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募集


 早速、俺は大量に採れた実を沼地に向かった兵士に届けさせた。


 しばらくすると、伝令が戻ってきた。

 「兵士たちはエミルの実によって毒とマヒ耐性が強化され、無事に魔物の討伐が進み始めたそうです! 」

 「そうか。良かった。やっぱり苦労していたんだね」

 「はっ! そのようでございます! 」

 

 (良かった……)

 (11箇所のスポットのうち、沼地だけ全然進んでいなかったから、心配していたけど……)


 (無事に討伐が始まったらしい……)


 「ん? どうしたの? 」

 なかなか伝令が帰らないので、そう聞くと、

 「はっ、沼地に向かうあいだに、実はあるもの見まして……! 」

 と伝令の男が言いにくそうに言う。

 「なにか言いにくいことがあるのかな。気にしないから、言って下さい」

 そう言うと、伝令の男がこう続けた。

 

 「……実は、沼地に向かう途中である村を見つけました。エディーガーデンに古くからある村で、その村は非常に飢饉に苦しんでいました。食料は尽き、辺りは魔物で溢れ、村人たちは今にも死にかかっています! 」 

 「なるほど」

 俺の隣にいたムラサミが呟く。

 「スポットの殲滅も大切ですが、城周辺以外の孤立した町や村の保護も重要かもしれませんな……! 」

 と、すっかり俺の参謀のようになっているシウが呟く。

 「ふーむ、確かに」

 と俺も唸る。

 そんな孤立している村があるなど、良く知らなかったのだ。


 (エディーガーデンの国は城周辺が妙に発達しているから、ここを復興させれば大抵の問題はクリアすると思ったんだが……)


 (どうやら、孤立した村や街がいくつもあるみたいだ……)


 (そっちも、なんとかしないとな……)


 (とは言え、兵士たちはスポットに出かけていて、これ以上人材は見当たらない……)


 「ふーむ、どうするかな……」

 

 


 ……



 しばらく考えたあと、

 「よし、新たに兵士を募集しよう! 」

 と俺は言った。

 「ぼ、募集、ですか!? 」

 「……そもそも、集まるかどうか……」

 と、シウとムラサミはこの考えに消極的だった。

 そもそもこの国は民衆にかなりそっぽを向かれていた。

 城周辺の魔物の討伐は怠り、貴族は私腹を肥やし、食料は今まさに枯渇し掛かっている。

 ……要するに民衆はこの国の政府を信用していないのだ。

 そんな政府に「兵士を募集する」と言われても、誰も志願したりしない、とシウたちは言うのだ。


 「それはわかってる。だから、まずは信用を回復しよう」

 「で、でも、どうやって、ですか……!? 」

 「城下町に住む市民たちが王権に不信感を持っているのは、大きく分けて二つ理由がある。ひとつは魔物を討伐しないこと。……これに関しては現在進行系で状況は改善されていっている。もうひとつは、食糧問題。……俺はこっちの問題が実は大きいと思う。腹が減るのに、食うものはない。そりゃ腹も立つし、なにより死ぬかも知れないんだ。不安でいっぱいだと思う」

 俺はすこし間を置いて言った。

 「というわけで、民衆にエミルの実を無償で配ろうと思う」 

 「む、無償で、ですか!? 」

 びっくりしてムラサミが言う。

 「や、安値でも売ればかなりの収益になると思いますが……! 」

 とシウも零す。

 「それはわかってる。だけど、今は民衆の信頼を回復することを優先しよう。……それに、エミルの実が採れるペースは今も上がり続けてる。“プラント”系の結晶は今後も手に入り続けるし、……恐らく、加速度的に採れる量は増えると思う」

 「た、確かに……! 」とシウ。

 

 「今ある分は、街に出て、すべて無償で配って下さい。それから……」


 と、俺はある秘策をふたりに話した。

 この考えには少し自信があった。

 そして、この考えは、結晶のことを知らなければ、絶対に思い浮かばない考えだった。


 

 ……


 それから、数日掛けて城下町に住む民衆たちにエミルの実を配りまくった。

 そして、実を渡す度に、

 「今後はエミルの実を安定供給しますので! 」

 と兵士に伝えさせた。

 そうすることで、民衆の間に広がっている飢饉への不安を緩和させようと考えたのだ。


 後日、城下町にある広場で「兵士募集」の声掛けを行うと、かなりの人数の若者が集まってくれた。

 恐らくは、多少は政府への信用を持ち直してくれたのだ。


 そして、俺が伝えておいた通り、兵士のひとりが民衆に向かって、あることを話した。


 つまり、


 「若者たち! この国の兵士を新たに募集する! 」

 「給与は支払われる! 望むものは生涯に渡って兵役を続行して貰って構わない! 」


 「そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()! 」

 

 と伝えて貰ったのだ。


 “固有職については問わない”。


 この考えは、結晶の存在を知らない者には絶対に浮かばない考えだった。

 なぜなら、この世界のすべての国において、固有職が「戦闘職」である者しか、兵役に付けないからだ。

 ……当然のことだろう。

 固有職が“修理士”だとか“鍛冶職”だとかいう者を兵士で雇ったところで、彼らは一向に強くなることはないし、戦闘の役にも立たないのだ。

 国もそんな彼らを兵士として雇うはずがない。


 

 だが、結晶があれば話は変わってくる。

 彼らの固有職がなんであろうと関係がない。

 そんなことはなにも問題にせず、結晶によって戦闘可能な戦力として彼らを育成可能なのだ。

 


 ……()()()()()()()()()()()



 このことを兵士が伝えると、広場にはざわめきが起こった。


 「あ、あの、私の職業は“洗濯士”なのですが、雇ってもらえるのでしょうかね……」

 「構わない! 」

 「あのー、私は“花屋”なのですが……」

 「構わない! 」

 「ぼ、ぼくは“ドッグブリーダー”なのですが……」

 「構わん! ……繰り返すが、どのような職業、どのような非戦闘職であろうと、一切拒否はしない! 望む者は全員雇うつもりだ! 給与も支払われる! 」


 そして兵士は大きく息を吸い込むとこう叫んだ。

 

 「若者たちよ! ここまで国を荒廃させてしまってすまない! その責任はすべて我々政府にある!

 だが、若者たちよ! この国は今まさに立ち直ろうとしている! マトイ様を筆頭に、有能な方々が集まって、次々と国を改革している! 若者たちよ! ……その復興に力を貸してくれるという者がいるのなら、ぜひ兵役に志願して欲しい! この国を、一緒に立て直そう! 」


 ……これは俺の書いた台本にはなかったが、この兵士の真実の想いだった。

 そして、そういった真実の想いは、結構ひとの胸に強く響くのだ。


 広場では、ささやかではあるが、軽い熱狂の声があがっていた。

 若者たちは控えめにではあるが、腕を上げ、次々と志願を申し出てくれたのだ。


 そして、その低い興奮は、やがて大きなどよめきとなって広場全体に伝播していった。


 「……この声こそ、まさにこの国の宝でありますな」

 どこか感動した声で、シウが零した。

 「全くです。今まさに、この声は復興の産声を上げたのかもしれません」とムラサミ。


 俺も似たようなことを思っていた。

 若者たちはいつでもエネルギーを持て余しているのだ。

 それをぶつける場所が上手く見つけられないだけで。


 こうして“方向”さえ示してあげれば、彼らは案外、積極的に協力してくれる。


 「で、ですが、少し心配はありますな……! 」

 とムラサミ。

 「む、なんのことだろうか」とシウ。

 「給与のことです。新たに兵士に成るものに、無事に給与が払えるでしょうか! なにしろ、国の財源は枯渇しかかっている……! 」

 「それについては大丈夫」 

 と俺は言った。

 「な、なぜ、そう言えるのです……!? 」

 「ちょうど昨日、ゾフさんから“思考共有”が飛んできて、俺が渡した魔物の素材の金額がわかったんだ」

 「な、なんと! それで、あれほどの膨大な素材、いくらで売れたのです……!? 」

 とシウが前のめりになって言った。



 「約、金貨9700枚だ」



 「き、金貨、9700枚……!?? 」

 

 「うん。なかなかの金額だよね」

 「なかなかどころか、莫大な金額ですが……! 」

 「うん、まあ、そうだね」

 「つ、次々とアイディアを出し、それを実行し、そして……」

 と俺の隣にいたムラサミが零す。

 「お金まで自分で稼いでくる……! ピギー様、あなたは有能過ぎる……! 」

 「あ、ありがとう」

 その熱意に押されて、若干戸惑いながら、そう答える。

 

 俺はふたりを見渡して言った。

 「本気で、この国を立て直そう……! 」


 ふたりは俺に向かって、大きく頷いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 花屋もドッグブリーダーもスキル強化したら案外化けるかも特に後者 ウルフ系のテイマーとか
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