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行商




 ムール荒原を抜けようとするころには天候が荒れ始めていた。

 

 「空が曇ってきた……」

 とマトイが呟く。

 「いやな空だな……」 

 と俺。

 「……うん、なにか起きそう……」



 ムール荒原の砂埃を抜け、川辺に出たときのことだった。


 「……ピギー、見て。あそこに誰か居る」

 「……荷馬車が転倒しているな」

 

 遠くに横転した荷馬車と、地面に屈み込むひとりの人影が見えたのだ。


 「……雨が降ってきた」

 とマトイが呟く。

 「ホントだ。……とにかく、様子を見に行ってみよう」



 ……


 「どうしました」

 近くまで行って声を掛けると、地面にかがみ込んでいた男が顔を上げた。


 「……ほ、ほっといてくれ……! 」

 とその男が吐き捨てるように言った。

 見ると、男が屈み込んでいるそこに、深い傷を負ったひとりの人間が突っ伏していた。


 (このひとたち、どっちもエルフじゃないな……)

 (倒れているひとの傷は相当ひどい……。両足が切れている……)


 (……だけど、この反応はなんだろう……? 露骨に嫌がられてるけど……)


 「ちょっと傷を見せてください。まだ治せるかもしれないので」

 俺がそう言うと、

 「……この傷が、治せる……? はっ」

 と男は皮肉に笑った。

 「馬鹿言うな……。俺をからかっているんだろう。この、クズども……! 」


 俺はマトイと目を合わせた。

 男のこの反応が不可解で、理由が良くわからない。


 (とにかく、先に傷を負った男を治してしまおう……)

 (早く治さないと、命に関わる……)


 妙に不機嫌な態度で接してくる男を無視して、俺は突っ伏している男の両足に“修理スキル”を当てていった。


 「……う、かは……」


 と倒れている男が呻き声をあげる。


 「じっとして。すぐ治りますから」


 スキルを当てながらそう言うと、男はゆっくりと小刻みに頷いた。


 (……大丈夫そうだ。どうにか間に合いそうだ……)


 傷はぐじゅぐじゅと虫のようにうねりながら復元していった。

 太ももから先が失われていたが、徐々にそこに足が生え、ついには元の形に戻った。


 「……! 」

 

 不機嫌そうに突っ立っていた男が、明らかに驚愕するのがわかった。


 「ほ、本当に……、治してくれたのか……? 」

 

 不機嫌にしていた男がそう呟く。


 「水があれば飲ませてあげてください。もう大丈夫なはずです」 

 「あ、ああ……! 」

 不機嫌だった男は慌てて水筒を取り出し、負傷した男の口にあてがう。

 「ほ、ほら、飲め、水だ。もう大丈夫だ。このひとが治してくれた……」

 「う、うう、かはっ……」

 傷を負った男は必死に水を飲み込んでいった。


 「いったい、なにがあったのですか……? 」

 ふたりに向かってそう問うと、不機嫌だった男が振り返って事情を話し始めた。



 ……



 不機嫌だった男の名前をミズリという。負傷していた男の名前はズキ。

 ふたりは武器と防具の行商をしているらしく、故郷からこのエルフの国まで武器と防具を売りに来たのだという。


 「だが、エルフは誰も取り合ってはくれなかった。この国は本当にクソだ……! エルフ以外は人間とすら思っちゃいない」

 と悔しげにミズリが言う。

 「俺たちは武器と防具を買い取ってくれる店を探していたんだが、駄目だった。どの店も露骨に俺たちに蔑んだ目を向けてくる。話すらまともに聞いちゃくれない……」


 「……ピギー、このひとたち、多分、ドワーフだと思う……」

 とマトイがこっそり耳打ちしてくる。

 「ああ、確かに……」


 良く見ると、ふたりは確かにドワーフらしい風貌をしていたのだ。

 ただ、俺の知っているドワーフほど小柄でも、髭がたくさん生えているわけでもなかった。


 「ああ、俺たちか。俺たちはミックスのドワーフなんだ。純粋種じゃない」

 俺の視線に気づいたミズリが言った。

 「想像のドワーフより大きいから驚いたのか? まあ、ドワーフの国でも今じゃ純粋種は珍しいよ」

 とズキさんが明るく笑ってそう言う。


 (なんか、案外陽気なひとたちっぽいな……)

 

 少しほっとした気持ちになって、俺はそう思う。


 「……それで、どうしてここで荷馬車が横転していたんですか? 」

 「ここで爛れ馬に襲われてな。全く、気をつけてはいたんだが、追いつかれてしまった」とミズリさん。

 「……それより、むかつくのはその後だ。ある冒険者のパーティーが爛れ馬を追い払ってくれたんだが、……クソッ、あの、外道ども……! 」

 とズキさんが吐き捨てるように言う。


 彼らの話を要約すると、爛れ馬に襲われている彼らをあるパーティーが助けてくれたのだという。

 ……だが、そのパーティーは爛れ馬数匹を討伐すると、すたすたと立ち去ろうとしたのだという。

 そのときにはズキさんは足を負傷して、歩けなくなっていた。

 パーティーには明らかに治癒職のヒーラーがいたから治癒をお願いすると、

 「は~? 無償で~? ごめ~ん。いやー」

 とひらひらと手を振って去っていったのだという。

 おまけに、爛れ馬の群れは一匹残っていて、その一匹も討伐せずにその場を去っていったというのだ。

 その一匹はなんとかミズリさんとズキさんふたりで討伐できたみたいだが、あえなく、ズキさんは両足を喰われてしまった。


 「あいつら……、俺たちを助けてくれたんじゃなくて、たまたま通り道に爛れ馬がいたから倒していっただけなんだ……! 」とミズリさん。

 「つくづくクソみたいな国だよ。どいつもこいつも、嫌な奴しかいない……。目の前に負傷した人間がいるのに、そのままにして立ち去るなんて、理解できん……! 」


 それで出会ったときのミズリさんの不機嫌な態度の理由がわかった。

 エルフの国では邪険に扱われ、故郷に向かう帰り道では冒険者のパーティーに見捨てられたのだ。

 

 (そりゃあこの国のことを嫌いになっても仕方ないよな……)

 (まあ、エルフたちに人間扱いされない気持ちというのは、俺にもわかる……)


 「……ピギー、この馬。まだ息がある」

 馬車の向こう側に行っていたマトイが声を挙げる。

 「本当か? 今行く」

 「……無駄だよ。首元を激しく噛まれていたから」とミズリさんが首を振る。


 だが、近づいて行くと、馬はまだぴくぴくと動いていた。


 (噛みつかれた首の傷は深いが……)

 (これなら多分治せる……)


 さっきと同じように俺は“修理スキル”を当てて馬の傷を治していった。


 「……さっきも見たが、これはいったいどういうスキルなんだ…‥? 」

 

 感心したように、俺の後ろからミズリさんがスキルを当てていく様子を眺めていた。


 「転倒した馬車も車輪が破損していますよね。……こっちも直しておきますね」


 馬を治したあとでそう言うと、


 「……馬車も直せるのか……? 本当にいったい君は……」

 

 とミズリさんは呆れたように棒立ちとなってしまった。



 

 ……



 ズキさん、馬、馬車を直し終わると、


 「悪かった。君たちにはずいぶんぶしつけな態度を取ってしまった」

 とミズリさんに頭を下げられた。

 「……いえ、構わないですよ。そんな経験をしたら、誰だってそんな態度になる」

 「君は優しいな。……それより、いくら払ったら良い? ここまでしてくれたんだ。君の言い値を支払うよ」

 「お金ですか? いえ、いらないですよ」

 びっくりして俺は答える。

 「……無償で、良いのか? 」 

 逆に疑わしい顔になってミズリさんが言う。

 「お金の為にやったことじゃないですから」

 と言いかけたとき、俺はあることを思いついた。


 「そう言えば、取り扱ってくれる店がなかったと言いましたよね」

 「あ、ああ……」

 「お金はいらないので、もう一度エルフの街に戻ってくれませんか? 僕の知り合いの店に、エルフ以外の経営する武器屋があるんです。そこなら、取引に応じてくれると思います」

 「本当か? 俺たちでも、大丈夫かな」

 「……ドワーフたちの作る武器や防具が優れているというのは、有名。エイラさんなら、取り扱ってくれると思う」とマトイが口を挟んだ。

 「もしその店にひとがいなかったら、ハングリーバグというギルドに行ってください。フリューゲルさんなら、エルフ以外も迎え入れてくれるはずですよ」

 「……本当か? 」

 一瞬、不信感を表に出してミズリさんが呟く。

 「本当です。僕を、信じてください」

 

 確信を込めて俺はそう頷いた。

 この頷き方は、マトイのやり方を真似したものだった。

 

 (マトイみたいに自信たっぷり頷くと、頷かれた方は安心するんだ……)

 (そういう場面を、俺は何度も見てきた……)


 すると、ミズリさんはふっと笑っていった。

 「そうか。……じゃあ今から街に戻ってみるよ。エイラさんと、フリューゲルさんだったな。俺たちももう一度だけ、エルフたちを信じてみることにするよ」

 「そうだな。ここまで言われたら、そうしないわけにいかない。正直に言って、俺たちは自分たちの商品には自信があるんだ。中身を見てもらえば、きっと店の主人にも満足して貰えるはずだ」とズキさん。



 (良い武器と防具か……)

 (エイラさんの店に並んで、ギルドのひとたちも買えるようになったら、ギルド全体の戦力の上昇に繋がるかもな……)


 「……助けたから、安くしてくれるかも」

 と俺の考えを見透かしたようにマトイが横で呟く。

 「……マトイ」


(確かに、ドワーフの作る良質な武器防具が安く手に入るようになったら、ギルドのひとたちにはかなりの幸運だろう……)

 (もしかしたら、かなりラッキーな出会いだったのか……? )




 「っと、それから、念の為に魔物除けの聖水を振りかけておきますよ」

 と俺はさっき作成した聖水のあまりをふたりと馬車、馬にも掛けておいた。

 

 「なにからなにまですまないね。それより、君たちもいずれ街には戻るんだろう? 」

 「クエストが終わったら戻るつもりです」

 「そうしたら、そのときにまた街で会おう」

 「ええ、そうですね」

 と俺はにっこりと笑う。

 「もう一度礼を言うよ。心から、ありがとう」

 とズキさんが丁寧に頭を下げた。



 ふたりが去るときに、

 「……そういえば、ふたりを見捨てていったパーティーって、どんな人たちだったんですか? 」と聞くと、

 「あいつらはエルフじゃなかったな」とミズリさんが答える。

 「あれは、多分、転生者だ」とズキさんが言う。


 「転生者……。ということは、俺の元クラスメイトか」



 俺は道の先を眺めた。


 「ヒーラーがいるということは、高村たちのパーティーか……? 」


 雨は止んでいたが、いまにも降り出しそうな雨雲はまだ空に張り付いたままだった。





 ……ちなみに、ここに来るまでに討伐した魔物は爛れ馬12匹、不気味花8匹、腐り木15匹。

 手に入れた素材は爛れ馬の結晶が12個、尻尾が12本、胃袋が12個、肝が12個。

 不気味花の結晶が8個。花びらが40枚、雄しべが40本、雌しべが8本。

 腐り木の結晶が15個。


 《ボーナス》に関しては以下の通り。



 《ボーナス》 魔術量増加(小) ×8

 《ボーナス》 敏捷性アップ(小) ×4

 《ボーナス》 マヒ耐性 ×2

 《ボーナス》 毒耐性 ×12

 《ボーナス》 スタミナアップ(小)×4

 《ボーナス》 ポーション効果上昇 ×3

 《ボーナス》 皮剥速度上昇(小) ×2



 現在のステータス




 愛称:皮剥のピギー

 種族:人間

 同伴者:マトイ(忌み子) 

 所属ギルド:ハングリー・バグ

 パーティー名:【子豚】

 所持金:金貨42枚、銀貨46枚

 所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ

     ラージクラブ

     爛れ馬の結晶×15 尻尾×15 胃袋×15 肝×15

     不気味花の結晶、花びら×45 雄しべ×45 雌しべ×8

     腐り木の結晶×15


 所有スキル:修理士、ポーション生成、調合、魔術フレア







※読んでくれた方へ


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