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 「ピギー、この娘の成長、おかしい」

 

 朝、マトイにそう言われて目を覚ました。

 

 「ほ、ほんとだ……」

 

 近づいて見下ろすと、アオは以前より明らかに大きくなっていた。


 (いや、大きいというか……、明らかに成長してる……)


 (この間まで生まれたてみたいな赤ん坊だったのに、すでに3歳児くらいの大きさになっている……)


 「ピギー」

 と、そのときアオが俺を見て言った。

 思わず、マトイと顔を合わせる。

 「今、喋った……」とマトイ。

 「うん、喋った……」

 嬉しさのあまりマトイとハイタッチし、再びアオを見下ろすと、アオはふにゃっと笑っていた。

 「結晶のおかげかなあ……? 」

 と言うと、

 「……かもしれない」とマトイが答えた。

 

 実はあれから色々試したのだが、アオは結晶以外なにも口にしなかったのだ。

 それで延々と結晶だけを上げ続けているのだが、もしかしたら、それがこの異常な成長速度に関係しているのかもしれない。


 「たった一日でここまで成長するとなると、これ、すぐに大きくなるぞ……」


 俺はなにかぞっとしてそう呟いたが、 


 「私は、楽しみ……」

 

 とマトイは期待に目を輝かせていた。



 ……



 夕方になり、待ち合わせ場所に向かった。

 今日は、以前ディナーを一緒に食べようと約束したエフィーさんと食事に行く日だったのだ。


 「お姉様、ふたりで行くのは、私はやはり反対です」

 待ち合わせ場所に着くと、エフィーさんとその妹が喧嘩をしていた。

 「やめなさい。ピギーさんが来ました。……ピギーさん。今日は来てくれてありがとうございます。早速、レストランに行きましょう。予約しておきましたので」

 とエフィーさんが丁寧に頭を下げる。

 「こ、こちらこそっ」

 とどもりながら返すと、エフィーさんの妹にキッと睨まれた。


 「……ごめんなさいね、ピギーさん。この娘はまだ姉離れが出来ていないのです。ほら、ミワ、ちゃんとピギーさんに挨拶をして」

 「……私は、この男のことを信用していません。絶対に、お礼なんて言いません。だいいち、無償でひとの武器や防具を直すなんて、絶対になにか裏があるはずです。お姉さん、このひとは絶対に悪人に違いないのです」

 

 そう言うと、ミワははっきりと俺の顔を指差した。


 「え、えええ……? 」


 (この娘、こんな娘だったのか……)

  

 (しかし、ものすごく敵視されているな……)


 「もうやめなさい。ピギーさん、ごめんなさい。この娘のことは無視して、レストランに向かいましょう」

 

 そう言うとエフィーさんはすたすたと歩き始めた。


 「ピギーさん。あの娘のことは気にしないで下さい」

 歩きながら、こそっとエフィーさんが耳打ちしてきた。

 「気にしないでって言われても……。めちゃくちゃ怒ってますよ……? 」

 「私が男のひとと会うと、いつもああなのです。大丈夫ですから、忘れて下さい」

 

 「あー、ほらほら、そこっ、こそこそと話をしない! 」

 と、その間も後ろからミワが大声で指摘してくる。


 (こ、こんなんで食事出来るのか……? )


 と、若干憂鬱になり始めていたときのことだった。


 「や、やっと会えた! ピギー、探していたよ、やっと、やっと見つけた……! 」

 と急に俺のもとに走り寄ってきた男がそう叫んだ。

 「え、ちょ、ど、どなたですかっ」

 と言うと、

 「覚えていないか? ムール荒原で君に助けられた冒険者だ。ほ、ほら、爛れ馬と不気味花に襲われていた……! 」

 とその男が俺の腕を取りながら言った。

 「あ、ああ……あのときの」

 とこの男とその仲間の傷を治してあげたことを思い出しながら俺は言った。

 「何度も君の所属ギルドに足を運んだんだが、なかなか会えなくてな。実は、今もギルドに行った帰りなんだ。……やっと会えた。ずっとお礼を言いたかったんだ」

 「ちょっと待って下さい。なんですか、その話は? 」

 と、後ろからミワが割り込んできて男にそう問いただす。

 「な、なんだこの娘は……? その話はなんだと言われても、俺たちがピギーに助けられた話だよ」

 男がむっとしてそう言うと、ムール荒原で俺に傷を治してもらったときのことを詳しく話し始めた。

 「……本当ですかあ? 」

 と、話を聞き終わっても、ミワはしつこく男に食って掛かっていた。

 「嘘をついてなにになるんだ?? ピギー、なんなんだこの娘は? 」

 と男も呆れている。

 「百歩譲って、ピギーさんがこのひとを助けたとしましょう。でも、当然、お金を貰ったんでしょう? じゃなきゃこのゼニゲバが人を助けるはずがありません」


 (ゼニゲバ……)

 

 (お、俺、そんなふうに思われてんのか……)



 「馬鹿言うな! 」とついに男が怒鳴った。「ピギーは俺たちから金を取るどころか、別れ際に無償で魔物除けの聖水まで掛けてくれたんだ。俺の恩人に、失礼なこと言わないでくれ! 」

 さすがに男の剣幕に怯えたのか、ミワは、

 「そ、そうですか……? 」

 と若干シュンとしていた。


 そのやり取りが面白かったのか、

 「ふふ」

 と俺の隣で見ていたエフィーさんが笑った。

 「……ピギーさん、優しいのですね」

 と微かに首をかしげて、俺に微笑みかけてくる。


 「そ、そんなことっ、あ、ありませんっ」

 と急に声を掛けられたから、緊張して声を上ずらせてそう答える。

 それを見て、エフィーさんがまたふふと笑っていた。


 (エフィーさん……)

 (やっぱりものすごく綺麗だな……)


 (まるで本物の女優と一緒に歩いているみたいだ……)


 ……


 男と別れたあともミワはしつこく後ろでぐちぐち言っていたが、レストランの前でまた別の男たちに出会った。

 「よお、ピギー! こんなところで会うとはな! 」

 「ああ……、どうも、どうですか、あれから? 」

 

 前から歩いてきたその男ふたりは、ズキさんとミズリさんだった。

 ムール洞穴に向かう途中で会った、ミックスのドワーフふたりだ。


 「いやいや、君の言う通りだったよ。エイラという男の店を探して俺たちの品を持ち込むと、快く取引に応じてくれた。……いや、良かったよ。君に会わなかったら、あのまま途方に暮れて故郷に戻っていただろう」

 

 (良かった……)

 (エイラさん、やっぱりちゃんと取引してくれたんだな……)


 「そうそう、あのとき、俺たちの傷と、馬と、馬車を治してくれただろう。その時のお礼がしたいんだ。あのときお前はお金はいらないと言ったが、そういうわけにいかない。……いくら払えば良い? 」

 「い、いえ、いらないですよ」

 と断ろうとすると、

 「ちょ、ちょっと待って! またですか? あなたも無償でピギーさんに助けられたのですか? 」

 と慌ててミワが割り込んできた。

 「な、なんだこの娘は……? 」とズキさんが露骨に嫌な顔をする。

 「すいません、確認します! 本当に、――本当にこのひとに無償で助けて貰ったのですか? 」とミワ。

 「あ、ああ、本当だが……? 」とズキさん。

 「う、嘘でしょう……? 」

 とミワがショックを受けて俺に振り返る。

 「ギルドのみんなの武器や防具を無償で治して、通りすがりの冒険者の傷を無償で治して、……あなた、いつもそんなことばかりしているの……? 」

 「だから言ったでしょう」とエフィーさんが初めて口を挟む。「ピギーさんはあなたが思うようなひとじゃないって。本当に本当に、善意で助けてくれているのよ」

 「嘘よ……」とミワが絶句して俯く。「そんなひと、いるはずないわ……」

 そう言うと、ミワは突然その場所から走り去ってしまった。


 (なんなんだ……? )

 

 と良くわからずにその背中を見つめていると、

 「……悪い子じゃないんです」とエフィーさんが言った。「ただいろいろと思うところがあって……。みなさん、気を悪くさせてごめんなさい。さあ、こんなことは忘れて、食事をしましょう」

 「っと、ピギー」とズキさんが俺を呼び止めた。「金がいらないって言うんなら、別のお礼を考えている。そうだな、近々、エイラの店に来てくれ。君の為にとっておきのものを用意しておくよ」

 

 そう言うとズキさんとミズリさんは手を振って去っていった。


 「なんか、色んな人に会いましたね」

 と、若干疲れて俺がそう言うと、

 「……でも、改めて、ピギーさんの人柄が知れて、私は嬉しかったですわ」

 とエフィーさんが微笑みかけてきた。

 「ぼ、僕は別に、普通ですよ」

 と若干キョドりながらそう答える。


 と、ふと、いつの間にかエフィーさんと二人きりになっていることに気づく。


 (考えたら、女性と二人きりで食事するなんて、転生する前も含めて、初めてのことだ……)

 

 (マトイとはしょっちゅう食べているけど、雰囲気のある店でデートなんてしたこと無いし……)


 (というか、これって、デートだよな……? )


 そう思うと、急に緊張してきて、手が汗ばんできた。


 (よく考えたら、何を話そうとか、何も考えて来ていない……)


 (デートって、こんなに緊張するのか……)


 (みんな、良くこんなこと平気でやってるな……)


 すでに心臓がばくばくに慌てふためくのを感じながら、俺はエフィーさんの後ろでそんなことを考えていた。





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