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奇蹟



 翌日、俺とマトイはエイラさんに連れられて街の裏通りを歩いていた。


 エイラさんはかなり入り組んだ道に入っていった。


 (こんな方に道があったんだな……。初めて来るな……)


 フリューゲルさんの食堂から10分ほど歩くと、とあるおどろおどろしい一軒家に着いた。

 屋根は腐り、家全体は斜めに傾いていた。庭の草は腰丈ほどにまで伸びている。


 「着いた。ここだよ」とエイラさんが言った。「さあ、入ろう」


  

 エイラさんが入り口のドアをノックすると、中から召使いらしきひとが出てきてドアを開けてくれた。

 そのひとに促されて、家のリビングへと向かった。

 そこには、大きなテーブルに着いたひとりの老人がいた。

 

 「……来たか、ほら、座りな」

 その老人が小さい声で言った。

 体調が良くないのか、しきりに咳をしている。

 「……エイラ」

 と言ったあと、老人は激しく咳き込み、「オェェ……」と嗚咽し、「ペッ」とテーブルに置いてあった痰壺らしきものに痰を吐いた。

 緑色の濃い塊が老人の口から出てくるのが見えた。


 (なんか……)

 (すごい爺さんだな……)

 (頭は禿げ散らかしているし、顔色もものすごく悪い……)


 「……そいつが例の坊やか? 」

 その老人が言った。

 「そうです。そうは見えないでしょう? 」

 「……わしはお前は信用している。疑いはせんよ」

 そう言うと、老人はぎろりと俺を見つめた。


 「ピギー君。君の採ったという魔物の素材を見せてもらったよ。エイラに素材を売っていたのは君で間違いないね? 」

 「は、はい。間違いないです」

 案外丁寧な口調で話す老人に戸惑い、若干緊張気味に俺はそう答える。


 「わしはいろんな国で魔物の素材を扱う素材屋をやっているものだがね……」

 「このひとはこの道では有名なひとだよ」とエイラさんが口を挟む。

 「……この業界に長くいるだけさ。わしの名はゾフというんだが、今回は行商でたまたまこの国にやってきたんだ。正直に言えばエルフの国に期待していたわけではない。あまり皮剥をする民族ではないからね。……だが、君の採ったという素材に出会った」

 「は、はあ」

 「……今日は素材を持ってきてくれているという話になっているんだが、持ってきてくれているかな? 」

 「あ、今出します」

 エイラさんに言われて、俺は前回の冒険で採ってきた素材を持ってきたのだ。

 リュックに詰めてあった素材をひとつずつテーブルに載せていく。

 「……見ても良いかな? 」とゾフさん。

 「ど、どうぞ」


 そう言うと、ゾフさんが爛れ馬の肝を手で掴み、それをじろじろと見つめ始めた。


 (なんか、緊張するな……)

 (こんなふうに誰かに鑑定されたこともなかったし……)


 

 「少し時間が経ってはいるが……」

 とゾフさんが顔を上げた。

 「……素晴らしい腕前だ」

 それから、再び夢中で素材を眺め始めた。



 「わしは長年この業界にいるが、これほどの高品質の素材には滅多にお目に掛かれない。よほど熟練した皮剥士か、様々な偶然が重なって採れたとかでなければ、これほどの物は手に入らない。……ピギー君、これはあまりにも綺麗過ぎる。なにか特別な採取技術があるのかね? 」

 「あ、いえ……」

 と、思わず俺は言い淀んだ。


 (修理スキルについて話した方が良いんだろうか……)

 (そうなると、結晶についても話さなくちゃならないことになりそうだが……)



 そう戸惑っていると、

 ……クスッ 

 とゾフさんが微笑んだ。

 「……君の特許を暴こうという気はないんだ。言えないのなら言わなくて構わないよ」

 「す、すみません」

 「……優れた職人はみんな優れた独自の技法を持っているものだ。それを話さないからと言って怒りはしないよ。それより、エイラ。これらの素材をいくらでピギー君から買い取っていたんだね? 」

 俺の隣に立っていたエイラさんが大体の値段を口にした。

 「……まあ、普通はそんなものだろう」とゾフさん。

 「ゾフさんなら、いくらつけますか? 」

 「少なくともその三倍は払うね」

 「さ、三倍ですか……? 」 

 と、思わず口に出てしまう。

 「それほどこれは素晴らしいものだよ」とゾフさんがにやりとして俺を見た。「ピギー君。君は自分の腕前の素晴らしさにまだ気がついていないようだ。この道で生きる人間にとってこの品質は天才の腕前と言って良い。これほどの素材を卸せる皮剥士は世界中を探しても5人はいないだろう」


 ゾフさんは立ち上がると、素材を一つずつ検分し始めた。

 

 「……ふふ、どれを取っても素晴らしい素材だ……」

 「……私にとってはどれほど美しい宝石よりもこの方が美しい……」

 「……これは臭い蟹の肝か……。一切の傷がない……、殆ど奇蹟だ……」



 ぶつぶつとそう言いながら、ゾフさんは素材の値段をつけていった。


 そしてゾフさんの提示した金額は以下の通りだった。


 爛れ馬の肝が銀貨21枚の買取で、それが26個ある。計銀貨546枚。

 爛れ馬の胃袋が銀貨18枚、それが26個ある。計銀貨468枚。

 爛れ馬の尻尾が銀貨15枚。それが26本ある。計銀貨390枚。

 不気味花の花びらが銀貨9枚。それが40枚ある。計銀貨360枚。

 不気味花の雌しべが銀貨24枚。それが8本ある。計銀貨192枚。

 不気味花の雄しべが銀貨12枚。それが40本ある。計銀貨480枚。

 ヘドロ岩のヘドロ玉が銀貨27枚。それが2個ある。計銀貨54枚。

 臭い蟹の肝が銀貨30枚。それが29個ある。計銀貨870枚。

 臭い蟹のハサミが銀貨36枚。それが2個ある。計銀貨72枚。

 鬱魚の腸が銀貨27枚。それが11個ある。計銀貨297枚。

 ドロ貝の殻が銀貨21枚。それが9個ある。計銀貨189枚。


 すべて合計すると、銀貨3918枚。

 金貨に交換すると、金貨39枚、銀貨18枚となる。


 

 ジャラリ……

 とゾフさんがテーブルの上の高級な布のうえに硬貨を置いた。

 「……さあ、ピギー君、受け取ってください」

 

 思わず、息を飲んだ。

 

 (銀貨3918枚、金貨にすると39枚と銀貨18枚……)


 その金額の高さに頭がクラクラとしてきていた。


 

 それを見たゾフがさんが優しげに微笑み、

 「……君にはこれだけの金額を受けとる才能がある。どうか、萎縮しないで欲しいね。これは優れた才能に見合った金額だよ」

 「良かったな、ピギー」

 隣に立っていたエイラさんが俺の背中をポンッと叩いた。

 

  (う、嬉しい……)

 と俺は思った。

 (嬉しいなんてもんじゃない……)

 (外れ職と言われた修理士で、こんなに稼げるようになるのか……)


 俺のなかで、ふつふつと熱いものが込み上げてきていた。

 それは、こんなふうに言葉に変わった。


 (どうだ……やった、やったぞ……)

 (俺だって、やれば出来るんだ……。俺は、才能なしなんかじゃないんだ……)


 ふとマトイの方を見遣ると、マトイがこくり、と頷いた。

 まるで俺の考えていたことを見抜いていて、「……その通り」と肯定してくれているみたいに。


 「……いただきます」

 とはっきりした口調で硬貨に手を伸ばした。

 ゾフさんは、「それで良い」というように深く頷いていた。


 

 ……



 「ピギー君」

 取引を済まして屋敷を出ようとすると、ゾフさんに呼び止められた。

 「また素材が手に入ったらここに売りにおいで。しばらくはこの街にいるから」

 「わかりました。近々、また来ます」

 ゾフさんはニッコリと微笑んだ。

 「それと、……魔物の結晶は見たことがあるかい? 」

 と言った。

 「結晶、ですか……? 」

 俺はとっさに、知らないふりをした。


 

 (結晶についてはなるべく他言しないほうが良いからな……)

 (一応、知らないふりをしておこう……)


 

 「そう、結晶。なんでも傷一つ無く魔物の心臓を取り出すと得られるという結晶なんだがね、君ほどの腕前でも見たことがないかい? 」

 「……今のところ、ありません」

 そう嘘をつく。

 「……そうか。まあ、優れた皮剥士が一生に一度見られるかの代物だ。……そう簡単には見つからないか」

 とゾフさんが諦めたように言った。


 (一生に、一度……? )

 (あれって、そんなに貴重なものだったのか……)

 

 

 「結晶は喰ったひとの初期ステータスを底上げしてくれる。そんなものはこの世界にほかにはない。……ピギー君、もし見つけたら、ぜひここに持ってきておくれ」

 「は、はい……」

 そう答えて、店を出た。


 (そんな貴重なものを、俺はばくばく喰っていたのか……)

 (そりゃあ、強くなるはずだよな……)



 ……



 ゾフさんの屋敷の外に出ると、

 「良かったな、ピギー」 

 と改めてエイラさんが言ってくれた。

 「いえ、こちらこそ。それより、エイラさんは良いんですか? 今後はゾフさんに素材を売ることになりそうですが……」

 「構わないよ」とエイラさんが怪しく笑った。「君を紹介することでかなりの報酬をもらったからね」

 「ああ、そういうこと、ですか……」

 若干呆れてそう言うと、

 「ちょっと、呆れないでくれよ。俺も業者なんだからさ、稼がなきゃ食っていけない。ピギーにとっても美味しい話なんだから、別に良いだろ? 」

 「まあ、良いですけど……」

 

 多分、かなりの報酬を貰ったのだろう。

 エイラさんはじーっと見つめる俺とマトイの視線にかなり狼狽していた。


 「……金の亡者め」

 と、最後にはマトイに嫌味を言われていた。

 「うぐっ……」

 痛いところを突かれたのか、エイラさんは胸に手を当ててのけぞっていた。



 

 その後、三人でフリューゲルさんの食堂に行って食事をした。

 フリューゲルさんに事情を話すと、「高級食材で美味い飯を作ってやる」と言って買い出しに行ってくれた。

 その食材で、フリューゲルさんは高級レストランで出るような最高級のディナーを作ってくれた。

 なんでも、以前は有名な人気店でシェフをやっていたらしい。

 それは、過去に食べたことがないほどの素晴らしい料理の数々だった。

 「さすがに、美味いな……」とエイラさんが呟くと、

 「うん……」

 とマトイも言葉を失って感動していた。


 

 食事の後、

 「……エイラさん、払ってくれるよね」

 食べ終えたマトイが睨むようにエイラさんに言った。

 「……やっぱり、俺が払うの? 割り勘じゃなくて……? 」

 「……金の亡者」

 マトイにそう言われると、

 「うぐっ……」

 と再びのけぞり、エイラさんは渋々飲食分を支払っていた。

 でも、拒まないところを見ると、やはりゾフさんから相当な報酬を貰ったのだろう。


 そして後日エイラさんの店に行くと、エイラさんの店は改装して外観が綺麗になっていた。


 「……やっぱり、相当貰ったみたいだな」

 呆れてそう言うと、

 「……金の亡者」

 と目を細めてマトイが呟いた。



 

 

 現在のステータス




 愛称:皮剥のピギー

 種族:人間

 同伴者:マトイ(忌み子) 

 所属ギルド:ハングリー・バグ

 所持金:金貨42枚、銀貨60枚

 所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ







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