皮剥の
ムール荒原で三人のエルフを助けた俺は、あるものを作るために手早く調合を始めた。
以前、結晶の力で“調合士”のスキルを取得した俺は、今の段階で以下の品を調合出来るになっていた。
火薬
解熱剤
鎮痛剤
溶かし水
魔術力快復薬
睡眠薬
除草剤
殺虫剤
魔物除けの聖水
ひとつずつ説明すると、
溶かし水というのは元の世界で言う一種の「硫酸」のことで、これを掛けると物体を溶かすことが出来る。
一度使ってみたが、例えば庭に生えている木の表面程度なら溶かすことが出来る。
調合のやり方としては酸性の素材と水気のあるものを組み合わせると、これが調合出来る。
それから、火薬というのは元の世界の火薬と同じものだ。
これは魔物の牙を粉末状に砕き、「素材屋」で売られている特殊な粉末と混ぜると火薬になる。
これも一度試しに使ってみたが、フレアで着火するとかなりの規模の火に膨れ上がった。
場面を考えて使えば有効な戦術として機能するだろう。
あとは殺虫剤。
これは単純に虫を殺すためのものだ。
今は魔物を殺すほどの効力は持たない。
もっとも、調合士のスキルが向上すれば虫系の魔物にも効果が見られるのかもしれないが……。
魔術力快復薬というのは文字通り魔術力を快復してくれるものだが、今のところあまり必要を感じていない。
というのも、マトイの魔術量は底が知れないほど豊富だからだ。
あれほど“麻痺”を連発していても、一度も魔術量の枯渇に陥ったことがない。
もともと神童と呼ばれ最年少で魔術大学に通ったほどのひとだから、莫大な魔術量を保有しているのかもしれない。
そんなひとの魔術力を快復する場面が、そもそもなかなか見られないのだ。
もっとも、俺が魔術を使う場面が増えれば、この薬に頼る場面も出てくるかもしれない。
最後に、魔物の除けの聖水について。
これはポーションと魔物の肝を組み合わせて調合すると作れる。
ややとろみがかったこの聖水を身体に振りかけると、効力が持続するあいだ魔物から襲われる確率を低減出来る。
ポーションに関しては俺は“ポーション生成スキル”を保有しているから、ゼロから生み出せる。
……というわけで、早速ポーションを作成。
リュックに詰めてきていた空っぽの瓶に念力を込める。
……すると、瓶のなかに水が湧き出してくる。
これがポーションの生成方法で、自分でやりながらまるで奇蹟みたいだな、と思う。
ポーションというのはポーション屋と呼ばれる専門の業者があって、このスキルも本来“ポーション士”と呼ばれる固有職の人間にしか扱えない。
“修理士”である俺がポーションを生成していることが不思議なのか、エルフたちはなにか聞きたそうに俺の行動を見つめていた。
ポーションの生成を終えた俺は、転がっている爛れ馬の死骸に近づき、その素材を剥いでいく。
ナイフをその腹に突き立て、肛門まで一気に皮を開いた。
(皮剥速度上昇の結晶を喰ったから、皮を剥ぐ速度がかなり増している……)
(以前とは比べ物にならない手際の良さだ……)
俺はせっせと爛れ馬の身体から心臓と肝を取り出していった。
肝を取り出し終わると、さっき生成したポーションと掛け合わせて魔物除けの聖水を調合する。
魔物除けの聖水を調合している間、助けたエルフのひとりが話しかけてきた。
「……君、もしかして、“皮剥のピギー”か……? 」
「……そうです。なんか、そう呼ばれているみたいですね」
「……そうか。ずいぶん皮を剥ぐ手際が良いと思ったんだ」
「まあ、慣れてますので」
「……君のことを誤解していたみたいだ」
「誤解、ですか……? 」
「ああ。魔物の皮を剥ぎ、冒険者の死骸を漁り、おまけに醜い容姿をしたピギーという冒険者がいるという噂は聞いたことがあったんだが、それを聞いたとき、正直に言って私はその人物を軽蔑したんだ」
「……そうですか」
「……だけど、想像していた人物と君は全然違う。こんなことをしてくれる冒険者だとは思ってもみなかったんだ」
「……まあ、気持ちは、わかります」
(エルフのひとたちって、本当に外見でひとを判断するよな……)
(だけど……)
と俺は考えていた。
(このエルフはそんな自分の誤解を反省しようとはしてくれている……)
エルフたちは確かにひとを外見の美しさで判断しすぎるところはある。
美しいものは無条件に尊敬し、醜いものは露骨に差別する。
(だけど、彼らには恩義を大切にする一面もある……)
(自分を助けてくれたひと、親切にしてくれたひと、そういうひとにきちんと恩を返そうとする……)
「気にしないでください」
と俺は言った。
「それより、無事に街に戻れたら、僕の所属するギルドで待ってますよ。……いつかみんなで冒険に行きましょう」
必死に笑顔を作ってそう言った。
(多分、どうやったって俺の見た目はエルフたちには蔑まれるのだ……)
(だったら彼らに恩を作って、借りを返さないと気がすまないようにさせた方が良い……)
(そうすれば、いずれ俺の名声が確立されて、容姿に関しても誰もなにも言わなくなるはずだ……)
多少腹黒いが、俺はエルフの国で認めてもらうために、そんな戦略を頭のなかで考え始めていた。
魔物の除けの聖水を3人分生成し終えた俺は、それをエルフたちに振りかけていった。
「これで街まではだいぶ魔物に会いにくくなるはずです」
「え、あ、ありがとう……」
男が驚いて答える。
「さっきから気になっていたんだが……」
とそのうちのひとりが言った。
「さっきから君はいろんな職業のスキルを使っていないか……? 本来、ひとりひとつの職業スキルしか使えないはずなんだが……」
「えーっと……」
と言って俺は黙ってしまった。
(俺は、もともとあんまり目立つのが好きじゃないんだよな……)
(例え褒められる場面でも、出来れば誰も自分に注目しないで欲しい……)
(駄目だな俺……。こうやってすぐに萎縮しちゃう……)
そんなことをうじうじ考えていると、ますます不審そうにエルフたちが俺を見つめてくる。
(やばい……、なにか言わないと……)
そう思っていると、
「ピギーは複数の固有職持ち。……それだけ」
とマトイが口を挟んだ。
「複数の固有職持ち? そんなことあるのか……??? 」
「……ある」
とマトイはいかにも物知りっぽく確信の籠もった表情で頷いた。
それに気圧されたのか、
「そ、そうか……」
とエルフたちも納得していた。
(マトイ、ありがとう……)
という意味を込めて視線を送ったが、マトイはふいっと顔を逸した。
(あ、あれ、なんか、怒ってる……? )
と一瞬思うが、良く見ると被ったフードのなかでマトイの耳が赤くなっている。
(ああ……照れてるのか……)
それでも一応お礼を言っておきたくて、マトイの背中に、
「マトイ、ありがと」
と小声で呟くと、マトイは振り向かずに、
「……ん」
とだけ答えてくれた。
ある意味でブレない照れ屋具合に、俺はなんとなくほっこりとした気持ちを抱いた。
……
エルフを送り出した後、ムール荒原の砂埃のなかで倒した魔物の素材を剥いでいった。
「フリュゲールさんも言っていたけど、この国では本当に低級を彷徨う冒険者が多いね」
と俺が言った。
「……うん。多い。低級から抜け出すのは、かなり難しい。それに、この世界では才能がすべてみたいなところが大きい」
マトイがなにかを悟ったような口調で続けた。
「……優れた才能持ちの冒険者はどんどん成長していく。強い魔術を覚えたり、強い剣技を覚えたり……。だけど才能が低いひとはそうじゃない。なかなか成長出来ず、お金も稼げず、武器の修理費ばかりがかさんでいく」
「じゃあ、生まれ持った固有職があまり良いものでなかったら、一生苦しい思いをし続けるということ? 」
「……残酷だけど、そう」とマトイが呟く。
「そうなのか……」と俺は呟く。
(そんなにも生まれ持った才能がすべてを決定する世界があるのか……)
(元いた世界でも才能は大切なものだったが、もう少し努力で挽回出来る余地があった……)
(だけどこの世界では、容姿の美しさも含めて、生まれ持ったものがあまりにも全部を決定してしまう……)
「だからこそ、“結晶”の力は大きい……」
とマトイが言った。
「才能で人生の殆どすべてが決まるこの世界で、結晶だけは、それを覆す力を持っている……」
「確かに」と俺は答える。
「……それはもしかしたら、この世界の原理を根本的に変えるかも知れない……」
そう言うとマトイは、なにか深い考えを持った顔つきでゆっくりと頷いた。
……
その後、4匹の魔物の素材を剥ぎ、心臓を結晶化した。
手に入れた素材は、爛れ馬の尻尾、胃袋、肝がそれぞれ3つずつ。
不気味花の花びらが5つ、雄しべ5つ、雌しべ1つ。
手に入れた結晶はCランクが3つ。Dがひとつ。
《ボーナス》に関しては以下の通り。
《ボーナス》 スタミナアップ(小)×2
《ボーナス》 ポーション効果上昇
《ボーナス》 麻痺耐性
「さて、……砂埃を抜けてムールの洞穴に向かおうか」
立ち上がった俺がそう言うと、
「……うん、行こう」
と西の方角を見据えてマトイが頷いた。
現在のステータス
愛称:皮剥のピギー
種族:人間
同伴者:マトイ(忌み子)
所属ギルド:ハングリー・バグ
パーティー名:【子豚】
所持金:金貨42枚、銀貨46枚
所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ
ラージクラブ
爛れ馬の結晶×3 尻尾×3 胃袋×3 肝×3
不気味花の結晶、花びら×5 雄しべ×5 雌しべ
所有スキル:修理士、ポーション生成、調合、魔術フレア
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