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青蛇1



 「洞窟、入れないけど、どうするの? 」

 とマトイが聞いてくる。

 「……ちょっと、試してみるよ」

 そう言って俺は洞窟の入り口に近づいていった。


 そして、崩れている瓦礫に手を触れた。


 (うまく行くかな……)

 (今まで剣とか人の身体にしか当てたことないけど、俺の予想なら、多分……)


 「修理」


 と、俺は瓦礫全体に修理スキルを当ててみた。


 すると、まるで動画を逆再生するみたいにみるみるうちに瓦礫が移動し、洞窟の入り口は元の形状へと戻っていった。


 「……これも、直せるんだ」

 とマトイが超常現象を眺めるように、嘆息を漏らす。

 「みたいだね。出来るか不安だったけど、大丈夫だった」


 ……入り口を直した頃には陽が暮れかかっていた。

 「青蛇は夜行性だから、ここで一晩野宿しようか」

 と俺が言う。

 「……うん。その方が私も良いともう」

 とマトイ。

 

 こうして俺たちは、青蛇の活動が弱まる日中まで野営をして過ごすことにした。


 ……



 夜中、


 「……ピギー。さっきの結晶、食べてみたら? 」

 とマトイ。

 「生体反応感知の? 俺も気になってたんだ」

 「……うん。見張りなら、私がするから、一個くらいなら平気じゃないかな」

 「そうか。じゃあ、喰ってみるか」


 結晶には独特の酔いがあるから、冒険中はあまり喰わないようにしていたのだった。

 だが、マトイが言うように、ひとつぐらいなら喰っても支障は無いかも知れない。


 (Aランクだけあって、色味がさらに特別だな……)


 俺は結晶を翳して、見つめた。


 「……すごく、綺麗」

 とマトイが結晶を覗き込む。

 「……うん、吸い込まれるみたいだ」


 Aランクのその結晶は、微かに緑がかっていた。

 それは見るからに神秘的な色味で、喰うことがためらわれるほどの美しさだった。

 

 それに齧りつき、口のなかで噛み砕く。


 魔物の生命を蹂躙し、自分のものにするという野蛮さに、どこか満たされる感じがある。


 (この快楽は多分、生き物の本能だ……)

 

 (強いものが弱いものを踏みつけにし、その生命を奪うという、生き物の本能から来る気持ちよさだ……)


 「……ああ……、美味しい……」


 思わず、ため息が漏れる。

 

 隣りにいるマトイが、生唾を飲む音が聞こえた。


 「……どう? 」


 「……なるほど。生体反応感知ってこういうことか。魔物のいる場所が、はっきりわかる」


 と俺は呟いた。


 洞窟のなかで固まっている青蛇が、洞窟の壁を透かして見えるようになっていたのだ。


 



 ……



 翌朝、日が昇ると俺たちは洞窟のなかに入っていった。


 「マトイ、作戦通り頼む」

 俺がそう言うと、マトイは真剣な表情で前を向いて頷いた。


 作戦としてはこうだった。

 まずは洞窟の中ほどまで歩いていく。

 その辺りで青蛇が俺たちに気が付き、群れを成して襲いかかってくる。


 「マトイ、頼む! 」

 「うん、“麻痺(パラライ)”――」


 その群れに対し、マトイの麻痺で対抗。

 硬直した青蛇の群れに俺がラージクラブを振り下ろし、大雑把に討伐していく。


 ……当然、麻痺に掛からなかった青蛇が後から立て続けになだれ込んでくる。


 「マトイ、後退しよう! 」

 

 その襲撃を交わしながら後退し、そのあいだにマトイは足元に火薬を撒いていく。


 (生体反応感知で青蛇のおおよその数はわかっていたが……)


 (実際に敵対すると、半端じゃない数だ……)


 群れの先頭はマトイの麻痺で硬直するが、停止したその群れを乗り越えて、次々と青蛇が襲いかかってくるのだ。


 飛びかかってきた青蛇はブロードソードで素早く切り裂く。

 動きの遅いラージクラブやクレイモアより、小回りの利くこの剣の方が効率が良い。


 だが、その間にも硬直をすり抜けて、青蛇が足元に近づいてくる。


 「“麻痺(パラライ)”――」

 「“麻痺(パラライ)”――」

 「“麻痺(パラライ)”――」

 

 マトイは麻痺を連発し、洞窟の足元は硬直した青蛇の群れでいっぱいになってくる。

 まるで、絡まった縄がたくさん地面に転がっているみたいな光景だ。


 襲いかかってくる単独の青蛇がいない隙きに、ラージクラブで硬直した群れを一気に討伐する。

 ……思い切り振りかぶり、叩きつけるのだ。


 ドゴォォオォツ!


 という音ともに、一気に洞窟の足元が抉れる。


 (だが……、切りがない……)

 (青蛇が……次々と……)


 と、そう考えている間に、俺の攻撃とマトイの麻痺をくぐり抜けてきた単独の青蛇が、足元に噛み付いてくる。


 「……痛いッ! 」

 

 という小声の悲鳴に振り返ると、マトイの足元にも青蛇が噛み付いていた。


 手早くブロードソードを振り、マトイの足に噛み付いた青蛇の首元を切断する。


 ブシュッ


 という音が聞こえ、青蛇の身体が真っ二つに裂け、噛みつかれたマトイの足から血が漏れる。


 「……傷は後で修理で治せる。とにかく、じわじわ後退しながら、火薬を撒いていこう! 」

 「……うん、“麻痺”――」



 ……こうして、目の前の作業に追われながら、必死に洞窟の入り口まで後退していった。


 

 洞窟の外まで出ると、日光を嫌がる青蛇が一気に洞窟の奥へと引き下がっていった。


 ザアア……という、まるで波が崩れるような音が、洞窟の奥へと消えていく……。


 「……火をつけよう」


 休む間もなく、俺はそう言う。

 

 「…うん」とマトイ。


 洞窟の中ほどまで続いている火薬の連なりに、俺は屈み込む。


 「……“フレア”――」


 と、俺は結晶によって手に入れた火の魔術で火薬に点火した。


 すると、


 ボワァァッ!


 と凄まじい勢いで火が膨張し、それが一気に洞窟のなかに向かっていった。


 一瞬で広がった火に巻き込まれて、まるで殺虫剤を噴射された虫のように、青蛇が洞窟中でのたうち回る声がする。

 

 「ピギィ!! 」

 「ピギャァァ! 」

 「ギィギィ! 」


 という、焼き殺される際の断末魔が、洞窟の中で聞こえ続けていた。


 (良いぞ……)

 (これで、かなりの数の青蛇が討伐出来るはずだ……)

 (作戦としては、上手く行ってる……)


 俺はマトイと立てたこの作戦と、それまでに続けてきた下準備とを思い出し、微かな達成感を味わっていた。


 (行ける……)

 (青蛇……、討伐できる……! )



 ……



 十分程経って、火が収まったあと、マトイとふたりで洞窟のなかに再び入っていった。


 火はまだ洞窟の至るところに残っていたが、小さなものだけで、全体としては鎮火している。

 洞窟の足元には膨大な数の青蛇の焦げた死骸があり、息も出来ないほどの悪臭が立ち込めている。

 

 (もしかして、ほぼほぼ全部、討伐出来たか……? )

 (だが、気になるのは、あの奥にいる大きいのだ……)


 生体反応感知で洞窟の奥を見ると、巨大な塊のようなものが、まだ残っているのが見えるのだ。


 (なんだろうな、あれ……)

 (巨大な、一匹の蛇に見えるが……)


 だが、俺たちが洞窟の半分を越えた辺りに差し掛かったとき、一匹の蛇に見えたその何かが、突然小さな個体へと分裂していくのに気づいた。


 (違う……)

 (一匹の巨大な蛇が奥にいたんじゃなくて……)

 (莫大な数の青蛇が、一箇所に固まっていたんだ……)

 (あの巨大な生体反応は、その塊だったんだ……)


 

 洞窟の奥から、凄まじい量の青蛇が徘徊してこっちに向かってくる音が聴こえた。


 (マズい……、火薬はもうない……)

 (この音の数……、さっきよりも遥かに多いぞ……)


 その音はまるで、一気に雪崩の起こる音に似ていた。


 そしてその音は、あまりにも素早くこっちに近づいてきていた。





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