家臣
膨れ蛙の討伐を終え、城に戻ったときのことだ。
「おやおや、無能な奴らがお揃いで」
と、漆黒の鎧を身にまとったある騎士が声を掛けてきた。
「……マトイ、また嫌なやつが出てきたけど」
「……グレンフリード。私も良く知らないけど、カラミの側近」
こそこそっと、そんな話をする。
「グレンフリード殿、失礼は辞めて頂きたい。この御方たちはこの国を救ってくれる英雄ですぞ」
「英雄? 英雄は私だけで十分です。あなたたちの力を借りずとも、魔物の討伐は出来る」
(おいおい……)
と俺は思う。
(ずいぶん傲慢なやつだな。確かに強そうではあるが……)
「それに、模擬戦でこてんぱんに私にやられたのをお忘れですかな? 」
とグレンフリードがにたりと笑って言った。
……あとで聞いた話だが、グレンフリードとムラサミはこの国で行われる模擬戦で決勝戦を戦い、……軍配はグレンフリードに上がったらしい。
なんでも、そのときの取り決めで、ムラサミは騎士団長に降格、一方のグレンフリードはカラミの側近へと格上げになったらしい。
「あなたの固有職は所詮“ゴールド・ナイト”。“剣豪”職持ちの私には天地がひっくり返っても勝てない」
勝ち誇った顔でグレンフリードが言う。
(嫌なやつだな……)
(こういう傲慢なやつってどこにでもいるもんなんだな……)
ムラサミは悔しそうに項垂れている。
俺はこそっと近づいて、ムラサミに耳打ちした。
「ムラサミさん。……もう一度、戦ったらどうです? 」
「ピギー様、……ですが、あの男は“剣豪職”を持っている……。私では、歯が立ちません」
「……それは、結晶を喰う前の話でしょう? 」
ムラサミがハッとした顔をする。
「たし、かに……」と呟く。
「勝てますよ。今のムラサミさんなら」
と、――若干悪い顔になりながら――俺はそう煽った。
「……グレンフリード殿、さっきからの狼藉、聞き捨てなりませぬな」
「なんだと? 」
「この御方たちは私の恩人。いや、この国の恩人となる御方たちです。先程の侮辱、取り消してもらおう」
「……ほう、どうやら、痛い目に合わないとわからないらしい」
グレンフリードが剣を抜く。
「それはこっちのセリフだ」
ムラサミも剣を抜いた。
……そして、勝負は一瞬でついた。
グレンフリードが抜き身でムラサミに一閃を放った瞬間、ムラサミがそれを交わし、グレンフリードの腕を切り払ったのだ。
これは模擬戦ではない。
互いに真剣を振り合う殺し合いに近いものだった。
つまり、グレンフリードの腕はムラサミの剣に切り取られ、生々しく宙に舞った。
「……ッッ!?? 」
なにが起こったかわからないのか、グレンフリードが驚愕している。
その腕からはすでに膨大な血が噴出している。
「馬鹿な?? 固有職で上回る私が、格下の相手に、負ける、……だと? 」
「世界は変わったのですよ」
とムラサミが決める。
「固有職に縛られている時代は終わった。私はたった今、そう確信した。……新しい時代の中心は、今お前が侮辱した、この方たちとともにある。……お前では、二度と私には勝てん」
「下らない……この世界は、固有職が、すべてだ……」
大量の出血によって意識を失ったのか、そう言いながらグレンフリードは前向きに倒れた。
地面に伏したあとも、ぴくぴくと痙攣している。
「……勝てました」
と感慨深そうにムラサミが言う。
「前代、未聞ですな」とシウ。
「ええ、まったく。ほんとうに。……固有職で下級の者が上級に勝てるなんて……」
そのことがよほど衝撃だったのか、ふたりはしばらく呆然と黙っている。
確かに異常なことかもしれない、と俺は考えていた。
固有職で冒険者としてのランクがすべて決まるとみんなが信じている世界で、俺だけがそれとは別のことをしているのだ。
ムラサミの言う通り、――そしていつかにフリューゲルさんが言ったように、俺の見つけた結晶によって世界は根本から変わり始めているのかもしれない。
そしてきっと、次の時代では、この変化に気づいたものだけが勝者になる。
ムラサミはそのことに気づき、グレンフリードはそうではなかった。
ふたりの勝敗を分けたのも、突き詰めればその読みの差にあったのだ。
(まあ……)
(一応、腕を直しておいてあげよう……)
俺は気絶しているあいだに、グレンフリードの腕を”修理”してやった。
そのとき、
ザッ、
と、突然、ムラサミが俺に膝をついて言った。
「……ピギー様。改めて申します。この私、ムラサミは、あなた様に忠誠を誓います。どうか、家臣へと取り立てて下さい」
「家臣って、僕、貴族ですらないですよ」
さすがに慌ててそう言う。
「……構いません。私は心からあなたに感服してしまった。あなた以上の主君は見つけられそうもない。どうか、どうか……」
なにか、異様なほどの忠誠心を感じる。
(ムラサミさん、真面目なひとだと思っていたけど……)
(重過ぎるくらい、信義に篤いな……)
「ど、どうしよう……」
とマトイに言うと。
「……簡単」
とマトイが言った。
「よかろう、と言えば良いだけ」
「ちょ、……えええ?? 」
みんなが俺を見ている。
その視線と緊張に耐えられず、
「よ、よかろう……」
と答えると、
「ははあ――っ! 」
と、威勢よくムラサミが俺に向かって頭を下げた。
(家臣って……)
(どう扱えば良いんだろう……)
困り果ててそう考えていると、
「ピギー様、お荷物をお持ちいたします」
と、早速ムラサミが甲斐甲斐しく俺の荷物をもってくれようとしていた。
「う、うむ……」
と、俺も良くわからない返事をしながら、なぜか突然出来た家臣に、自分の荷物を預けるのだった。
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