこの日の幸せを笑いあったのだ。


 「ピギー様、ぜひ、おひとつどうぞ! 」

 いつの間にか、屋台で手に入れた牛串のようなものを持って、ムラサミが隣に来ていた。

 「俺は良いよ。みんなに食べてもらおうよ……! 」

 「いえ、ピギー様がひとつ食べたくらいでは、到底なくならないほどの食材が余っております。それに、エディーガーデンの料理と言えば、もともと古今東西にその名が響くほどの、絶品と歌われておりました。本日の料理も、すべて名うての料理人が拵えたものばかりです。ぜひ、これを! 」

 「そ、そう……? 」 

 ムラサミの熱意に押されて、その料理を食べてみた。


 「う、うまっ!! 」

 思わず、驚いてそう叫ぶ。

 

 「そうでございましょう! 」

 とムラサミもにやりとする。


 「ほ、ほんとうに美味いよ。なにこれ……! 」

 「手に入れた肉を丁寧に炭で焼き、この国で採れる特殊な岩塩をまぶしたものでございます。下味はハーブを付けており、古酒で臭みを飛ばしているので、……絶品であります! 」 

 「すごいよ、こんな豊潤な旨味、味わったことない……! 」 

 「……料理人の腕前が素晴らしいのもあるのですが、さっきシェフのひとりに聞いたところによると、ピギー様の運んだ食材が大変素晴らしいものだと話しておりました! 」   

 「ああ、確かに、そうかもね……」


 考えてみると、俺は魔物の死体を修理し、浄化したのだ。

 死体としては“新品”と同様の鮮度に戻るし、傷による劣化も消え失せる。

 そうなると、食材としてはかなり良い部類のものになる。

 とすれば、当然、その肉は美味いに決まっていた。


 「ピギー様、御覧ください。集まった民衆たちは、みな誰もが、涙ぐむほど喜んでおります! 」

 そう言うムラサミ自身が、目に涙を浮かべていた。

 

 確かに、こんなに嬉しいことはなかった。

 いつの間にか、この広場は夏祭りのような騒ぎになっていて、みんな、かつての不幸を忘れてくれているかに見えたのだ。

 

 「ピギー様、食事が終わったら、城の高台に来て下さい。見せたいものがあります! 」

 民衆を眺めている俺に、ムラサミが言った。

 「見せたいもの……? なんだろう」

 「はっ、ピギー様はこのところ、ドワーフの方々と、補給部隊の整備につきっきりであったようでございます! ですから、あの景色もまだ知らないかと思うのです! 」

 「……?? 」

 なんのことかわからずに首を傾げると、

 「……楽しみにしていて下さい」

 とムラサミが微笑んで、丁寧に頭を下げた。



 ……


 

 一度自分の部屋に戻り、食事を取った。

 いつの間にか国の立て直し役をしていたから、俺は食事は質素を心がけていた。

 国の中枢にいる人間が、あまり豪勢な食事を取るべき出ない気がしたのだ。

 まして、国民たちが飢えかけているというのに。

 ……もっとも、シウやムラサミは良いものを食べてくれ、と必死に食事を勧めてはくれたが。


 

 約束してあった通りに、城の高台に向かった。

 すると、そこにはすでにムラサミが来ていた。


 「おお、ピギー様、来られましたか! 」 

 「それで、見せたいものって、なんなの、ムラサミ? 」

 「はっ、これでございます! 」

 そう言うと、ムラサミは右手で高台から見える風景を指し示した。


 

 そこには、一面にエミルの農場が広がっていた。

 高台から見える360度の風景が、見渡す限り、地平線にまで、延々と緑に染まっていたのだ。


 「すごい……いつの間に、こんなに広がっていたんだ……」

 「はっ、すでに、この国のプラント士は100人を越えております! 農場は今も拡大を続けており、エミルの実は採れ続けております! 」

 

 確かに、あれからも“プラント士”の結晶は採れ続けていたのだ。

 俺は別の仕事で忙しかったから、農園管理に関しては、シウとムラサミに委託していたが、

 「ここまで進んでいたなんて……! 」

 

 (やばい……)


 ぐっと、涙が込み上げてくる。


 (泣いちゃう、……やばい……)


 とそう思ったとき、


 「ぐおおおお! 」

 と、突然怒声を上げて、ムラサミが泣き始めた。


 「ここまで緑が回復するなんて、このムラサミ、感動であります! 嬉しい、私は、心底、嬉しい……!! 」

  

 と、俺が見ているのもはばからず、ムラサミは男泣きを始めた。


 

 確かに、泣きたくなるほどの、圧巻の風景だった。

 この国に来たとき、エディーガーデンには緑が全く見当たらず、見渡す限りが荒野に覆われていたのだ。

 ……それが、今や、この高台から見える風景は、完全に緑に染まっている。

 俺は、マトイが以前言っていたことを思い出した。

 エディーガーデンの国は、もともとは緑豊かな国だった、という言葉を……。


 「うおお! ぐおっ、ぐおおお! 」

 

 熊のような声で泣いているムラサミを見て、無理もないのかもしれない、と俺は考えていた。

 多分、もともとこの国に住んでいる彼らにとっては、この緑豊かな風景は、この国の“本来の姿”なのだ。

 そんな“本来の姿”を取り戻したことに、心の底から感動しているのだ。

 

 「ピギー様、現在プラント部隊では、エミルの実以外の作物も続々と植えております! 」

 「そうか、エミルの実以外も植えられる余裕が出来てきたんだね」

 「はっ、それどころか、食糧問題に関しては、事実上、克服したかと思われます! 」

 「そうか、ついに、食糧問題は解決、か……! 」

 「それだけではありません、あちらをご覧ください! 」


 俺はムラサミの指し示す、西の方角を眺めた。

 そこは本来、大量繁殖した魔物によって倒壊した、瓦礫地帯だったのだ。

 

 ……だが、そこに、密集して、約5,60件軒ほどの緊急避難施設が建てられていた。


 「孤立した村から救出した国民たちを、あそこに住まわせております。……そしてこの間も、続々と救出作業は続けられております……! 」

 「そうか……」


 いよいよ、俺はこの国が建て直って来たことを実感した。

 土地は快復し、飢えは克服し、住む為の家屋は増え続けているのだ。


 

 (突然任されたこの立場だったけど……)


 (俺にも少しは、この国の――マトイの故郷の――役に立てたのかな……)



 俺はしばらく、ひとりで、そんな感慨に耽っていた。



 ……




 そしてその夜、久しぶりにマトイと“思考共有”で話をした。


 ――マトイ、久しぶり。そっちはどう? ――

 

 ――うん、調査はかなり進んで、私たちは今、北にあるユウリス渓谷に来てる――


 ――魔物の大量発生の原因は、わかったの? ――


 ――……うん。大体のところは……。それについては、帰ったら話す。それより、そっちはどう? 復興は、進んでる? ――


 ――少しは、進んだかな……。そうそう、今日ちょうど、食糧問題は解決したよ。エディーガーデンの国民は、もう飢えには苦しまないと思う――


 ――ほ、ほんと……!? ――


 耳元に、マトイの喜びの声が響く。


 ――本当だよ。マトイも、きっと驚くよ。今は、この国の土地は緑に染まっている――


 マトイが、驚いて、沈黙するのが伝わってくる。


 それから、


 ――ピギーなら、やれると、信じてた……――


 ぽつりと、マトイが言う。


 ――ピギーは、人の上に立つのが、向いてる。……自分で気づいていないみたいだけど――


 ――そんなことないよ。毎日が、いっぱいっぱいだよ……! ――


 俺は、慌てて否定する。心底、自分にそんな能力はないと感じていたのだ。


 ――ううん。ピギーは、そういうのが、向いてるよ。みんな、ピギーなら、信頼してくれる。ピギーなら、きっとどうにかしてくれるって……――


 ――あ、ありがとう……――


 ほかのひとに言われるとにわかに信じがたいのだが、マトイにそう言われると、俺は心の底から嬉しかった。それに、恐る恐るではあるが、自分への自信にも繋がった。


 ――明日、そっちに戻るよ……――


 マトイが、少し嬉しそうな声で、そう言った。


 ――え、ほんと!? ――


 そして、


 ――うん、早く、会いたいな……――


 とマトイが呟いた。


 ――お、俺もだよ。早く、マトイに会いたい……――


 そう言ってから、自分たちがなにを言っているか、唐突に自覚した。


 思わず、顔が真っ赤になる。


 

 

 ――まるで、十年もピギーに会っていないみたい――


 マトイが、ぽつりと言う。

 

 ――明日、楽しみにしてるね――


 ――うん、俺も、楽しみに待ってる……! ――


 こうして、マトイとの久しぶりの“思考共有”を終えた。


 マトイの声が聞こえなくなっても、俺はしばらく、その声の懐かしさのなかに、浸っていた。


※読んでくれた方へ




少しでも、


「面白い」


「続きが読みたい」


「楽しい」


と感じるものがありましたら、広告下の「☆☆☆☆☆」から評価をお願いします!!


ブクマ、評価があると物凄くモチベーションがあがります!


どうか、どうか、ご協力下さい! m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして評価をお願いします!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ