専属
翌日、ゾフさんの店に行って素材を売った。
ゾフさんは俺が店に来るなり、気難しそうな顔を綻ばせて迎え入れてくれた。
「やあ、ピギー君。よく来てくれたね。君が来るのが楽しみだったんだ」
「今日もたくさんあるんですが、良いですか? 」
「こっちとしては、あればあるほど嬉しいね。さあ、座って」
とゾフさんが椅子に案内してくれた。
今回売った素材は、爛れ馬の尻尾が15本、胃袋15個、肝が15個。
それから、不気味花の花びらが45枚、雄しべ45本、雌しべ8本。
そして、青蛇の肝が1255個あった。
「……ピギー君、待ってくれ、いったい、どれくらい持ってきたんだ……? 」
青蛇の肝を次々とテーブルに重ねていく俺を、さすがのゾフさんも驚愕して眺めていた。
「全部で千個以上あるんですが……」
と言うと、
「……せ、千……? 君はまったく、信じられん……」
と頭を抱えてしまった。
ゾフさんは席を立ち上がり、廊下に居た執事を呼ぶと、
「ピギー君もこっちに来てくれ。千個もあるんじゃあテーブルのうえには載りきらんだろう。奥で続きをやろう」
と言って屋敷の大広間へと案内してくれた。
……すべての素材をゾフさんの敷いた布のうえに重ね終わると、
「……とんでもない数ですね」
と執事がぽつりと言う。
「まったくだ。しかもこれを個人が持ってきたんだぞ? まるで業者が運び入れたみたいだ」
とゾフさんも若干引いている。
「……しかも、ひとつひとつの素材が信じられないほど高品質だ」
ゾフさんは積み重ねた素材のひとつを手に取って言った。
「まるで始めからこの形をして置いてあったみたいに、傷がまったくない。前回も思ったが、信じられない皮剥技術だよ」
「それで、いくらぐらいになりますか……? 」
と尋ねると、
「青蛇の肝というのは希少価値が高いんだよ。まず、冒険者が討伐に苦労するというのがある。仮に殲滅できたとしても、皮を剥いでいる余裕なんてないんだ。なにしろ、青蛇は必ず群れで襲ってくる。皮を剥いでいるうちに次々と青蛇の群れに襲いかかられてしまう。だから、青蛇の肝自体が滅多に市場に出回らない」
「と、なると……? 」
「……ひとつ銀貨60枚で買い取ろう」
「ろ、60枚ですか!? 」
「そうだ。それほどこの素材には価値がある」
ゾフさんはそう言うと口元に笑みを浮かべて頷いた。
(ろ、60枚……)
(ってことは、×1255で……)
と頭のなかで計算しようとすると、
「銀貨7万5千300枚ですね」
と察してくれた執事がそう呟いた。
「な、7万……」
と思わず、唖然とする。
「金貨に交換すると、約750枚だな」
そう言うと、ゾフさんは残りの素材もひとつずつ鑑定し、トータル金貨772枚、銀貨260枚を持ってきた。
ごくり……。
思わず、生唾を飲んだ。
(金貨750枚……)
(少し前の俺だと、考えられない、莫大な金だ……)
「ピギー君、君は自分の家を持っているかい? 」
「家は、僕は持っていません」
「そうか。……これほどの金額となると、持ち運ぶのに物騒になる。出来れば自分の持ち家があると良いんだが……」
(家か……)
(買えるなら買っても良いんだが、正直に言って、もっと冒険に出てみたいという気持ちもある……)
俺は自分のなかに芽生えた冒険者としての感情を確かめていた。
始めはクラスメイトを見返したい、生活苦から抜け出したいという気持ちが大きかったが、徐々に強くなる自分を見ているうちに、もっとこの広い世界を冒険してみたくなっていたのだ。
(家を持ってしまうと、旅に出られなくなる……)
「家を持つ気はないようだね」
とゾフさんが言った。
「い、今のところは……」
と言うと、
「それなら、私と専属契約を結ばないかね? 」
とゾフさんが提案してきた。
「専属、契約ですか……? 」
ゾフさんがこくりと頷いた。
ゾフさんが言うには、ゾフさんの運営する素材屋は世界に展開しているという。
この世界のどの街にも必ずゾフさんの運営する素材屋の支店がある。
専属契約を結べば、今後どの支店でも売買してくれる。
それどころか、ゾフさんが鑑定するのと同じように、必ず色を付けて買い取ってくれるという。
「私は実は銀行も運営しているんだ」
とゾフさんが言った。
「は、はあ」
と、話の展開が読めずにそう言うと、
「もし専属契約してくれるなら、君のお金はこちらで預かろう。私の銀行は素材屋と同じく世界中のどの街にも支店がある。その支店で、君のお金はいつでも引き下ろせるようにしておく。……どうかな? ただし、専属契約だから、今後は私の店以外には素材は売らないで欲しい」
(専属契約か……)
(話だけ聞けば美味しい話に違いないが、……でも、なんでゾフさんはここまで言ってくれるんだ……? )
(なにか、裏があるのか……? )
判断がつかずにそう悩んでいると、
「ピギー君、きっと、私になにか悪巧みがあると疑っているんだろう? 」
とゾフさんが言った。
「い、いえ、そうじゃなくて」
と否定するが、
「良いんだ、良いんだ。……執事、契約用の用紙を持ってきてくれ」
ゾフさんはそう命令すると、腰からナイフを取り出して言った。
「……ピギー君、私はただただ君を気に入っているんだ。これは素晴らしい腕を持った職人に対する敬意だよ。私にはなんの裏もない。ただ君という素晴らしい皮剥士を他人に取られたくないだけだ」
そして、ナイフで親指の腹を切り裂くと、血の滲んだその指を執事の持ってきた書類の上に押した。
「……これが証文となる。ただ、書類にはまだなにも書いていない。私の言うことが信じられないなら、君がそこになにを書き込んでも良い。私の要求としては、私の素材屋以外と取引をしないこと、その一点だ」
ゾフさんのこめかみには汗が浮かんでいた。
(こ、ここまで言ってくれるのか……)
(しかし、ものすごい熱意だ……)
(ゾフさん、すごいな……。さすがにこの道で名を成しているだけはある……)
その熱に押されて、
「ゾフさん、僕はあなたを信用します。専属契約を結びます」
と俺は言った。
「そうか。……執事。ここに契約内容を書いてくれ」
そう言うと、ゾフさんは高級そうなハンカチで血の垂れた親指を拭った。
……
店を出るときに、執事が追いかけてきて話しかけてきた。
「ピギーさん、……私は長い間あの方の執事をやっていますが、あの方があそこまでひとを勧誘するのは初めて見ました」
「え、そうなんですか」
「そうです。どれほど優れた皮剥士にも、あそこまで条件の良い提案はしません」
「それじゃあ、本当に、なんの裏もないんですか……? 」
「ええ、なにもないでしょう。断言しますよ。あの方は、ただただあなたが気に入ったようです」
「そ、そうですか……」
「ピギーさん、あなたはもっともっと上に行くべきひとだ。もっと稼ぎ、もっと名を成し、もっと大勢のひとの上に立つべきひとです」
「そ、そんな、買いかぶりすぎですよ……! 」
思わずそう否定すると、
「……少なくとも、あの方はそう考えているようですよ」
と執事は眼鏡のしたでにやりと笑った。
「あの方は商売の天才です。儲けを嗅ぎ分ける嗅覚がずば抜けている。今あなたを自分のものとしておくことで、自分にもいずれ莫大な儲けが出ると予感しておられるのでしょう。……強いて言えば、あの方に裏があるとすれば、そういったあなたと関わることで自分にも得あるという、直感でしょう」
「直感……」
いまいち実感のない俺がそう呟くと、
「それじゃあ、また会いましょう」
と執事は俺の手を握って去っていった。
俺はしばらく、道のうえで去っていく執事の背中を見ていた。
(さらに上に行くべき人間か……)
(今のところ、なんの実感もないが……)
だが、事実として、俺はすでに金貨千枚以上を所持していた。
(もっと稼ぎ、もっと活躍し、もっとひとの上に立つ、か……)
と、俺はふつふつと湧き上がる勇気のようなものを感じて、身震いを起こしていた。
(ここまでやってこれたんだ……)
(もしかしたら……、俺なら……)
と、道のうえで、俺はひとりでそんな素晴らしい未来を空想していた。
現在のステータス
愛称:奇跡のピギー
ギルドランク:A
種族:人間
専属契約:ゾフ商会
同伴者:マトイ(忌み子)、アオ(青蛇の女王)
所属ギルド:ハングリー・バグ
パーティー名:【子豚】
所持金:金貨1062枚、銀貨306枚
所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ
ラージクラブ
爛れ馬の結晶×15 不気味花の結晶 腐り木の結晶×15 青蛇の結晶×1110
所有スキル:修理士、ポーション生成、調合、魔術フレア
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