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女神


 頼んでいた通り、城のある一室に大量の容器が置いてある。

 

 「それじゃあ、早速ポーションを作成します」


 俺は大量の容器に向かって手を翳した。


 ……すると、まるで手品のように容器にポーションが満ちていく。

 大体700個くらいあった容器はすべて均等に同じ量のポーションが溜まっていた。


 「……スポットに向かう兵士たちにこれをもたせて下さい。それから、使用して空になった容器は再びここに置くよう伝えて下さい。定期的に僕がここに来てポーションを補充しておくので」

 「は、はい……」

 と近くにいた兵士が呆然としてそう呟く。

 「それから、700個では多分全然足りないでしょう。出来れば、もっと容器をかき集めて下さい。あればあるほど良い。出来ますか? 」

 「すぐにでも集めておきます! 」

 とシウが機敏に答える。

 さすがにシウは優秀で、早くもこの状況に適応し始めてくれている。


 

 その後、ムラサミと合流して城の一番高いテラスから中庭を見下ろした。

 エフィーさんやイップさんが兵士たちを100人ずつ連れて、城を出ていく姿が見えた。

 俺の指示した通りに、ギルドの仲間たちがスポットへと殲滅に出かけてくれたのだ。


 「上手く行くと良いですね」とムラサミ。

 「そうだな……」

 と、若干まだ慣れないながら、タメ口でそう返す。

 「あとは食料問題が解決すれば……! 」

 とシウが零す。


 (そうだった……)

 と俺は思う。

 (この国は土地が荒れ果てていて、作物が手に入らないんだった……)


 (そのへんのことも解決しないと……)


 「この国の農地を案内して貰えますか? 」


 そう言うと、シウが真剣な表情で頷いた。


 

 ……



 エディーガーデンの農地は城の周囲、半径50kmほどに広がっている。

 ただし、その農地はほぼすべてが魔物に食い荒らされ、荒野化していた。

 

 「さすがに、ひどいですね……」

 「ええ、まったく」とシウ。

 「……もとが農地だったとは思えないほどの荒れ具合です」とムラサミ。

 見渡す限り、草一本も生えない荒れ地が広がっているのだ。


 「う~ん……」

 と言いながら俺は地面に屈み込んだ。

 「ちょっと、試してみるか……。シウさん、頼んでいた苗をひとつ貰えますか」

 「ええ。これをどうぞ。エディーガーデンだけに育つという、エミルという作物の苗です。……ですが、なにをなさるので? 」

 「うん、これをちょっと、植えてみます」

 

 俺は“プラント”のスキルを使うのは初めてのことだった。

 だから、このスキルがどんな効果があるのか、どう使うのかも、分かっていない。


 「ですが、この荒れ地では、恐らく作物は育たないかと……」

 とシウが困惑してそう言う。

 「シウ殿。様々な奇跡を起こしてきたピギー様ですぞ。このことに関しても、きっとなにか勝算があるに違いない……! 」

 「ふむ、確かに……! 」 

 と、ふたりはなにかこそこそと話している。

 そのことで、若干俺はプレッシャーを感じていた。





 (とりあえず、“修理”スキルを当てるみたいに、地面に手を当ててみるか……)


 「“プラント”」

 

 そう呟き、地面に手を当てた。

 

 ……すると、


 「……あれ? この辺り一帯が、耕されたみたいに、成っていません……? 」

 「ほ、ほんとうですね……! 」

 とムラサミも驚いている。

 「た、確かに……」

 

 (なるほど……)

 (プラントスキルを使うと、地面が耕された状態になるのか……)


 「……シウさん、持っていた苗をこの辺りの地面に置いて貰えますか」

 ふと思いついてそう言うと、

 「え、ええ……」

 とシウさんも若干戸惑いながら、持っていた苗を地面に置き始めた。


 (俺が思うに……)

 (多分、“植える”という作業もこのスキルで簡略化出来るはず……)


 「よし、じゃあ……」



 「“プラント”」



 ……すると、適当に置いた苗たちが、一斉に地面に等間隔で埋まった。

 あたかも、一本一本を、丁寧に、耕した畑に植えたみたいに。

 一度目は地面が耕された状態になり、二度目は苗が植わった状態になった。

 この二回のスキルの使用で、大体7,80本の苗の植えることに成功した。


 「二度と草も生えないと思ったのに……! 」

 とシウが苗にかがみ込みながら呻いている。

 「な、なにか、すでに生き生きとしていますね……! 」

 とムラサミも驚いている。

 「どうやら、上手く育ってはくれそうですね……」

 と、ちゃんと太陽に向かって伸びている苗たちを見ながら、そう呟く。


 (さすがプラント職だけあって、こんな荒野でも効果があるらしい……)


 (国全体の食糧問題を解決するにはまだまだ掛かりそうだが、なんとか兆しは見つかったな……)


 「じゃあ、僕はこの一帯を農地に戻すまで延々と作業します。シウさんとムラサミは、一旦城に戻って苗をかき集めて来て下さい。ここにある分だけでは、全然足りないので」


 「はっ! 」

 と言うと、ムラサミは礼儀正しく敬礼し、シウとともに城に去っていった。



 

 ……


 それから一週間、俺はひたすら苗を植える作業に専念していた。

 さすがに、プラントスキルを使っているとは言え、かなりの疲労だった。

 

 (この広大な土地をたったひとりで耕しているんだから、そりゃそうだよな……)

 

 毎日、城に戻ってくると、疲労のあまりすぐに眠ってしまっていた。


 「ピギー様、失礼します」

 そのとき、ムラサミが俺の眠る部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 「ん、どうした? 」

 「スポットに殲滅に出かけていたパーティーが、一組戻ってきました」

 「ああ、そろそろそんなころか。誰だろう……?」 


 部屋の外に見に行くと、戻ってきたのはエフィーさんたちだった。

 

 エフィーさんは、俺を見つけるとにっこりと微笑んだ。

 「……ピギーさん、お久しぶりです」

 心底、嬉しそうにしてくれる。

 その笑みに、俺の疲労感が一気に楽になる。

 「こ、こちらこそ」

 「……ピギーさん、少し、お疲れではないですか? 」

 「エフィーさんこそ、殲滅で、疲れたのではないですか」

 「……まあ」

 とエフィーさんがくすくすと笑う。

 「そんなにも忙しく働いてくれているのに、まだわたくしたちのことを心配してくれるのですか? 」

 「いえ、僕なんて、全然……」

 と、妙に照れながらそう答える。

 「……殲滅に関してですが、今のところ上手く行っています。魔物はA級に相当する手強い相手ばかりでしたが、ピギーさんに頂いた結晶が効果を発揮したのでしょう。私たちも、兵士の大半の者も、なんとか戦えていました。大体1000匹ほど討伐したので、装備もやや劣化して来ましたし、魔物の死体も溜まって来たので、一度戻ることにしたのです」

 「そうですか。じゃあ、装備品を直しに行かなくちゃ……」


 そう動こうとすると、疲れのあまり、身体がふらりと傾いた。

 

 「だ、大丈夫ですか……! 」

 と、エフィーさんが支えてくれる。

 「大丈夫です。少し疲れているだけなので」

 と、恥ずかしさも忘れて、エフィーさんにもたれ掛かる。

 「少しは、お休みになって下さい」

 「でも、僕がやらないと、ほかにやるひとがいないから」

 「ダメです。休まないと、ピギーさん、死んでしまいます……! 」 

 と、かなり真剣に懇願された。

 「じゃあ、せめて、結晶化だけして、今日は休みます」

 そう言うと、

 「わたくしも、同行いたします! ……なにも出来ませんが……」

 と、必死に身体を支えてくれた。

 

 その献身的な姿に、なんだか妙に力が湧いた。

 

 「大丈夫です。まだやれます。行きましょう! 」

 と急にしゃきっとしてそう言うと、

 「え、えぇ……」

 とエフィーさんは困惑して頷いていた。



 ……


  

 魔物の死体を収容している施設に向かいながら、

 

 (ひとに応援してもらったり、支えて貰えるって、力が湧くんだな……)

 と俺は考えていた。

 (転生する前は基本的に孤独だったから、誰にも応援なんてしてもらったことないし……)

 (ましてや、支えて貰ったこともない……)

 

 (しかも、こんな美女に……)


 俺はちらっと、横を歩くエフィーさんを見た。


 ……すると、俺の視線に気づいて、エフィーさんがにこっと微笑み返してくる。


 (やっぱり……)


 (力が湧くな……)


 (このひとはこの戦の女神かも知れない……。なにか、すごくこのひとのために頑張ろうという気にさせられる……)


 そして、こういうときは本当に幸運が向いてくるのだ。


 兵士数名にお願いして、俺は魔物の死体から臓物を掻き出して貰っていた。

 結局は俺が修理スキルを掛けるから、丁寧で無くても良い。

 とにかく魔物の腹から臓物と、心臓が出ていれば良い。

 その状態になっていた約1000匹分の心臓、内臓に向けて一斉に、


 

 「“修理”」


 を掛けると、そこにあった心臓が一斉に結晶化した。



 「すごい……! 」

 と横にいたエフィーさんがそう呟く。


 そして、それらの結晶を鑑定に掛けると、



 《ボーナス》 “プラント”範囲拡張(大) ×6

 《ボーナス》 “プラント”範囲拡張(中) ×23

《ボーナス》 “プラント”範囲拡張(小) ×41

 《ボーナス》 “プラント”使用時作物に成長速度促進を付与(大) ×4

 《ボーナス》 “プラント”使用時作物に成長速度促進を付与(中) ×17

 《ボーナス》 “プラント”使用時作物に成長速度促進を付与(小) ×27



 と、俺が欲しかった結晶がかなりの数出てきたのだ。


 「やった……! 」

 と思わず叫ぶ。

 「欲しかった結晶だ……! 」

 

 それから、エフィーさんの手を握って、俺はついこう言っていた。


 「エフィーさん、あなたのおかげです。これで、一気に楽になりそうだ……! 」

 「エフィーさん、あなたといると、力が湧いてくる。それに、幸運も向いてくる。やっぱりあなたは、僕の女神です」


 そこまで言ってから、俺は自分のしていることに、ふっと我に帰った。

 そして、咄嗟に手を引っ込めた。


 「す、すいません! 」

 「い、いえ……! 」


 俺は恐る恐る視線を上げた。

 もしかしたらキモがられたのではないかと思ったのだ。

 だが、そこには、俺よりも遥かに顔を真っ赤にして停止している、エフィーさんの姿があるのだった。


 「わ、わたくしも、ピギーさんにそう言われて、すごく、すっごく嬉しいです……! 」


 こうして俺たちは、ふたりでしばらく照れ合っていた。


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