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喰い



 さて、採ってきた結晶を喰い始めた。

 

 現在、結晶は全部で102個ある。

 さすがに一日で全てを食べ終えることは出来ない。約一週間掛けて食べていった。



 持っている結晶を整理すると、基礎ステータスのアップに貢献しそうなものがこれら。



 《ボーナス》 魔術量増加(中)

 《ボーナス》 魔術量増加(小) ×18

 《ボーナス》 防御力アップ(小) ×8

 《ボーナス》 攻撃力アップ(小) ×2

 《ボーナス》 スタミナアップ(小)×13

 《ボーナス》 毒耐性(小)×6

 《ボーナス》 マヒ耐性 ×6

 《ボーナス》 敏捷性アップ(小) ×6



 これだけで60個の結晶がある。

 魔術量増加が19個あり、スタミナアップや防御力の向上も期待出来る。

 俺はそもそも殆ど魔術量を有していないから、これで、多少は魔術が使えることになる。

 「職業」をまたげないこの世界では、それだけで異例のことと言える。


 これら60個の結晶を3日掛けて食べ終えた。

 スタミナアップの効果が高いのか、身体から力が漲ってくるのを感じた。

 それと、もうひとつ気づいたことがある。


 (ボーナスと、結晶自体の効力は、また別なのか……)


 これら60個の結晶を食べたことで、さらに俺の筋力が増加していることに気づいたのだ。


 (クレイモアがさらに軽く感じる……)


 まるで爪楊枝を持っているような感覚だった。



 (さらに重量の重い武器に手を出しても良いかもな……。金にも余裕が出てきたし……)


 片手で軽々とクレイモアを振り回しながら、そんなことを考えていた。



 それから、新しくスキルの得られる結晶を食べていった。


 

 《ボーナス》 調理師スキル“調理”獲得

 《ボーナス》 スキル“ポーション生成”獲得

 《ボーナス》 調合士スキル“調合”獲得

 《ボーナス》 魔術“フレア”獲得


 

 以前温存しておいたフレア獲得の結晶は、このときに喰った。


 (あとは……調理スキルというのは、多分料理のことだろう……)

 (ポーション生成もわかる‥…)

 (だけど、調合っていうのはなんだろうな……。わからない……)


 マトイに聞いてみると、この世界には調合士という職業があるらしい。

 主に爆薬や火薬を生成する職業で、大量の魔物を燃やしたり、罠に掛けたりする道具を作るのに必須の職業なのだと言った。

 

 

 「……街の市場に、調合用の素材が売っている店がある。今度、そこに、行く……? 」

 とマトイが教えてくれた。

 「そうだな。結晶をすべて食べ終えたら、次の冒険に行く前にその準備もしてみようか」

 「うん。どんな爆薬が作れるか、楽しみ」

 とマトイは好奇心で目を輝かせていた。


 

 最後に、スキル能力の上昇や、冒険に役立ちそうな結晶を食べていった。




 《ボーナス》 所持荷物量上昇(小) ×5

 《ボーナス》 所持物腐敗速度減少(小) ×4

 《ボーナス》 調理品質上昇(小) ×2

 《ボーナス》 調合士スキル上昇(小) ×3

 《ボーナス》 ポーション効果上昇 ×3

 《ボーナス》 皮剥速度上昇(小) ×4

 《ボーナス》 薬草調合時効果アップ(小) 

 《ボーナス》 高ランク結晶獲得率アップ(小)



 まず、気になるのは高ランク結晶獲得率アップだった。

 効果は(小)だが、これと同じ結晶をもっと食べれば、いずれは高ランクの結晶ばかりが採れるようになるのだろうか。

 

 (だとしたら、どれだけ強くなっちゃうんだ……? )


 それから、所持荷物量上昇と、所持物腐敗速度減少も嬉しかった。

 これがあればもっとたくさんの素材を持ち帰れるし、時間による劣化も少なくなる。つまり、さらに稼げるようになる。


 あとは皮剥速度上昇も嬉しかった。

 皮剥の最中は結構無防備になるから、出来ればもっと早く剥ぎたかったのだ。

 

 残りの調理品質の上昇や、調合士スキルの上昇は、試してみないとわからない。

 

 (それに関しては次の冒険の準備のときに試してみるか……)



 さて、最後に、


 《ボーナス》 呪い耐性(小)


 をマトイに渡してみた。



 「……これを、私が喰うの……? 」

 俺はこくりと頷く。

 「もしかしたら、耐性が出来て、今かかっている呪いも少し和らぐかもしれない」

 「……なる、ほど……」

 

 いぶかしそうにしていたマトイだったが、徐々に目を輝かせて結晶を見つめた。



 ……

 


 その日は、ふたりで一緒に結晶を食べた。

 マトイは初めて喰うから、最初はかなり警戒していた。


 「これ、どうやって食べるの……? 」

 俺は結晶のひとつを口に運び、喰い方を見せてあげた。


 「果物を食べる要領に似てるよ。噛めば、口のなかに液体が溢れてくる」

 「……美味しいの? 」

 「かなり美味しいよ」

 

 そう言うと、マトイは結晶を慎重に口に運び、それを齧った。

 すると、

 「……美味しい……! 」

 と顔を上げた。

 「だろ? 欲しかったら、ほかのもあげるよ」

 呪い耐性(小)を喰い終えたマトイは、俺に促されるままに別の結晶にも手を伸ばした。

 そしてその結晶も、

 「……すごく、美味しい……」

 と喜んで喰っていた。



 ……



 異変があったのは、マトイが2つ目の結晶を喰い終えたときのことだった。


 「……どうしよう、くらくらする」

 とマトイが顔を真っ赤にさせて俺を見つめたのだ。

 「マトイ、酔ってるのか……? 」

 潤んだ目で、マトイが俺を見つめる。

 「……うん、たぶん……」

 そして、そのままふらっと俺に肩にもたれ掛かってきた。


 (マトイは酒が強いから酔わないと思ったが……)

 (結晶の酔いはまた別らしいな……)


 マトイはしばらく、辛そうに俺の胸に額を当てていた。

 皮膚の上からも、マトイの熱が伝わってくる。

 「……はあっ、身体が、すごく熱い……! 」


 (マトイ、辛そうだな……)

 (かなり身体が熱くなってる……)


 

 そのとき、マトイが急に俺の胸元で顔を上げて言った。


 「……ピギーは、ティスタさんみたいなひとが、タイプなの……? 」


 「……ん、なに? 」



 そう聞き返すと、突然マトイががばっと立ち上がった。

 それから、すたすたとベッドに向かい、布団にくるまって、

 「……おやすみ」

 と言って眠り始めてしまった。


 「ちょ、……マトイ? 」

 そう聞くが、マトイはもう返事をしてくれなかった。


 「な、なんなんだ……? 」


 (一瞬だったから良く聞き取れなかったが……)

 (ティスタさんが好みかって聞かれたような……)

 (……どういう意味だ……? )


 (そりゃあ、ティスタさんは、美人だとは思うけど……)


 「おーい、マトイ……? 」


 その後、いくら声を掛けてもマトイは返事をしてくれなかった。



 (……マトイ、酔っ払っているせいか、顔が真っ赤だったな……)


 (まるで、すごく恥ずかしがっていたような……)



 ……



 その翌朝、俺が目覚めるとすでにマトイが起きていた。

 どこかに出かけていたのか、俺がベッドから起きた時にちょうど部屋に入ってきた。


 「どこか行っていたのか、マトイ? 」

 すっかり酔いの覚めたマトイは、真剣な表情で頷く。

 そして、

 「……これ、見て」

 と自分の腕を指し示した。

 「どうした? なんだ? あ、これ……」

 マトイが再び頷く。

 「ほんの僅かにだけど、呪いの痣が引いてる」

 マトイの腕に蛇のように這っていた痣が、ほんの少しだけ後退していたのだ。


 「……呪いの力が弱まったおかげで、少し能力を取り戻した」

 とマトイが言った。

 「能力? なにが出来るようになったんだ? 」

 「……“麻痺(パラライ)”の範囲を拡大出来るようになった」

 「拡大ってことは、複数相手に“麻痺”が掛けられるってこと? 」 

 マトイが静かに頷いた。


 (麻痺の範囲拡大か……)

 (それ、結構便利かもな……)

 (これで、複数の敵とも戦えるようになる……)

 (というか、やりようによっては、青蛇も駆除出来るんじゃないか……? )


 と、そんなことを考えていると、

 

 「……あと、多分、呪いの効果が弱まったことで、呪いを掛けられた経緯についても少し話せるようになったと思う」

 とマトイが言った。

 「ほ、本当か? 」

 「……うん、多分」

 「じゃ、じゃあ、呪いを掛けられた経緯について、話してくれ」


 そう言うと、マトイがこう話し始めた。



 「あれは日曜の夜のことだった」



 「……」

 「……」


 いくら待っても続きを話さないマトイを俺はじっと見つめていた。

 だが、マトイはどれだけ待ってもなにも話さなかった。


 「……え? もしかして、終わり……? 」


 

 若干恥ずかしそうに、マトイがこくり、と頷いた。






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