蛙
その巨大な生き物は沼の近くに棲息していた。
夜が明けると、俺たちは早速近づいていって辺りを調べた。
「とりあえず、俺の潜入スキルを使って見てくる」
このスキルを使うと、自分の気配が極限まで薄くなる。
魔物に近づいていってもまず気づかれることがない。
この森のなかでの討伐でも、かなり役立っているスキルだった。
(う~ん、強いかどうかはわからないが、とにかく大きいな……)
蛙の足元まで来た俺は、この巨大な魔物を見上げながらそんなことを考えていた。
……
いったんシウたちのもとに戻って魔物の様子について報告すると、
「それは、膨れ蛙でしょう」
とシウが言った。
「膨れ蛙? 」
「ええ。この辺りには棲息しないはずですが……。確か、攻撃されると毒霧を発生させるのと、確かもうひとつ、特殊な能力があったような……」
「あんまり詳しくは知らないって感じですか」
「ああ、まあ、……そうだ、すまん」
「いえ、謝らないで下さい」
みんなで話し合い、マトイと俺、それからアオの三人で攻撃することになった。
シウやムラサミも戦力として期待できるほど強くなってはいたが、問題は毒霧だった。
毒霧の耐性があるのが俺しかいないのだ。
しかも俺は毒耐性に関してはカンストしているから、恐らくは無効化できるだろう。
「じゃあ、行こうか」
そう言ってマトイたちと頷くと、俺たちは膨れ蛙に近づいていった。
……
「それじゃあ、まずは私から」
そう言うとアオが手から大量の青蛇を発生。
一気に現れた青蛇の群れが膨れ蛙に襲いかかっていく。
突然足元に現れた青蛇の大群に膨れ蛙は驚愕し、慌てふためいている。
……だが、
「あんまり、効いていないな」
アオの放った青蛇は膨れ蛙の皮膚の表面に齧りつきはするものの、さほどダメージを与えてはいなかったのだ。
「ご主人さま」
アオが言う。
「私では力不足みたいです。……すいません」
アオがシュンとなって言う。
「全然良いよ。気にしないで」
と俺はフォローする。こんなことくらいで傷ついて欲しくもないし。
「じゃあ、次は私が……」
とマトイが魔術を込めて手を掲げる。
「上級怨式――無数の火」
すると、空から大量の火の雨が降ってきた。
膨れ蛙はもろにその火を浴び、熱そうにのたうちまわっている。
「いいぞ、効いてる! 」
「さすがお姉さまです」
……ところが、
「……ダメ。……快復された」
とマトイが呟く。
見ると、膨れ蛙はうずくまり、みるみるうちに身体を快復させたのだ。
「そうか。思い出した。膨れ蛙には強力な自己治癒能力があったんだ……」
とシウが零す。
(自己治癒能力か……)
(厄介だな……)
「結構大変かも。今の私じゃ、上級怨式級の魔術の連発は難しいし……」
とマトイも腕を組んで考え込んでいる。
「じゃあ、俺が行ってみるか。マトイ、サポートしてくれ」
そう言うと、マトイも力強く頷いた。
……
まずは「潜入」スキルによって膨れ蛙の足元に近づく。
(とりあえず思いっきり斧を振ってみるか……)
試しに、膨れ蛙の足にめがけて勢い良く斧を振ってみた。
……すると、激しく肉が抉れ、なかから濃い紫色をした血が溢れてきた。
(よしよし、攻撃は通るな……)
(問題は、自己治癒能力か……)
と、そのとき、
「ピギー様、危険です! 」
とムラサミが叫ぶ。膨れ蛙が、身体を縮めて毒霧を噴射したのだ。
プシュゥウ、という音とともに、周囲に濃い霧が発生した。
「ピギー様! 」
なにも見えないが、霧の向こうでそう俺を心配する声が聞こえる。
「大丈夫みたい! なにも効果は感じないよ」
と俺は答える。
霧のせいで視界は悪いが、特別身体にダメージはなかったのだ。
それに、視界に関しても「生体反応感知」があるから、大雑把にではあるが、膨れ蛙の位置も見失わずに済んだ。
「マトイ! 」
と俺は声を挙げる。
「なにか拘束系の魔術を撃ってくれ! 」
「……了解」
「上級怨式――足止めの輪」
光の輪が飛んできて、膨れ蛙を拘束するのがわかった。
(少し……)
(全力で攻撃してみるか……)
マトイの魔術が効いているうちに、俺は振れる限りの最高の素早さで斧を振りまくった。
俺は今や敏捷性がカンストしている。
RPGで言うなら、俺だけが周囲より遥かに素早い状況だ。
つまりそれは、俺だけが、1ターンの間に「複数回攻撃出来る」という状況だ。
……しかも、相手よりも遥かに多い回数で。
みるみるうちに膨れ蛙の足がミンチとなっていった。
俺は凄まじい速さで古の戦斧を振り下ろし続けている。
一本目の足を肉片に変えたあと、俺は二本目の足に取り掛かった。
そのあいだも膨れ蛙はまだマトイの魔術によって拘束されている。
二本目の足、三本目の足……そして、4本目の足をミンチに変えきったところで、
「動き始めた! 自己治癒するぞ! 」
とムラサミが叫ぶ。
「大丈夫」
と俺は呟いた。
「……間に合いそうだ」
膨れ蛙の拘束が解けた瞬間、俺は高く飛び上がった。
敏捷性が上がったことによって脚力も上がったのか、かなり高いところまで飛ぶ。
そして、落下しながら、膨れ蛙の頭部めがけて斧を振り下ろした。
膨れ蛙の動きが、静止する。
頭部から血が溢れ、中の臓器が見えている。
念の為、俺は残った身体をすべて斧で切り潰した。
「素晴らしい戦闘能力です。出会った頃よりも、遥かに強くなられている」
膨れ蛙を倒し終えると、ムラサミが近づいてきた。
「僕も、驚いています……。結晶の力でどんどん強くなってる」
「ご主人さま、素敵です。惚れ直しました」
とアオが言う。こういうのは、相変わらず反応に困る。
「……異常発生した魔物の群れはこれでボスを失うことになる。多少は残っていても、徐々にこの地から離れていくでしょう」
と俺は言った。
「強力なパーティーが一組来るだけで、こんなにもあっさり魔物の群れが片付くのか」
なにか放心した様子でムラサミが呟く。
「まだ終わりじゃありません。残りの巣も殲滅して行きましょう」
「その通りだ。……それじゃあ、城に戻るとしよう」
最後にシウがそう言って場を締めた。
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