祝い
翌日の夜、マトイと一緒にフリューゲルさんの食堂に向かって歩いた。
(お祝いか……)
(考えてみたら、両親以外のひとに祝ってもらうのも久しぶりのことだ……)
俺は子どものころに開いた誕生日会のことを思い出していた。
(子どものころはまだある程度、友達がいたんだよな……)
(だけど、それがいつからか、ひとりぼっちになってしまった……)
俺は小学校の高学年くらいまでは、少ないながら友人がいたのだ。
だが、その年齢くらいから、周りに容姿でからかわれるようになる。
俺は自分が受けてきたイジメの数々を思い出していた。
(こういう記憶って、多分一生消えないんだろう……)
「……ピギー、緊張してる……? 」
様子のおかしい俺を心配したのか、マトイが俺の袖を引っ張った。
「いや、なんでもないよ」
と答える。
「……私がついてる。大丈夫」
とマトイがほんのりと微笑む。
(これ、多分、俺がフリューゲルさんたちに会うのに緊張していると思われたな……)
(そうじゃないんだけど……)
(でも、まあ、心配してくれるのは嬉しい……)
「ありがとう。マトイ。今日は楽しもう」
と笑いかけると、
「……うん。私も、楽しみ」
とマトイは子供っぽく微笑む。案外、こういうところはまだ子どもなのだ。
(今でも友人が多いわけではないが……)
と若干スキップ気味に歩くマトイを見ながら俺は考えていた。
(ごく少数でも、本当に信頼出来る仲間がいる今が、俺はなにより嬉しい……)
「……フリューゲルさんのご飯、美味しい。私、楽しみ」
と振り返ってマトイが拳を振った。
「……うん、俺も楽しみだよ」
と思わず笑顔になって、俺も答えた。
……
「ピギー、なんでも言ってくれ」
と、食堂に入るなりフリューゲルさんにそう頭を下げられた。
「ちょっと待ってください。なんですか、いきなり」
「まさかティスタたちがピギーに助けられるとはな。完全に俺の読み違いだった。だがな、ピギー。あいつらが世話になって、ただで返すわけにはいかねぇ。お前の頼みならなんでもするつもりだ。さあ、ピギー、なんでも言ってくれ」
「大袈裟ですよ。別に、大したことはしていません」
「いや、そういうわけにはいかん。ただで返したんじゃ、俺の面目が立たねぇ」
フリューゲルさんは真剣な表情で俺を睨んでいた。
(多分、ギルド長ということもあって、こういうところはしっかりやらなきゃいけないんだろう……)
(正直、こうやってかしこまられる方が困るんだけどな……)
フリューゲルさんの横に立つティスタさんと目が合った。
ティスタさんはやれやれというように肩をすくめた。
思わず、俺は苦笑いする。
(いや、あんたを助けたからフリューゲルさんが頭を下げているんだろう……)
(だけど、ティスタさんのこの気軽さが、俺は好きなんだよな……)
「じゃあわかりました。僕からのお願いを言います。このギルドに僕らを入れてください」
「……そう言うと思ったよ」
とフリューゲルさんが頭を上げた。
「僕からのお願いはそのくらいしか無いですよ。本当に、気にしないでください」
「……わかった」
と渋々フリューゲルさんが頷く。
「だが、こっちからのお礼はこっちで勝手に考えることにする。このままじゃお前はなにも要求してこなさそうだからな」
「お礼も、本当にいらないのですが……」
「ギルドに加入したいという話だが、突っぱねる理由がない。ぜひ入ってくれ」
すると、再びフリューゲルさんが深々と頭を下げた。
「え、は、はいっ。こちらこそ、よろしくお願いします」
と俺も慌てて頭を下げる。
横を向くと、マトイもきちんと深く頭を下げていた。
「はいはい、じゃあ堅苦しい話は終わりにして、お祝いを始めよっ」
ぱんぱんと手を叩きながらティスタさんが言った。
「お前がしくじったからこうなったんだろうが……」
とフリューゲルさんが睨む。
「あはは。そうだった……。でも、良いじゃん。みんなハッピーになれたんだから」
とティスタさんが狼狽しながら答える。
「お前はお前で、俺になにか礼をしろよ」
とフリューゲルさんはティスタさんを睨みつけていた。
「ま、まあまあ……」
とティスタさんは珍しくたじたじになっていた。
……
その後、キースさんとユリも含めたみんなでギルドに加入したお祝いをしてもらった。
食卓にはフリューゲルさんの手料理が並び、食後にはケーキも出てきた。
ティスタさんは「とっておき」と言って高価なお酒を取り出し、それをみんなに無理矢理に飲ませていた。
(つくづく、優しいひとたちだよな……)
と酔っ払った彼らを見ながら俺は考えていた。
(このひとたちは、決して俺の容姿のことを言わない。醜いとか、気持ち悪いとか、顔にすら出さない……)
(このひとたちといると、そんなこと取るに足らないことだと感じられる……)
「……ピギー、全然飲んでない。ほら、飲んで」
とマトイが黙っている俺に気がついて酒を注いできた。
あれ以来、マトイも若干ティスタさんみたいな酒の勧め方をするようになっていた。
そのときに、危うく俺は泣きそうになった。
涙が込み上げてきて、それが目から零れそうになったのだ。
(やば……)
(楽しそうにしているひとたちの輪にいるだけで、泣きそうになっちゃった……)
(どんだけひととの親密さに飢えているんだ、俺……)
思わず、自分でも苦笑いする。
「それじゃあ、今から、私が一気飲みしま~す」
と、そのとき突然ティスタさんが立ち上がった。
そして、ぐびぐびと直接瓶から酒を飲み始めた。
「いや、酒豪のお前に一気飲みされても……」
とキースさんとフリューゲルさんが引いている。
瓶にあった酒を飲み干していくティスタさんを見ながら、
(ああ、これ……)
と俺はあることに気がついた。
(ティスタさん、泣きそうな俺に気づいて、わざとみんなの視線を集めるパフォーマンスをしてくれたんだ……)
そしてティスタさんは瓶のなかの酒をすべて飲み干すと、微笑んで一瞬だけを俺に頷いた。
まるで、「そういうこともあるさ」というように。
その優しさに、胸の深いところまでぐさりと貫かれる。
(やっぱり、ティスタさんってすげーな……)
(大手ギルドには入れなかったけど、このギルドに入れて、本当に良かった……)
イジメられることで強張っていた俺の心が、このひとたちのおかげで、徐々に開いてくるのを俺は感じた。
(この世には嫌なやつばかりじゃない……)
(本当に良い人たちもいるんだ……このひとたちみたいに……)
……
その後、激しい飲みも一段落つき、ケーキを食べながら真面目な話をした。
フリューゲルさんは俺の「修理士」スキルについて知りたがった。
キースさんやティスタさんがそのスキルの凄さについて熱弁してくれ、それを聞いたフリューゲルさんが興味深そうに頷いていた。
「そう言えば、このギルドに所属する冒険者の武器や防具だったら、いつでも無償で修理しますよ」
と俺は言った。前々から、このことは提案しようと思っていたのだ。
すると、
「……それ、本気で言っているのか? 」
とフリューゲルさんがゆっくりとこっちを向く。
「全然良いですよ。一瞬で終わるので……」
空気が妙に張り詰めていることに俺は気がつく。
「……武器の修理というのは、冒険者たちにとってかなりのネックなんだ。クエストを受注するたびに武器は劣化し、すぐに新しく購入する必要に迫られる。武器や防具の修理が無償で受けられるようになると、冒険者たちはかなり楽になる……」
「しかも」とキースさんが付け足した。「ピギー君の“修理”は修復率が100%ですからね。修理につきものの劣化がない」
「……嘘だろう? 」
「本当ですよ。完全に新品状態に戻る。嘘みたいですけど」とキースさん。
すると、
「……しれん」
とフリューゲルさんが呟いた。
「え? なんですか? 」
と聞き返すと、
「……このギルドにとって、ピギー、お前は本当に救世主になるかもしれん」
とフリューゲルさんは言い直した。
そして、
「ピギー、お前がいれば、この弱小ギルドが大手ギルドを上回る日も、夢じゃないのかもしれない」
と言って立ち上がった。
「大手ギルドを上回る、ですか……? 」
フリューゲルさんは、熱っぽい目で俺を見据え、ゆっくりと頷いた。
コンコン。
そのとき、食堂の入り口のドアをノックする音が聞こえた。
ユリが立ち上がってドアを開くと、そこにはエイラさんが立っていた。
「すまん、すまん、遅れて。……あれ、もうケーキ食べちゃってるんだな。せっかく買ってきたのに」
「遅いぞ、エイラ」とフリューゲルさんが唸るように言う。
「悪い、悪い。ちょっと他国の重役と話していてさ」
「他国の重役? 」とフリューゲルさん。
「うん。まあな。ああ、ピギー。明日お前をそのひとに会わせたいから付き合ってくれ」
「え、僕ですか……? 」
「そう。お前が剥いだ素材を見せたらぜひ会いたいってさ。そのひとは魔物の素材を輸出入する、他国で有名な業者の元締めなんだ」
あっけに取られている俺にエイラさんがこう言って微笑んだ。
「お前の剥いだ素材なら、きっと高く買い取ってくれるぜ」
現在のステータス
愛称:皮剥のピギー
種族:人間
同伴者:マトイ(忌み子)
所属ギルド:ハングリー・バグ
所持金:金貨3枚、銀貨45枚
所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ
腐り木の結晶×18
爛れ馬の結晶×26 尻尾×26 胃袋×26 肝×26
不気味花の結晶×6 花びら×40 雄しべ×40 雌しべ×8
ヘドロ岩の結晶×2 ヘドロ玉×2
臭い蟹の結晶×29 肝×29 ハサミ×2
鬱魚の結晶×11 腸×11
ドロ貝の結晶×9 殻×9
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