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三姉妹

 



 フリューゲルさんに頼まれて、ある日の昼間、ギルドに顔を出していた。


 「すまないな、ピギー。このギルドには困っている冒険者が割とたくさんいるんだ」


 フリューゲルさんは少し申し訳なさそうにそう言った。


 ギルドには十数人の冒険者が集まっていた。

 その殆どがEとFランクの低級冒険者たちだった。


 「あ、あの、すいません」

 俺とフリューゲルさんが話をしていると、冒険者のひとりが声を掛けてきた。

 「武器と防具を無償で直して貰えるって聞いたんですけど、本当ですか……? 」

 「あ、うん。そのつもりだけど」

 と答えると、その男の顔がぱあっと明るくなった。


 「おい、みんな、ほ、ホントだってよ……! 」

 とその男は背後にいたパーティメンバーらしきふたりにそう叫んだ。

 「ほ、本当に……? 」

 「嘘じゃなかったんだ」

 と残りのふたりが勢い良く近づいてきた。


 「おいおい、お前ら、そうがっつくな。……それじゃあピギー、お願いしても良いか? 」 

 とフリューゲルさんが集まった野次馬を制しながら言う。

 「全然良いですよ。じゃあ、この剣から行くね」

 俺は先頭にいた男の剣を受け取って言った。


 俺にとっては別になんの苦もないのだ。

 ただ、剣のうえに手を這わしているだけに過ぎない。

 さっとひと撫ですると、ぼろぼろに刃こぼれしていた男の剣は新品同様に綺麗になった。


 「……嘘みたいだ。本当に修復されてる……」

 「ていうかこれ、完全に新品じゃないか……? 」

 剣を受け取った男が言った。

 「これ……ほんとにただで良いんですか……? 」


 男の顔には微かな怯えがあった。

 多分、これが無償で受けられることに驚いているのだろう。


 「全然良いですよ。ギルドの仲間から金を取るわけにいきませんし」


 そう答えると、


 「……これ、無償なのは今回限りですよね……? 」

 

 と男が質問を重ねる。


 「ああ、いや――。もし武器や防具が劣化したら、それを店の隅っこに置いておいてくれれば、立ち寄ったときに全部直しておきますよ」


 と、そう答えると、店のなかにどよめきが起こった。


それから、先頭の男の顔がみるみるうちに泣き崩れていった。


 「良かった……、これで、武器を修理するだけの生活から抜けられる……」


 なんのことかわからず、俺はフリューゲルさんの顔を見上げた。



 ……


 

 フリューゲルさんによれば、低級冒険者たちは武器や防具の修理に追われるひとが多いのだという。

 クエストを受注して、それを達成しても、その冒険で劣化した武器の修理にクエスト報酬の大半が奪われる。

 次にクエストを受注しても、同じことが起こり、いつまで経っても低級冒険者から出られない。

 あまり良くない職の才能を持ってしまった冒険者たちは、この悪循環から抜け出せずに低域を彷徨うのだという。


 「言いにくいんだが、うちのギルドは弱小とあってな、そうした悪循環に陥っている冒険者がたくさんいるんだ」

 フリューゲルさんがそう言って頭を掻いた。

 「それだけに、今後ピギーから無償で武器や防具の修復が受けられるとなると、あいつらには涙が出るほど嬉しいというわけだ」

 「なるほど……」


 俺は武器の修理には困らなかったが、冒険の始めに苦労する気持は良くわかる。

 戦闘職でない「修理士」を持ったために、敵と戦うのに苦労するハメになった経緯もある。

 それだけに、彼らの気持ちは痛いほどよく分かるのだった。



 「あの、みなさん」

 と俺は集まった十数人に向けて声を挙げた。

 「この建物の隅に修理箱を用意しておくので、クエストが終わった後、直して欲しい武器や防具があったら、そこに入れておいてください。定期的にここに立ち寄って直しておくので」

 

 言い終わると、ちいさな歓声が起こった。

 嘘偽りのない彼らの歓びが、ひしひしと伝わってきた。

 多分、よほど長い間悪循環から抜け出せなかったのだろう。


 「……ピギー。俺からも礼を言うよ。まさかあの日、門で出会ったお前にここまで世話になることになるとはな。……ありがとう。心から礼を言う」

 「フリューゲルさん……」


 フリューゲルさんは親しみを込めて、俺の背中に手を当てて微笑んでいた。




 ……



 「あ、あの」

 ギルドを出たときのことだった。

 ひとりの美少女が後ろから声を掛けてきた。さっき武器を直している間、人混みの後ろのほうにいた女性だ。


 「は、はいっ」

 と、思わず声が上擦る。


 (もともと女のひとに慣れていないのもあるんだけど……)

 (エルフのひとたちはあまりにも美人過ぎるんだよな……)


 俺に声を掛けてきたその女のひとも、現実世界では見たことがないほどの美女だったのだ。


 「わたくし、エフィーと申します。先程はわたくしの剣を直して頂いてありがとうございました」

 「いえ、全然、なんともないです」

 「あの、ピギーさんと、マトイさんは、パーティ名はもう決めていますか……? 」

 「パーティ名か……」

 俺は隣に立つマトイにちらっと視線を送った。

 すると、

 「……子豚」

 とマトイが勝手に答えた。

 「子豚、ですか……」

 「そう。私たちのパーティ名は、子豚」



 (マトイ、勝手に決めたな……)

 (子豚か……)

 (まあ、別に良いけど……。どこまで行っても、俺はピギー(子豚)なんだな……)


 そう思い、俺はひとりで苦笑いしていた。



 ガチャッ。

 そのとき、エフィーさんの後ろからフリューゲルさんと二人の少女が出てきた。


 「おう、ピギー。エフィーと話をしていたのか。丁度良かった。この美人3姉妹を紹介するぜ」

 フリューゲルさんは横にいた二人の女の子を俺の前に促した。

 エフィーさんとそのふたりが並ぶと、確かに三人は良く似た容姿をしていた。



 (ティスタさんやマトイも美人だけど、この三人はまたさらに美人だな……)

 (エルフのひとたちはみんなそうだけど、肌がものすごく美しい……)

 (ものすごく透き通っていて、睫毛もすごく長い……)



 クスッ。

 「……そんなに見ないでください」

 とエフィーさんが笑った。

 「あ、ご、ごめんなさい」

 慌ててそう頭を下げる。

 「……いえ、嬉しいです。そんなに見てもらえて」

 からかうように、エフィーさんが言った。

 「おいおい、ピギー。エフィーが気に入ったのか? じゃあ今度、俺主催で食事会を開いてやろうか? 」

 「いやいや、とんでもないです。困ります」

 と思わず、パニクってそう言う。

 「……え、嫌なの、ですか……? 」

 とエフィーさんが若干困り顔で言う。

 「ああ、いや、そうじゃなくて。ぼ、僕は、その、女のひとに慣れていなくて……」

 と、言わなくて良いことまで、喋ってしまう。

 

 

 クスッ、

 と笑うと、エフィーさんが俺に一歩近づいてきて、俺の手を取って言った。

 「……ピギーさん。武器を無償で直してくれたことは本当に、本当に感謝しています。もしよろしかったら、今度、わたくしたちとぜひ食事をしてください。フリューゲルさんが主催しなくても、わたくしたちが自らん望んで行きたいのです。これは、嘘偽りのない気持ちです」

 そう言うと、エフィーさんは深々と頭を下げた。

 さっきまでのからかうような調子とは違い、それは真摯な態度だった。



 「こ、こちらこそ、ぼ、僕で良かったら……」

 と答えると、

 

 「わたくしたちのパーティーは低級で彷徨い、武器や防具の修理費が賄えなくて本当に苦労していたのです。

 でも、今日でそれが終わると思うと……。

 ピギーさん。このことはいくら感謝してもしきれません。ありがとう、本当にありがとう……」


 エフィーさんは俺の手を額に当てて、若干、声を振るわせていた。

 ……多分、本当に低級で彷徨う冒険者の暮らしが辛かったのだろう。


  

 「ピギー。これは逃げられないな。男としては、行かないわけにいかない」

 と若干楽しそうにフリューゲルさんが言った。

 「わ、わかってます。エ、エフィーさん。ぜひ、今度、食事に行きましょう」

 なにか愛の告白をしているようで、恥ずかしくなりながら、そう言う。

 エフィーさんは顔を上げ、


 「ええ、ぜひ」

 

 とにっこりと笑うと、軽く頭を下げ、残りの姉妹を連れて去っていった。


 (美人三姉妹か……)

 (確かに、ものすごい美人の姉妹たちだったな……)



 と、彼女たちが去っていっても俺はしばらくその方角を見つめていた。




 ……



 


 

 「そうそう、ピギー。お前に渡したいものがあるんだ」

 と、フリューゲルさんが急に言った。

 「ちょっとここで待っていてくれ」


 ……三分後、フリューゲルさんが重たそうにあるものを引きずってギルドから出てきた。


 「なんですか、これ……? 」

 「これはラージクラブだ」

 「ラージクラブ……」

 「ああ、だけど、俺には重たくて持てねぇ。だけど、意外とお前なら扱えるんじゃないかと思ってな」

 

 そう言われ、俺はラージクラブを握った。


 (確かに……、結構重いな……)

 (……だけど、持てないわけじゃない……)


 そしてそれを持ち上げてみると、案外簡単にひょいっと持ち上がった。


 「……お前、すごいな。俺は全然持ち上がらなかったぞ」

 フリューゲルさんが若干呆れてそう言う。

 「最近、ちょっと激しく筋トレしていたもので……」

 「筋トレ? どんだけ筋トレしたんだ、お前……? まあ良いから、ちょっと振ってみろよ。試しにさ」


 フリューゲルさんにそう言われて、俺はラージクラブを持ち上げて、それを振り下ろしてみた。


 ヌンッ


 という、不穏な風を切る音がした。


 

 (かなり重いが……、余裕で振れる……。まるで、カラーバットを振るみたいだ……)



 「おー、調子良さそうだな」とフリューゲルさんが言う。「お前にお礼がしたくてな、ちょっと友人のつてを借りてそれを輸入するよう頼んでおいたんだ。エルフの国にクラブ系の武器はないからな」


 「ありがとうございます……」


 そう答えながら、


 (重みがある分、確かにこっちのほうが俺には合ってるかもな……)


 (剣のスキルはないから、力づくで重いものを振り回したほうが、敵にはダメージが与えられるのかも……)



 「そんな重たいものを頭部に振り下ろしてみろ」


 ブンブンとラージクラブを振り回す俺を見て、フリューゲルさんが満足そうに言った。



 「敵のやつ、きっとひとたまりもないぜ」



 俺はラージクラブを掲げて持ち、この武器で敵の頭を粉々に粉砕する場面を頭に思い浮かべていた。


 (確かに……)

 

 (この武器、俺に合っているかもしれない……! 





 現在のステータス




 愛称:皮剥のピギー

 種族:人間

 同伴者:マトイ(忌み子) 

 所属ギルド:ハングリー・バグ

 パーティー名:【子豚】

 所持金:金貨42枚、銀貨46枚

 所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ

     ラージクラブ

 所有スキル:修理士、ポーション生成、調合、魔術フレア





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