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見捨て

 




 翌日も街を出て落ちている武器を探さなくてはならない。

 まずは街を出て、街道に沿って歩いていく。

 冒険者は街道を離れたところでクエストをこなすことが多い。

 薬草を収集したり、ゴブリンを狩ったりするのだ。

 そういったクエストはFランクの低級クエストに過ぎないが、それでも命を落とすものは後を断たない。

 冒険とは過酷なもので、だからこそ、俺たちみたいに異世界から召喚されるものがいるのだ。

 

 街道を西に向かって数キロ歩いたところで、前と同じように森に入る。

 前回木の幹に付けた印を辿って森を進んでいく。

 前回も感じたことだが、森に入ると空気が変わる。

 この辺りだけ空気が張り詰めているというか、「人間の文明が届いていない」という緊張感が漂う。

 緊張で手が震える。

 前回は運良く死体を見つけられたが、今回もそう上手くいくとは限らないのだ。

 

 前に死体を見つけた水場に着いた。

 そこには俺が装備を剥ぎ取った死体がまだ転がっていた。

 

 (ほかの魔物に食われたのかな……。死体の損傷が前よりも激しい……)


 近づいて死体を見下ろすと、身体から蛆虫が湧いていた。

 それが地面のうえでぐじゅぐじゅとウネッている。


 (死体って、腐るとものすごく、臭いんだな……)


 嗅いだことのない悪臭が辺りに漂っている。

 すこし嗅いだだけで、ヤバい匂いだとわかる。

 

 (だけど、魔物が好きそうな匂いだ……)

 

 魔物の好きな匂いなんてわからないが、とにかくそう思う。


 

 (今回は、もう少し先まで進んでみるか……)


 すこし中腰になって、慎重に森を進んでいった。

 

 この森全体はかなり広く、その出口は全く見えない。

 森には特殊な薬草が生えているとギルドの受付嬢が話していたが、俺にはどれが特殊な薬草なのか、区別もつかない。

 それに今はクエストも受けられないから、薬草なんて収集しても意味がない。

 (あいつら、今ごろどうしてんだろうな……)

 元同級生たちのことを思うと、やはり苛立ちが募る。

 (……まあ、どうせ上手くやってんだろう……)

 俺とは関係ないさ、と自分に言い聞かせて、さらに前進する。



 森の西側が剥き出しの山肌になってきた。

 それに沿って歩いていく。

 すると、巨大な洞窟の入り口が見えてきた。


 (あれがダンジョンだな……。誰かが話していた……)


 この辺りにダンジョンがあるのは聞いたことがある。

 正確な場所は知らなかったが、森の西側とは聞いていた。

 地図も持たずに来ているから見つけられないだろうと思っていたが、案外簡単に見つかった。


 (ダンジョン内なら、もっと冒険者の死体があるんだろうな……)


 だけど、俺の実力でなかに入るわけにいかない。ダンジョン内は魔物だらけだ。とても戦えるはずがない。


 どうしようかと悩んでいると、洞窟内から、なにか音が聴こえてきた。

 

 (なんだ、あの音……)

 咄嗟に、茂みに隠れた。

 

 (なにか、来る……)


 それはひとりの冒険者だった。


 (だけど、怪我をしているな……)


 そのエルフは胸元に深い傷を負っていた。

 衣服がびっしょりと血で濡れている。

 息も絶え絶えで、片足を引きずっていた。

 

 (ほとんど、瀕死じゃないか……)

 (どうする……出ていって、肩を貸すか……?)


 だが、そのとき、男の後ろから別の生き物が洞窟から出てきた。

 手製の斧を持ったゴブリンだった。


 (ヤバい、あのひと、ゴブリンに気づいていない……)

 (どうする、どうする……? )


 そう思っているうちに、ゴブリンが男に追いついた。

 背後から勢い良く斧を振りかざし、男の頭部に叩きつける。

 鈍い音。

 切り裂くような音ではなくて、重たいものを地面に落としたような音がした。

 

 男の頭部は真っ二つに割れ、そこから血がぴゅうぴゅうと噴き出ている。

 ゴブリンはそれが嬉しいのか、顔に血を浴びて小躍りしている。

 まるで雨を喜ぶ農民の踊りみたいだ。

 

 ゴブリンは地面にうずくまる男の頭部にもう一度斧を振り下ろした。

 肉片が辺りに飛び、「ぐふ」と低いうめき声が聴こえた。

 頭部が飛び散ったエルフの男は、急に動かなくなった。


 (殺された……、あっけなく……)


 茂みのなかで絶句する。

 悩んでいるうちにあっさりひとが一人死んだ。


 (俺の、せいか……? )

 (だけど、出ていっても、今の俺の力では、なにも出来なかったはずだ……)

 (だけど、逃げろと、叫ぶぐらいは出来たのに……)


 猛烈な罪悪感がこみ上げてくる。

 自分が無力だということが、強烈に哀しくなる。

 

 (だけど、俺だって、生きなくちゃいけないんだ……)


 必死にそう言い聞かせる。

 自分が無力なのは事実なのだ。

 なんの才能も力もないのも事実だ。

 あの男を助けられないのも事実だ。

 それらをみんな受け入れて、必死に生きていくしか無い。

 

 (辛い……。悔しくて、泣きそうだ……)


 涙がこみ上げてくる。

 

 (ここから、どうする……。逃げるか……? )


 だが、ゴブリンは興奮している。

 物音を立てれば気づかれそうだ。

 

 (もうしばらくじっとしていよう……。せめて、あのゴブリンの興奮が去るまで……)

 (また待つだけか……。俺はほかに、なんにも出来ないのか……)


 二十分ほどそこで待っていた。

 その場で踊ったり、死体を蹴っ飛ばしたりしていたゴブリンは、突然飽きたように斧を肩に担ぎ、上機嫌でダンジョンのなかに入っていった。


 (やっと、行った……)


 深いため息をつく。

 背中にびっしょりと汗をかいている。


 (行くか……)

 そう思って、動きを止めた。

 (いや、ゴブリンは狡猾と聞くから、もうすこし、様子見しよう……)


 

 そう決断して、さらに十五分、そこでじっとした。

 (考えすぎかも知れないが……)



 だが、この決断は間違っていなかった。

 十五分後、突然ゴブリンが戻ってきて、洞窟から顔を出したのだ。

 そして、辺りをきょろきょろと見回した。


 (危なかった……。誰かが見ていると、感づいていたのか……? )

 (あのまま出て行っていたら、殺されてたな……)


 ゴブリンは不思議そうに首を傾げると、もう一度洞窟内に戻っていった。


 

 ……



 それから三時間が経った。

 今度は様子見していたというより、怖くて足が動かなかったのだ。

 一歩間違えば死んでいたという事実に、足が震えてくる。

 (落ち着け、落ち着け……)

 そう言いながら、何度も足を擦った。

 (もう茂みから出ていって良いのか……? どうする、どうする、俺……)






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