流通
実は、数日前にフリューゲルさんに連絡を取り、ゾフさんに伝言をお願いして貰っていた。
膨大な数の素材が溜まっているから、それを買い取りに来て欲しい、と伝えていたのだ。
その数日後に、数人の護衛を引き連れてゾフさんが城にやってきた。
「ゾフさん、わざわざすいません! こんな遠くに」
「ピギー君の頼みだ。断れないよ。それに、なにか儲けの匂いがするからね」
そう言うとゾフさんはにやりと微笑んだ。
「それで、用件はなんだね? 」
「実は、素材を買い取って欲しいんです」
「ほお。今度はどれくらい? 前回もかなりの数だったが……」
「それが……」
と言って俺は素材を収納している倉庫に案内した。
「ちょっと待ってくれ……、これがすべて、魔物の素材か……!? 」
そこには約1万6千近い魔物の素材が積み重なっていたのだ。
素材の内訳は、紅の吸血鬼の牙が約8000本、尻尾が約4000本、翼が約8000本あった。それから、爛れ馬の尻尾、胃袋、肝が約2600本、不気味花の花びら、雄しべが10000枚、雌しべが2000本、人食い岩の肝が1500個、悩み木の肝、実が1500個、人面こおろぎの触覚が3200本、肝が1600個、掃き溜めゴブリンの肝、尻尾が2600個、大蜘蛛の触覚が5600本、脚が16800本、肝が2800個あった。
「ど、どうやったらこんなに集められるんだ……!? 」
と、さすがのゾフさんも驚愕して立ち尽くしていた。
「国の兵力をすべて使って魔物を討伐しているので……」
と言うと、突然、
「わはははは! 」
とゾフさんが笑い始めた。
(こ、壊れた……!? )
と、一瞬思うが、
「……さすがピギー君! 」
と言ってゾフさんが嬉しそうに俺の肩を叩いた。
「君はまったく常識外れの人間だよ! 君みたいな規格外の冒険者には会ったことがない! ……良いでしょう。これはすべて私が買い取る! 」
「ほ、本当ですか! 」
数が膨大なだけに、買い取って貰えるか若干不安視していた俺は喜んで言った。
「もちろんだとも! 」
そして執事に向かって言った。
「……良いか、今すぐ本国に連絡を取って専用の運び士を派遣させろ。人数は多ければ多いほど良い。ほかのすべての事業を停止させてこの国に連れてくるんだ。ムルナグルに来ている部下たちもみんなこっちに寄越せ」
てきぱきとそう指示を出し、ゾフさんの部下たちは早くも素材を城の外に運び始めていた。
「ゾフさん」
ついに俺はあのことを伝えた。
「ん、なんだね、ピギー君」
「実は、結晶についてなんですが……」
以前ゾフさんに聞かれたことのある結晶について、とうとう打ち明けようと思ったのだ。
……だが、
「なんだね。ついに話す気になったのかね? 」
と、いかにも愉しそうにゾフさんが笑った。
「え、知って、いたのですか……? 」
「いや、知ってはいない。……勘だよ」
「勘、ですか……?? 」
「そう、勘だ。……君ならもしかしたらあの伝説の“結晶”に辿り着いているかもしれないと思っていた。とっくに手に入れていても不思議はないとも思っていたんだ。なあに、気にせんで良いよ。結晶については世界でも殆ど確認されていない希少なアイテムなんだ。容易にひとに打ち明けられないのも当然だ」
そう言って頷くと、
「それで? どのくらい手に入れたんだね? 」
「実は……」
と俺は打ち明けた。
「ここにある素材と同じくらい手に入れているんです……」
すると、ゾフさんがぴたりと止まった。
そして、澄んだ静寂が辺りに満ちた。
「ひとつやふたつでは、ないのかね……!? 」
「えっと、1万個は、優に超える数があります……」
再びの静寂。
ゾフさんはなにか複雑な数式を解いているみたいにぼおっと上を見つめていた。
「1万個を、優に、超える……?? 」
「は、はい。多分、今後、もっともっと手に入ります……」
「……革命だ! 」
と、声を震わせながらゾフさんが叫んだ。
「へ? 」
「そんな量の結晶が採れたら、冒険者の世界に革命が起こる! いや、ビジネスの世界でもだ! ……すごい、すごいぞ……!! 」
とゾフさんは興奮してひとりで捲し立てていた。
「ど、どういうことですか?? 」
「いいか。結晶というのは、この世界で唯一、冒険者のステータスを上昇出来るアイテムなんだ。……それが山程採れ、武器屋や道具屋に流通してみろ。冒険者はこぞってそれを買うことになる。……結晶を買うことが常識となり、それをやらないやつは冒険者のスタート地点にも立てなくなるんだ」
「た、確かに……」
「しかも」とゾフさんが興奮して言う。「そんな結晶を手に入れられる能力を持っているのが、ピギー君、君だけなんだ……! 」
……確かにその通りだった。
このときの俺はいまいち良くわかっていなかったが、“結晶”がもし市場に流通したら、それを安定して供給出来る人物は大富豪に成れる。
なぜなら、結晶を欲しがらない冒険者などいないからだ。結晶を売るなどということは俺は殆ど考えたこともなかったが、それは恐らくとんでもない影響をこの世界に及ぼすのだ。
そもそも結晶とは、RPGで言うところの「経験値」似ている。それを具体化したアイテムだと言っても良い。
なのに、この世界ではそれがほぼ全く手に入らないのだ。
……だが、ゾフさんと組んで結晶を市場に流通させれば、冒険者たちは稼いだ金で結晶を買う生活をするようになる。
つまり、経験値を金で買うのだ。
それは殆ど、この世界の冒険者にとって最も基本的な行動となるはずだ。
そしてそんな「基本的な部分」を、俺とゾフさんが握ることになるのだ。
そんな人物が、大金持ちになれないはずがなかった。
……だが、このことにはいろんな難点もある。
なんでもかんでも売るわけにいかないし、始めはできるだけ仲間たちにだけ結晶の恩恵を与えたい。
結晶を流通させる仕組みもいろいろと考える必要がある。
実現にはまだ時間が掛かりそうなのだ。
……それでも、「結晶を売る」という行為が、この世界の冒険者たちにとって著しい革命になるのは目に見えていた。
「……それについてはピギー君、いずれゆっくり話そう。今回の素材の買取額についても、また後で連絡する。いかんせん、金額が莫大になりそうだからね」
そしてこう続けた。
「やはり、君に目を付けたのは正しかった。……どうやら私たちは、この世界で類を見ないほどの大金持ちになる幕開けに立っているようだ」
そう頷くと、
「さあ、さっさと運べ! 素材を腐らせるな! ムルナグルの国に戻るぞ! 」
執事たちにそう叫ぶと、ゾフさんは俺に手を振り、嵐のように去っていった。
(結晶を、市場に流通させる、か……)
(そんなこと、考えたこともなかったな……)
俺は徐々に、本気で冒険者達の暮らしを根本から改革する考えを持ち始めていた。
(う~ん、例えば、冒険者たちに魔物の死体を持って帰ってもらって……)
(それを俺が結晶化する……)
(それが当たり前となれば、今後も結晶を手に入れるのには困らない……)
(だけど、それにはギルドを完全に掌握出来ていた方が良いか……)
と、ゾフさんが去ったあと、ひとりでいろんなことを考えていた。
そしてこのとき、俺たちが去ったムルナグルの国では、魔物の大量繁殖とは別の大問題が起こっていた。
それは、大手ギルドが完全に崩壊を迎えていたのだ――。
あのあと、結晶の話が巷に漏れ、誰も大手ギルドに所属するメリットを感じなくなっていたのだ。
フリューゲルさんのギルドに属せば、装備の修理と結晶の恩恵に預かれる。
その噂は大手ギルドを完全に崩壊させ、ほぼすべての冒険者が、フリューゲルさんのギルドに登録を移していた。
フリューゲルさんが予言したように、冒険者の世界は文字通り崩壊していたのだ。
そして、フリューゲルさんのもとで再構築を、今まさに始めていた。
……このときの俺は、まさか自分がムルナグルとエディーガーデンの冒険者をすべて自分が管轄することになるとは、夢にも思っていないのだった。
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